31 春の訪れ
冬の季節が終わり、少しずつ温かくなってきた。今はちょうど冬と春の間くらいの気候だけど、こちらの世界では春と定義付けられるらしい。
冬に街道で倒れているところを拾ったシュバルツは、今ではとても元気になった。人型にはなれないようだが、こちらの言っていることは理解できているらしく今のところコミュニケーションに問題はない。正直、シュバルツのことは、ホントはただのワンちゃんなんじゃないかと思っている。ヴァイスもロトも私が元気になったシュバルツをいつまでも家に置いていることが気になったらしく、どうしてか質問して来た。私はシベリアンハスキーのワンちゃんだからと答えて、彼らを大いに困惑させたらしい。大型犬が好きな私にとっては、シベリアンハスキーは愛でる対象である。
「さて、と。今日は待ちに待った【もうもう】を購入しよう!」
「うん!」
「ああ」
「ガウっ!」
私たちは今、家畜エリアに来ている。こっこは専用の鳥小屋で柵を囲っていて、鶏小屋の2倍ほどある動物小屋にはぶーぶが13匹放牧中である。ちなみに大人のぶーぶが2匹と子どものぶーぶが11匹である。肉質や繁殖に特化したぶーぶは、地球で見る豚よりも2周り程小さい。けれど、とても育てやすい家畜だそうだ。
「もうもうは何匹買うんだ?」
「メスを2頭、オスを1頭、購入予定なのよね」
「全部で3頭か…」
「いい感じに妊娠してくれると、お肉もそうだけど、ミルクが飲めるね!」
「ミルクかぁ…」
「高級品だな」
この世界、乳製品は高級品らしい。もちろん、私のネットショップで購入可能なのだが、こちらのもうもうからとれるミルクとお肉は甘みがありとてもおいしいらしい。ぜひとも口にしてみたいという私の願望の元、ようやく念願のもうもうを購入するに至ったのだ。
「お世話のやり方はこっこやぶーぶと変わらないみたい。牧草や野菜くずを食べて、扉を開けておけば柵の中で放牧可能よ。夕方には自分で小屋に戻るんだって」
「そうか…。では、これまでと同じように俺が家畜の担当をしよう」
「おっけー。じゃあ俺は、畑の担当ね!」
「がう…」
ヴァイスやブラウに担当があるのに、自分には何もすることがないと分かったシュバルツが悲しそうに下を向いた。
「シュバルツは私の護衛兼お手伝いね!」
「ガウっ!」
私の言葉に、シュバルツはふさふさの尾っぽをフリフリする。
「あいつ、絶対ワザとだよね…!」
「ああ、そうだな。自分の見てくれが、サエに高評価なのをしっかり分かってやがる」
「シュバルツ、あざとい!」
「まったくだな!しかも、しれっとここに居付いてやがるし」
「俺たちがここに住むまでに、結構不安でいっぱいだったんだけど!」
「ああ…」
ヴァイスとロトのこそこそ話が丸聞こえで、思わず苦笑いが出る。
別に最初から追い出すつもりはなかったんだけどね…。ワンちゃんの姿のままだったらそのまま、無条件でうちに置いていたと思うしね…。
「それじゃ―ロト、今回は常備菜を除いて季節の野菜をお願いしたんだけど…」
「何にするの?」
「とりあえず、きゃべつときゅうり、それから小松菜かな。その後はアスパラを作ってみたい」
「おっけー。じゃあ、いつも通り畑を巡回させながら植え付けするよ」
「うん」
「午後からはいつも通り収穫と森の偵察に行ってくる」
「分かった。森に行くときはポーションを必ず持参してね!」
「ああ、分かっている。シュバルツ!」
「ガウっ!」
「サエから離れるな。必ず守れよ!」
「ガウっ!」
ヴァイスから念入りに私の護衛をするように念押しされたシュバルツは、しっかりとした声で返事を返してくれた。
「じゃあ、シュバルツ。今日はログハウスの前に畑を作っていちごを植えよう!」
「ガウっ」
ヴァイスとロトを見送ってから、久々にクワで地面を耕して畝をつくる。倉庫で芽吹かせていたいちごの苗を持って来て、間隔を開けて植える。おそらく5日程で実を付けるだろう。収穫するのを楽しみにしながら、畑を後にした。




