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29 ボロボロのハスキー犬

苦手なジェットコースターの恐怖を姫抱きで経験した私は、気が遠くなるのをなんとか堪えてログハウスまで移動した。


「下にバスタオルを敷くから、ちょっと待って」

「ああ」


リビングの床にバスタオルを数枚敷いて、ヴァイスが抱えていたシベリアンハスキーをそっと下ろした。スマートウォッチの鑑定を開けて、シベリアンハスキーの状態を確認する。


【魔獣】

種族/幻獣族

性別/オス

状態/軽傷

 下級ポーションで治療可能

 栄養失調のため衰弱している

 右目欠損


「軽傷で栄養失調…」


鑑定アプリで表記された状態を、思わずつぶやく。


「ヴァイス、私の部屋からブランケットを1枚持って来てくれる?肉球の柄のヤツ」

「あ、ああ」

「ロト、この子にコレ飲ませて」

「う、うん」


ロトにインベントリに収納していた下級ポーションを渡す。細かい傷にはこれでなんとかなるだろう。

だが、問題は栄養失調の方だ。それに冬の寒空を彷徨ったのだろう…。一瞬触れた体は、少し冷たい。


「栄養満点で温かい食べ物…。消化にいい食べ物…。あ、クリームシチュー」


おかゆやうどんなどは消化にいいが、栄養価はそんなに高くない。それに米やうどん麺などはこちらの住人には馴染みが薄く、喉を通りづらいだろう。だがクリーム系のスープならば…と思い、インベントリに収納してある作り置きのクリームシチューを取り出す。鶏肉やじゃがいも、乳製品は消化にいいと聞く。

シベリアンハスキーの様子を見ると、下級ポーションのおかげか意識は取り戻したようだ。だが、体力が戻っていないようでヴァイスに寄りかかって、横向きになっている。


「飲み込む力も弱っているかもしれないわね…」


クリームシチューを小鍋に移して、中の具材をトングとハサミを使って小さめにカットする。軽く混ぜてから、深めのスープ皿に盛り付けて、スプーンを添える。クレームシチューを持ってシベリアンハスキーの前に行くと、シベリアンハスキーはこちらを見て軽く唸って威嚇する。


「ちょっと、シュバルツ。威嚇しないで!」

「大丈夫だ。こいつは俺たちを助けてくれた恩人だ」


ロトに軽く叱られ、ヴァイスに宥められてシベリアンハスキーは威嚇を止める。クーンっという可愛い鳴き声を上げて、伏せる。


「シベリアンハスキーのワンちゃん。クリームシチュー食べれる?」


そう言ってスプーンですくって、口元に持って行く。すると、シベリアンハスキーはヴァイスとロトを交互に見た後、おとなしく口を開けてクリームシチューを食べる。一口食べて目をまんまるに大きく開けて、尻尾を2、3度振る。


「大丈夫みたいだね」

「おいしい?シュバルツ」

「ガウっ」


ロトの質問に答えるシベリアンハスキー。シベリアンハスキーは毛の模様によってはいかつい顔に見えるけど、この子は全体的に黒くて金の目をしている。配色のおかげなのか、穏やかな顔つきに見える。


「ロト、これ食べさせて?おかわりもあるけど、胃がびっくりしちゃうから少しずつゆっくり食べさせてあげて」

「う、うん」


私はシチューの入った器をロトに渡して、再びキッチンに立つ。


「たしか、今日収穫したりんごがあったはず…」


インベントリに収納していたりんごをいくつか取り出し、皮をむいてすりおろす。それからうちの農園で作った、ほうれん草、人参、りんご、みかんを入れてミキサーにかける。りんごとみかんが甘かったせいか、飲みやすい野菜ジュースが出来上がる。ボトルに入れて、先ほどすりおろしたりんごと一緒に持って行く。


「ヴァイス、これ食べれそうなら食べさせてあげて」

「これは?」

「りんごをすりおろしたヤツと農園と果樹園で採れた野菜と果物で作った野菜ジュース。栄養満点だよ?」

「ああ、すまない」


シベリアンハスキーはクリームシチューを食べ終えたのか、そのままりんごも食べ始める。

空になった器を持って、キッチンに戻る。食器やなべの片づけをしていると、そばにヴァイスが来た。


「どうしたの?」

「あいつ、眠ったみたいだ」


ヴァイスの言葉に、キッチンから覗くとロトに寄りかかって眠っているようだ。ロトが一緒に寝ているのが見える。


「咄嗟に連れてきたが、良かったのか?」

「咄嗟っていうか、私が連れてきてって頼んだんだから」

「だが…」

「あの子が元気になるまで家でお世話をするわ。その後のことは、あの子が元気なってから考えましょう?」

「すまない…。しばらくは俺とロトで、シュバルツについている。もちろん仕事はきちんとする」

「うん、それは心配してないよ。昔みたいにそこにラグマットを置く?」

「ああ、ありがとう」


ヴァイスはそう言って、シベリアンハスキーのところまで戻る。2人とも嬉しそうにシベリアンハスキーの頭を撫でる。


「離れていた家族に会えたんだもんね。よかったね」


そう言って、少し笑った。

その後思い出したのは、優しかった実の父親の顔だった。いつもおっとりしていて、穏やかな性格の父親だった。もう、この世にはいないけれど…。思い出した父親の顔は、笑顔だった。






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