26 同居しました
冬支度の準備をみんなで粛々と続ける毎日を送っていた。野菜のストックもずいぶん増えたし、米や麦も交互に畑を入れ替えて作り続けている。おかげで、ネットショップで米や小麦粉を買う必要がなくなった。この畑で採れる作物は、通常の物より収穫量が多い。ただし、米や麦はいくらあってもいいと思うし、常備菜だってそうだ。鶏肉はこっこのお肉があるし、卵だってこっこの卵を収穫している。ぶーぶ飼育は冬を終えて、春を迎えるころに軌道に乗るだろう。豚肉の代わりにワイルドボア、牛肉の代わりにバッファローをヴァイスたちが狩って来てくれるのでお肉類には困らない。お菓子だって小麦や卵を使ったものに関しては、自給自足が出来ている。もっぱらネットショップで購入するのは、海鮮類や乳製品、調味料くらいである。あとは衣類や紙、洗剤くらいだろう。地球で使える現金も、最初の方は減る一方だったが今は少しずつ貯金が出来るくらいになっていた。
「そろそろ3ヶ月になるけど、どう?」
「何が?」
「俺たち。ずっとここに居てもいい?」
「…これから冬を迎えるけど、もしダメだったら行く当てはあるの?」
「………」
私の質問にロトは沈黙したまま、下を向いた。
「君が出て行けというのなら、俺たちは出ていく。それが最初の契約だったからな」
「ヴァイス!」
「だが…」
「?」
「出来る事なら、このままロトと一緒にここに居たい。これから先も、ずっと。そのためには、至らないところも改善できるように努力する。だから…」
「いいよ」
「「え?/っ!」」
私の了承の声に、2人はびっくりしたように顔を上げる。
「ここに居たいなら、ずっと居ればいい」
「いいのか…?」
「うん。でもこれからぶーぶも増えるし、夏を過ぎた頃にはもうもうも購入予定だよ。きっとこれまでより仕事が増えるけどいいの?」
「構わないよ!俺、これからも家畜や畑のお世話、頑張るかから!」
「俺も努力する。森に行って君に必要な資材や食料も獲ってくるさ!」
「うん、ありがとう。これからもよろしくね!」
3人で頷いて、笑った。この瞬間、1人ぼっちだった私に家族のような同居人が増えた。
「じゃあ、あなた達の部屋を増やさないとね!ね、ソラ!」
「…紗英様がそうおっしゃるなら、ボクに異存はありません」
「ありがとう」
ソラを見て同意を求めると、ソラは若干のため息をついて彼らのこれからも一緒に暮らすことを同意してくれた。
「俺たちの部屋を増やすって…、どうやって?」
ロトが心配そうに私に尋ねてきた。
実は1週間ほど前にログハウスの増築を考えていたのだ。材料となる原木はたくさんあるから、あとはどういう風に増築するかということだけど。今住んでいるログハウスの増築プランがいくつかあった中で、階段を付けて2階にトイレと3部屋ついているタイプをあらかじめ候補に入れていたのだ。
「じゃあ、増築するからみんな1度外に出よう?」
「え、うん…」
「今から増築するのか?」
「そうよ」
「紗英様なら1瞬で可能ですよ。さあ、外に出ますよ!」
ソラが2人を追い出し、私も外に出る。秋ももうすぐ終わるので、外は若干肌寒かった。
スマートウォッチをログハウスに向けて、クラフトアプリを起動する。あらかじめ選んでおいた増築プランを選択すると、今から増築しますか?というメッセージが出た。はいを選択すると、原木の在庫が減って一瞬で平屋のログハウスが2階建てのログハウスに変わった。
「え、マジ?」
「これは、…すごいな」
ふたりともびっくりしたようで、口を大きく開けて茫然としていた。
「さあ、早く入りましょう!寒いから風邪をひくよ」
「…うん」
「あ、ああ…」
そう言ってみんなログハウスの中に入る。ヴァイスたちがベッドを置いていた場所の奥に2階へ続く階段が出来ている。2階に上がるために2人に了承を得てから、彼らのベッドや衣装ケースなどをインベントリに収納する。空間が空いて階段に続くスペースが確保され、階段を上がるとそこには北側に3部屋の個室と一番奥の西側にトイレがある。南側は暖炉の煙突の通気口があり、さらにベランダが出来ていた。
「ヴァイスはどの部屋を使う?ロトもどうする?部屋は3部屋あるから1つは空室だけど、早い者勝ちだよ?」
「個室を貰えるのか?」
「え?2人一緒がいいの?」
「「いや/別に」」
「うん?常に誰かと一緒じゃ息が詰まるでしょ?1人の時間も大事だよ?」
「ああ…」
「ありがとう!」
2人はそれぞれ端の部屋を使うらしく、奥側がヴァイスで階段側がロトに決まったらしい。2人が選んだ部屋に先ほどインベントリに収納したベッド、衣装ケース、ハンガーラックを出す。それから、獣型の時に使っていたラグマットを出す。
「このラグマット、使う?」
「いいのか?」
「やったー」
「あとで追加の毛布と下着や洋服を選ぶから、自分の好きなように家具を置いたら下に降りてきてね」
「分かった」
「うん」
ヴァイスとロトの返事を聞いて、私は1人で1階のリビングに降りる。端の方に寄せていたソファとテーブルを真ん中の方に移動させて、3人分の温かいお茶を入れる。
彼らが下に降りてくるまでの間、追加の購入品をリストアップしながら2人を待った。




