30 シュバルツ
私が管理する領地の前の街道に倒れていたボロボロのシベリアンハスキーのようなワンちゃんは、名前を【シュバルツ】と言うらしい。軽傷+栄養失調で倒れていたけれど、ヴァイスたちの手厚い介護と栄養いっぱいのご飯のおかげで無事に回復していった。
衰弱していた為まだ人型にはなれないらしく、シベリアンハスキーの姿のまま室内で過ごしている。
「今日も寒いから、煮込みうどんにしようねー」
「ガウっ!」
シュバルツは料理に興味があるのか、最初にちょっとだけ威嚇をしただけで今では私の後ろを付いて回っている。最初は料理をする私の後ろを付いてくるので、お腹が空いているのかなとか食いしん坊なのかなとも思ったが、ヴァイスとブラウが言うには料理好きな子らしい…。
「シュバルツはうどん、食べたことある?」
「クーン…」
シュバルツが首を傾げる。どうやらうどんを食べたことがないらしい。
人型の時は集落の食事を担っていたようで、私が料理しているのを邪魔にならないような場所でお座りをしてみている。大変賢いらしく私が横を通るときはそっと退いてくれるし、重いものを持とうとすると手で押さえてヴァイスかロトを呼んでくれる。彼らもシュバルツが心配なようで、必ずどちらかが傍にいるのだ。
「今日は何を作っているんだ?」
「煮込みうどんだよ」
「煮込みうどん?」
ヴァイスにとって初めて聞く料理名だったらしい。
「秋に卵がのったうどん、白い太麺を食べたじゃない?」
「あ、ああ。あのもちもちしているやつか?」
「そうそう。それと似たような食べ物で、白菜とネギとか人参とか野菜を入れて煮込むのよ」
「へー、旨そうだな」
「消化にもいいし、卵も載せるから栄養満点だし。それに何より、煮込むからこんな寒い日にはより一層おいしく感じると思うわよ」
「そうか…。今日は米も食えるのか?」
「米…、ああ白米ね。うどんがメインだから、おむすびにするつもりよ」
「そうか!」
ヴァイスは嬉しそうに、ソファへと戻っていった。
どうやらヴァイス、パンも好きらしいがご飯も思いの外気に入っているらしい。豚汁と一緒に白米を出すと、いつもの倍くらい食べる。
「シュバルツには食べやすいように、麺を短めにカットするからね」
「ガウガウ」
「そうだね。こぼすといけないからスープは少なめだけど、具材は多めに入れるからね!いっぱい食べて、元気になってね!」
「ガウっ!」
シュバルツの頭を撫でながらそう言うと、シュバルツはふさふさの尾を振り振りしながら目を細めた。頭を撫でられるのは、好きらしい。
「かわいいねー」
「ギュワっ!」
思わずシベリアンハスキーのシュバルツに抱き着いた。モフモフした体にちょっと愛嬌のある顔、そしてツンとたった耳。シュバルツの顔に頬を寄せてスリスリする。ヴァイスもロトも犬の姿をしているときはお風呂を嫌がったが、シュバルツは大人しくお風呂に入ってくれるためいつもいい匂いがするのだ。
「おい、君!そいつは今、そんなナリだが人型は成人を迎えた男だぞ!」
「そうだよ!サエ。シュバルツは俺やヴァイスよりデカいよ!」
ふたりがかりでシベリアンハスキーから引き離される。
「そうは言っても、私はシベリアンハスキーのシュバルツしか知らないから…」
「ク~ン…」
シュバルツは困ったような顔をして、お座りをする。
「なにアレ。めちゃめちゃかわいいね」
「ちょっと、シュバルツ!あざといよ!」
「こいつ、信じられん…。こんな性格だったか…?」
ロトがぷりぷりと頬を膨らませながら怒り、ヴァイスは頭を抱えている。当の本人であるシュバルツは、お気にいいのクッションまで行きお座りをしている。
「さて、と。ほら2人ともお昼ご飯だよ。準備して」
「う、うん…」
「あ、ああ…」
シュバルツへのショックが大きかったのか、意気消沈しながらフォークの準備をしている。私は麺を短めにカットして、浅めのお皿に盛り付けてシュバルツの前におく。
「さあ、どうぞ」
「ガウっ!」
私の合図にシュバルツは元気なお返事を返して、食事を開始した。




