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昼食を終えて、いつも通りヴァイスとロトは果樹園と森の散策へ向かった。私は農園の奥の4エリアの伐採と除草作業に向かった。今日は街道沿いの南東エリアに向かって進む。横にはシベリアンハスキーのシュバルツが居て、首には先日購入したバンダナを巻いている。
実はこのバンダナ、超高機能なバンダナである。ヴァイスやロトのような獣人は、成人もしくは成人に近くなると人型と獣型を自由に扱えるようになるらしい。けれど、ココで獣人族共通の大きな問題が発生するのだ。それは、服である。人型の時にはもちろん服を着ているが、獣型になれば服は必要ない。だが、獣型から人型に変わる際は全裸の状態なので服の着用に困るし、人型から獣型に変われば服の脱用に困る。そんな獣人共通の困りごとを解決するアイテムが、獣人が存在するこの世界には存在するのだ。それが先ほどシュバルツが付けていたバンダナである。なかに自動着脱の設定が掛けてある、異空間収納機能つきである。デザインは、バンダナやリボンなど様々な形のものが販売してある。しかも若干お高めの120000Gで、収納できる量も1~2着程度の量らしい。
「シュバルツの洋服は、ヴァイスがサイズを言っていたけどずいぶん大きいのね?」
「ガウ?」
シュバルツは小首を1度傾げてこちらを見た後、尾っぽをフリフリさせている。
「ロトが言っていましたが、彼らの獣型の大きさも調整が出来るようですよ」
「え、そうなの?」
「ええ、ヴァイスも頷いておりましたので本当でしょう」
「じゃあ、シュバルツはもっと大きいのかしら?」
「ヴァイスが言うにはシュバルツ、ヴァイス、ロトの順で大きいそうですよ」
「えー、そうなの?ロトが170㎝位でしょ?」
「そうですねー。ヴァイスが180㎝程度でしょうから、シュバルツは190㎝程ではないでしょうか?」
「わお、大きいねー」
「ですから服を選んでいるときは、ロトがL、ヴァイスがLL、シュバルツは3Lを目安にされていたのでしょうね」
「まあ、そうかもね。でもさ、ヴァイスは180㎝の長身のわりに細身だから、洋服が若干大きいように見えたよね」
「まあ、ヴァイスはその見た目からも繊細な彫刻のように見えなくもないですからね。中身というか性格は、粗野で大雑把ですが…」
「そうね」
「ロトはあの見た目どおりで、天真爛漫というか素直というか…」
「まあ、明るい性格で裏表がないよね。嘘とかは付けなさそうだし…」
「嘘が付けないというよりは、嘘をついても即バレしそうですからね」
「ああ、そうかも!」
ソラと2人で幻狼族3人の性格分析をして、盛り上がる。ちょうど、北東エリアを抜けて目的の南東エリアの入口までたどり着く。
「じゃあ、伐採を始めようか」
「はい」
「シュバルツは少し離れて見ていてね。伐採される木は自動で収納されるから、当たることはないと思うけど。念のためね!」
「ガウっ!」
シュバルツはいいお返事をして、少し離れた場所でお座りをしてこちらの様子を見ている。私は首にソラを巻いて、いつものようにオノで木を伐採していく。
冬の初めに伐採して以来の久しぶりの作業になる。そんなことを思いながら伐採作業を始めて1時間くらい経った頃だろうか。街道の方から人の話し声が聞こえる。
「街道に誰かいるのかしら?」
「そうですね…。あまりこちらには人の出入りないはずですが…」
「とりあえず、確認してみようかな…」
「……」
「ソラ?」
「紗英様、決してこの管理された領地からは出ないようにお願いします」
「うん、分かった」
ソラと領地から出ないことを約束して、街道の方に向かって歩き出した。
「おい、ホントにこっち方に向かって獣人が走って行ったのか?」
「はい。俺たちが順番に気絶させられている間に、走って行った方向がこの森なんですよ」
「じゃあ、本当にこっちか分からねぇだろ!」
「いや、意識を失う前にこっちに向かっていったのを見てたんですよ!」
「だが…」
「それが不思議なことに、薄い膜のようなものがこの森全体覆われていて入れないんですよ」
「ああ、そうだな。まったく、どうなってんるんだ?この森は…」
伐採していない木々の間に隠れて様子を見ると、2人の男が言い合いをしている。
「この森、禁則地のエリアですよね?」
「ああ、そのはずなんだが…」
「でも、石畳の道がありますよ!」
「おかしいな…。前はこんなもの無かったんだが…」
「国に報告しないと…」
「ああ、一応問い合わせてみるか…」
「でも、あの獣人は…」
「ここに来る途中には遺体がなかった。魔獣に食われてなきゃ、いいんだが…」
彼らの内容を聞いていると、ふと後ろから人の気配がした。違和感を感じて振り返ると、そこには長身の男性が立っていた。190㎝程のすらりとした男性で、黒髪に金の目をしている。右側の方は前髪で隠れてよく見えないが、俳優さんみたいな男性だ。白いシャツに黒のジーンズ。上から深緑のカーディガンを着ている。
「え?」
思わず、声が出てしまった。着ている物が日本製、というかみんなが愛用しているユ〇クロだったからだ。
「君たち、僕に何か用かい?」
低すぎず高過ぎず、耳心地の言い声色で、その男性は街道にいる謎の男2人組に声をかけた。




