35 マジックバッグ
シュバルツが人型を取れるようになって1週間。季節はすっかり初春を迎え、風は冷たいが暖かい日が続いていた。
いつものようにヴァイスとロトは午前中は家畜の世話と畑の手入れ、午後からは果樹園の収穫と森へ狩りに行っている。果樹園は3日間隔で実が成熟するので、収穫がある日は近くの森へ収穫がない日は少し遠くの方へ足を運んでいる。
遠くの山や森に行ったときは珍しい木の実や植物、魔獣を狩って来てくれる。また、家畜にもうもうが増えて食卓がより豊かになった。もうもうのミルクはびっくりするくらい濃厚で、食事をしっかり取れれば量も増える。もうもうは1日に40ℓから60ℓほどのミルクを出してくれる。子牛の分も考えても平均的に50ℓ、つまり牛乳パック50本くらいの収穫がある。よって加熱殺菌加工をして時間経過のないインベントリで保管する。さらにそのミルクでバターやチーズ、生クリームやヨーグルトなどの加工品を作る。それをネットショップで販売すると、びっくりするくらいの価格になった。分かりやすく言うならば、地球で売られている価格の10倍程するのだ。特にもうもうのミルクは味が濃く香りが良いため、大変人気の商品らしい。ネットショップでこの価格なので、実際に現地で売買するともっと高額になるみたい。まあ、する予定はないけど…。
「サエちゃん!洗濯終わったけど、今日は何する?」
「あ、ありがとう!今日は持ち運びのできる食事のストックを作ろうと思うの」
「へぇ、いいね!どんなのにする?」
「今日はトルティーヤもどきを作ろうと思うんだよね」
「ああ、あの小麦粉でつくった生地に野菜と鶏肉を巻いたやつかい?」
「うん、ソレ!」
「じゃあ、僕は鶏肉の処理をしておくね!スモークチキンと唐揚げは定番でしょ?あとは…甘辛く煮た豚肉やスパイスの効いたひき肉でも合いそうだね」
「こっこのお肉とぶーぶのお肉、それからワイルドボアのお肉でいいかな」
「OK!じゃあ先にお肉から調理しておくよ。サエちゃんは座って休んでいて。あとで味見してね!」
それからこのシュバルツ、びっくりするくらいスパダリ感がすごい。どうすごいのかというと、炊事洗濯はもちろん、掃除も完璧。気遣い症なのかとても気配りがすごいし、何より料理がうまいのだ。男性ということで力があるからパンを捏ねさせたら右に出る者はいないし、手間暇を惜しまない為とてもおいしい料理を作ってくれる。もともと群れの食事を担当していたこともあり、感覚というかセンスがあるのだ。料理の本を参考に彼に和食を教えると、見事に私よりもうまく作ってくれたし機転も利く。
「私、トルティーヤを包むラップと生地を作っておくね!」
「ありがとう。下処理したらオーブンで焼いて、鍋で煮るからもう少し待っててね!」
「うん」
シュバルツがお肉の処理をしている間に、ネットショップでラップを購入する。それから、小麦粉をベースとした生地を作る。ホットプレートを出してクレープ生地を焼いていく。味は甘いやつではなく、所謂おやきというやつだ。どんどん焼いていくと、シュバルツが唐揚げを揚げ始めてくれる。
「サエちゃん、口開けて?」
「ん?」
言われた通りに口を開けると、揚げたてのから揚げを味見させてくれる。
「はふはふっ!」
「ごめん、熱かった?大丈夫?」
「大丈夫だよ。このから揚げ、スパイスが効いてるね!」
「うん!食材を包む生地がシンプルな塩味だから、濃い目に味付けしたんだけど。どうかな?」
「すっごく合うと思うよ!でも、揚げたら食べやすいように少しカットしなきゃね」
「うん!軽く刻んで、巻きやすいようにしておくよ!」
「ありがとう。これが終わったらレタスの準備をするから」
