27 アプリの進化?
「ううッ、寒い!」
肌を突き刺すような寒さに震えながら、ベッドから抜け出す。カーテンを開ければ真っ白な雪が、ふわふわと降り注いでいた。うっすらと積もった雪を見て、寒さが増した気がした。
もこもこのパジャマのままリビングに移動して、暖炉に火をつける。上には水を入れたやかんを乗せて、お湯を沸かす。オーブンに予熱を入れて温めながら、作り置きしていた具だくさんのクラムチャウダーが入った鍋を置いて温める。
「おはよう!」
「おはよう」
「………」
元気よくおはようと口にするロトに挨拶をすると、半分寝ぼけたままのヴァイスもロトと一緒に顔を出した。
「2人とも、顔を洗って。朝ごはん、もう出来るから」
「はーい!」
「…ああ」
余熱が完了したオーブンに、パンを並べて温め直す。温まったやかんのお湯でお茶を入れて、水を追加した後に再び暖炉の上に戻す。深めのお皿に温めたクラムチャウダーを盛り付ける。
「これ、運んでいい?」
「うん、お願い」
ロトが盛り付けたクラムチャウダーをテーブルに運ぶと、ヴァイスもスプーンとお茶の入ったマグカップをテーブルへと運ぶ。焼き上げたパンをバスケットの上に盛り、冷蔵庫から手作りのジャムを2種類とカットフルーツを取り出す。すかさず、2人がテーブルに運んでくれる。
「じゃあ、食べようか」
「いっただっきまーす!」
「いただきます…」
全員がテーブルを囲んで、食事を始める。
「すごい!今日はミルクが入ったスープだなんて、贅沢だよね!」
「ああ、旨いな」
「そう、良かったわ」
この世界はミルク、つまり牛乳やバター、チーズと言った乳製品や砂糖などの甘味類が異常に高価らしい。ミルクを生み出すもうもうと言う家畜が少なく値も張る為、飼育している牧場が少ない。
「ねぇ、今日はどうするの?冬に入ったけど、何を植えるの?」
「そうだね…。奥のエリアはいつも通り米と麦を、手前のエリアにはブロッコリーと大根、白菜をお願い」
「おっけー!」
「家畜の方はどうする?こっこの卵はいつも通りだが…」
「あの鳥小屋、30羽くらいが丁度いいから」
「なら、30羽前後を目安として、残りは潰すか…?」
「そうしてくれる?あとで収納するから、教えてね?」
「ああ」
「ね、果樹園はどんな様子だった?」
「今はみかんとりんごくらいだな」
「じゃあ、俺かヴァイス。早く終わった方が収穫に行くよ」
「ありがとう」
「収穫は3日一度くらいだから、そう時間もかからないだろう」
「じゃあ、仕事が終わり次第自由に過ごして」
「他に仕事はないのか?」
「午前中は料理、午後は新しく広げた4エリアを順番にまわって伐採してるだけだから」
「じゃあ、俺たちも一緒に行く」
「そう?」
「昼食の後に一緒に行こう」
「分かった」
今日の予定が決定したため、ヴァイスたちは朝ごはんに集中し始めた。おかわりはセルフ式なので、鍋からスープを追加していた。パンは1回に12個までと決めている。なぜなら、1度にオーブンで焼ける数が12個だからだ。
「じゃあ、行ってくる」
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」
食事を終えた彼らは、それぞれの道具を持ち作業場へと出掛けた。
「冬支度って言っても、完全に家に閉じこもるわけじゃないのね?」
「そうでもありませんよ?」
「え?」
私の呟きに、ソラが答える。
「この地は紗英様が認めた者以外の出入りを禁止している特殊区域です。極度の気候の変化もないですし、どちらかと言えば穏やかな気候ですから冬でも農作業が可能です。ですが、他の村や町はそうはいきません」
「どういうこと?」
「寒冷被害や温暖被害、豪雨や日照不足、水不足など、様々な気象災害が農作物に被害をもたらします。それに冬は寒さが厳しいので、牧草も育ちが悪く家畜にも影響が出ますから」
「そう…。なら私は恵まれてるわね」
「そうですね…。今のところは問題なく生活が出来ております。ですが、それは紗英様のスマートウォッチの機能が他の者もバレていないからですよ」
「でも、今開発済みの領地までがスマートウォッチの機能範囲なんでしょ?ここから出なければいいんじゃない?」
「いいえ、そのスマートウォッチは学習及び、進化しているようです。最初に渡したときは我々もその機能性を理解していましたが、今では進化が進んで我々の理解の範疇を越えているように思います」
「どういうこと?」
「そのネットショップ、最初に登録されていた店舗数が増えているのですよ…」
「え、マジ?」
「今までは地球産の物の販売と、異世界産の販売及び売却が可能でした。もちろんすべてではなく、一部の物と限定的でしたが…。今では最初に取り扱いのなかったものも増加しています」
「そうなの?」
「地球産の娯楽や書籍が取り扱い可能になっていますよ。さらに、クラフト機能で加工できる建物や家具などが増えています。それに今までの金物取引はあくまでも一般向けの物でしたが、業務用の調理機も購入可能になっています。そして一番の驚きは…」
「驚きは?」
「地球と異世界の貨幣が両替出来ます!」
「…え?両替?」
「ええ。例えば地球の¥10000がこちらの10000Gと換金可能です」
「………」
ソラのどや顔に、若干困惑気味な私。
「換金…、必要かな?」
「……。利便性は置いといて、機能としては進化しています」
「ああ、…うん。料理の本が購入できるのは助かるわね。今までは農業系のHOWTO本が5冊だけだったから」
「はい…」
とりあえず、ヴァイスたちが帰ってくるまでに、いくつかの副菜とお菓子のクッキーを焼こうかなと席をたった。




