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33 獣人ギルドの2人

私の後ろから出てきた正体不明の男性が、私を隠すように前に立ちふさがり街道にいる2人組の男性に声をかける。


「お前、あの時の獣人か!?」


右の大きい男がびっくりしたような表情で、こっちの男性に声をかけてきた。

周りを見回すと、さっきまでそばに居たシベリアンハスキーのシュバルツの姿がない。ということは、私の目の前の男性がシュバルツ自身ということになる。


「お前、無事だったのか!?…って、痛たッ!」


左の男がこちらに向かって近づいてきたが、見えない壁のようなものに額を打ち付けていた。


「悪いけどそこから先には、君たちは入れないよ」

「どういうことだ?」

「この場所は許された者のみが入れる特別な場所だ。君たちは足を踏み入れる許可が下りていない。話ならこの場で聞くよ」


シュバルツは腕を組みながら、はっきりとそう言い放った。身長のある細マッチョな男性が腕を組むと、中々の迫力がある。


「俺たちは【ブルーメ】の町から来た、獣人ギルドの職員だ。2か月前に【フェーダ】の町で拘束された手負いの獣人を探している」

「…なぜ?」

「決まってるだろ!助けるためだ!」

「なぜ、助けるの?理由は?」

「俺たちが所属している獣人ギルドは、不当な扱いを受ける獣人を保護するために活動をしている。身寄りのない獣人や傷ついた獣人を保護して、自立できるように支援しているんだ」

「へぇ…。それで?」

「俺たち獣人ギルドに所属している密偵から、狼族の獣人が一人フェーダのギルドで拘束されたっていう情報を持ってきてな。獣人ギルドに登録のない獣人が人のギルドに拘束されれば、奴隷の身分にされて不当な扱いを受けることが多い。だからそいつを助けるために、こいつが保護に向かたんだが…」

「彼は傷だらけでボロボロだったのにも関わらず、驚くほど強くて…。結局保護するどころか、逆に返り討ちに合って…」

「ふうん…。そうだったんだ。それはすまなかったね。僕はてっきり、僕を殺しに来たのかと思ってね」

「いや、無事ならいいんだ」

「だが、この森で暮らしているのか?」

「まあ、そうだね。ただ、ここは僕らの主人が許可をしない限り入れない場所でね」

「なら、とりあえずお前は無事に暮らせるってことか?」

「…そうだね」


少し考えたあと、シュバルツはそう答えた。


「私がここの管理人です」


私はここの管理を任されて、この地に来た。私が出るのが筋だろうと思い、シュバルツの後ろからそっと獣人ギルドの男性たちの前に出た。


「あなたがここの管理をしているのか?」

「そうですよ。ここはジパングが管理をしている禁足地です。どの国もこの地への手出しは無用と決められています。貴方がたはそれを、ご存じないのですか?」


ソラが機械のような声色で、獣人たちに話す。


「いえ、存じております。大変失礼を致しました。まさかこの禁足地の森に、誰かが住んでいるとは思いもしませんでした」

「では、もうお分かりですね。この地は一切の手出しが無用の禁足地です」

「はい。我々はこれで失礼します」

「無事でよかったぜ。じゃあ、元気でな!」

「あ、待ってください!」


彼らが頭を下げて去ろうとするのを、私は咄嗟に止めた。

先ほどシュバルツとギルドの男性たちが話しているときに出てきた街の名前、【フェーダ】と【ブルーメ】。どれもが騎獣で2日、徒歩で6日程掛かる場所にある町の名前だった。彼らは騎獣に乗っている様子がなかったので、どうやって来たのかを確かめたかったのだ。


「ん?」

「あの、あなた達はどうやってここまで来たのですか?」

「どうやってって、走って来たに決まっているだろ?」

「人の足だと6日程掛かると聞いていますが…」

「ああ俺たちは獣人だからな。騎獣なんていう大層な魔獣は持っていないさ。それに自分たちの足で走れば2、3日で着くさ。途中にある【ミルヒ】の村で、1度休憩を挟むがな」

「じゃあ、それまでは1日中走りっぱなしなの?」

「まあ、そうなるな」

「その間の食事とかは…?」

「ああ、簡易栄養食があるにはあるが…。味も悪いしもったいないから俺たちは食わずに、ミルヒまで走るよ」

「え?」

「それに今は食糧不足だ。大人の俺たちより、まだ幼い子どもたちを優先に食わせるからな」


そう言ってにかっと笑った男性に、唖然とした。


「あなた達はこの子を捕まえに来たわけではないの?」

「いいや、無事を確認したかっただけさ。必要であれば保護するし、無事ならばそこまでだ。不当な扱いを防ぐのが目的だ。そいつが無事に暮らしているなら、それでいいんだ」

「そう、ですか…」


彼らはシュバルツを心配して、ここまで来てくれたのだろう。それならば、無事を確認したのだから帰るという彼らの主張は筋が通る。


「あの、彼がお世話になったようで…。ありがとうございました」

「礼はいらないさ。俺たちは何もしていない。そいつが無事ならそれでいいんだ」

「あの、これ少しですが帰りに食べてください」


私はそう言って紙ラップに包んだホットドッグを4つと、自家製のドライフルーツを入れて焼いたクッキー2袋を渡す。私がこの領地から出入りする分は制限が掛からないようなので、手だけを出してそっと彼らに渡す。


「これは?」

「ソーセージをパンで挟んだサンドイッチと、日持ちのする焼き菓子です」

「いいのか?貴重な食料だぞ?」

「かまいません。この子の安否を心配して、こんな場所までわざわざ確認しに来たんでしょう?」

「それは、そうだが…」

「この子は私が責任もって、食べるに困らない安定した生活を保障します」

「そうか…」

「よかったな!いい主人に会えて」

「そうだね。僕はここに来て、僕を受け入れてくれて幸せだよ」


ギルド男性に向かって、少し泣きそうな顔で嬉しそうに笑うシュバルツ。

彼も食糧難に喘いでいた人の1人だった。棒切れのようにやせ細って、息をするのもやっとの状態でこの街道に倒れていた。彼を無事に保護出来てよかったと、心からそう思う。


「じゃあ、俺たちはこれで」

「元気でな!」


そう言って、獣人ギルドの男性2人は走って帰って行った。


「よかったのかい?君がわざわざ顔を出す必要はなかったんだよ?それに貴重な食料まで…」

「あなたを心配して、わざわざ来てくれたのよ」

「…うん」

「あなたはヴァイスやロトと同じで、私の大事な同居人よ。そのあなたがお世話になったのなら、私がお礼を言うのは当たり前のことだわ」

「僕はヴァイスたちのように、ここに居てもいいの?」

「もちろんよ。ただし、一緒に暮らしていくんだから、しっかりと働いてもらうけどね!」

「…つ!ああ、もちろんだよ!」

「じゃあ、帰りましょう?」

「うん!」


私たちは笑って、帰路に付いた。

今後あの獣人ギルドの職員たちと長いお付き合いをするのは、もうしばらく先の話である。




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