「うん。包む具材はバットに入れておくね!」
「はーい」
今日の昼食はそのままトルティーヤもどきにしよう。かなりの量のお肉を出したから、巻くためのクレープ生地は追加をしないと駄目かも…。
そんなことを思いながら午前中を生地作りと、レタスの千切りに使った。昼食に戻ってきた2人の分はシュバルツがサッと具材を入れて巻いてくれた。スープは作り置きしていたミネストローネを軽く温め直して出した。
「ね、サエ。明日からヴァイスと交互に作業をして、最近見つけた山の散策に行きたいんだけど…。いい?」
「交互にって?」
「うん。例えば、明日は俺で、明後日はヴァイス。順番に1人ずつ家畜の世話と畑の世話をして、残りの方が1日山の散策に出たいんだ」
「それは構わないけど…」
「出来れば昼食はこっちに来れないから、軽く何か持って行きたいんだけど…」
「じゃあ、明日から荷物にならないようなお弁当を用意するよ」
「ありがとう!サエ。見回り次いで探索もするから、お土産期待しててね!」
「ふふふ、そうだね。あ、ポーションは必ず持って行ってね!」
「うん!いつもありがとう」
ロトが屈託のない笑顔で、お礼を言うからこっちもつられて笑ってしまう。
「紗英様!容量が決まっているマジックバッグが購入できるようになりましたよ」
「え、ホント?」
「ええ、ネットショップで確認してみてください」
「うん!」
スマートウォッチのネットショップを確認すると、ウエストポーチ型のマジックバックが販売されていた。革製の生地で、大きさがB6サイズくらい。容量は12畳くらいのスペースで、1つ300000Gほどだ。
「300000Gかぁ…」
「うわ、高っ!この性能だと、ギルドでもあんまりお目に掛かれないよね!」
「ああ…。トアキスが持っているのと性能は同じくらいだが、やはり高価なものだな」
ヴァイスとロトが横から覗き込んでくる。
もうもうのミルクのおかげで、資金は潤沢にある。これから散策に行ったりすることが多くなるならば、いずれは必要になるだろう…。
ヴァイスとロト、シュバルツの3人分を購入する。
「えっ!!買うの!?」
「うん」
「3つも購入したら、相当な金額だぞ!」
ヴァイスとロトがびっくりして叫んでいるが、無視して購入完了すると手元に商品が届く。それぞれの中に下級ポーション10本、中級ポーション5本、上級ポーション1本。それからペットボトルの飲料水を10本ずつと、非常食のカロリー〇イトを10個ほど入れる。個包装のチョコレートの大袋を3つ、寝袋と毛布、ブランケットを1セット。それぞれ同じように入れてしまうと、それを手に持ってヴァイスとロト、シュバルツに渡す。
「え?」
「なんだ?」
「僕も?」
「中身はみんな同じものが入っているわ。手を入れると、頭の中に何が入っているかリストが出るみたい」
「いや、待て」
「これ、すごく高いよ!」
「そうだよ。僕、こんな高価なものきっと弁済出来ない」
3人が3人とも青い顔をして、首をプルプル振っている。
「きっとこれから必要になると思う。弁済なんて望んでない。これは私からの贈り物よ」
「でも…」
「いつも言っているけど、もしありがとうという気持ちがあるなら、ケガすることなく無事に帰ってきて欲しい」
「ふっ…」
「あはッ…」
「へへッ」
3人が3人とも急に笑い出す。
「え、何?どうしたの?」
「ううん。俺たち幸せだなーって思って」
「ああ、そうだな。こんなにも大切にしてくれる雇い主兼同居人だ」
「うん!僕たち、最高の主人に出会えたね!」
彼らは嬉しそうにマジックバックを胸に抱えた。
「必ず無事にもどってくるように!」
「「「うん/ああ」」」
私の掛け声に3人の返事が響いた。




