25 お給料?
領地の外に街道があることを確認して数日、私たちは冬支度の準備のために色々と動き回っていた。
ヴァイスはが狩りに出た日は、ポーションを使用することなく無傷で帰ってきた。大きなバッファローという牛に近い魔獣を、肩に担いで戻ってきた。以前狩ってきてくれたワイルドボアのように、主に食肉として出回る種族でもうもうの原種らしい。
お土産と言ってバッファローを渡すヴァイスに、ありがたく頂戴しインベントリに収納して解体する。その日は庭で採れたじゃがいもを蒸したものと一緒に、ステーキとして夕食に上がった。他は順番に調理をしていく予定だ。
「君、こっこの卵はここに置いていくぞ」
「あ、ご苦労さま。ロトは?」
「あいつは畑の手入れをしている。収穫物は何時のも場所に重ねて置いてあるから、新しいコンテナと苗の選別を頼む。常備菜はいつもの量でいいか?」
「うん。順番に場所を入れ替えてね」
「ああ、分かっている」
家畜たちの世話を終えたヴァイスが、こっこの卵が入ったカゴをキッチンの脇に置いて再び外に出る。私も確認のためヴァイスと一緒に畑へ向かう。
「ねー。収穫は終わったけど、次は何を植えるの?」
「ごぼうとれんこんを植えてくれる?」
「分かった。納屋にあるの?」
「準備してあるから、必要な分だけ持って行ってくれる?」
「了解―!」
ロトの元気な声を聞きながら、収穫物でいっぱいになったコンテナを回収して新しいコンテナを置く。彼らをここに住まわせて2か月。彼らは仕事を覚えるのが早く、しっかりと働いていた。
午前中は家畜と農園の手入れ、午後からは果樹園の収穫と森へ狩りに出かけていく。お土産に食用の魔獣や資材の鉱物を持ち帰ってくれる。私は3食の食事の準備と家畜や畑の確認、そして苗の準備などをして1日を過ごすことが多くなった。インベントリという準備な収納空間があるおかげで、食事は作り置きが出来るので場合によっては何食も作るときがある。鍋もオーブンもフル活用だし、パンは業務用の大袋を購入して1食分ずつ小分けにする。街道を確認するために通ったエリアの反対側も橋を架け、中央の木々を伐採し除草作業を行った。そのままにしておくとまた森林になってしまうので、ヴァイスたちが持ち帰ってくれた鉱物を使って石畳のタイルを敷いて道を作った。時間があるときには木々を伐採して除草作業を順番にしていくと、4か所目を終えた後は1か所目が元に戻っておりエンドレスで資材の補充が出来た。ただし使うことがないのでたまる一方だが…。
「ねえ、ヴァイス」
「なんだ?」
「あなたたち、いつも狩りの獲物を持って帰ってくれるでしょ?」
「ああ。ここは野菜や果物は手に入るが、食肉はこっこだけだろう?ぶーぶも、もう少し軌道に乗らなければ潰すことも出来ないからな」
「うん。でね、せめてお給料を支払いたいなと思っているんだけど…」
「何故だ?俺たちは契約通り衣食住のすべてを、君に提供してもらっているが?」
「でも、魔物や鉱物を持って帰ってくれるでしょう?私は森には入れないから…」
「君は俺たちにおやつと言って貴重な甘味を提供してくれている。その礼に持って帰ってきているだけだ。自分たちの腕がなまらないように鍛錬しているついでだ」
「それは、嬉しいんだけどね。ちょっと、心苦しいところもあってね。だから、お給料というかお小遣いというか…」
「?」
「外貨の獲得方法が今のところポーション販売だけだから、そんなにお金があるわけじゃないんだけど。でも、もらって欲しい」
私はそう言って外貨のコインが入った袋を2つ、彼らに差し出す。それぞれ下級ポーション5本分の金額である、50000Gが入っている。
「こんなに…、いいのか?」
袋の中を見たヴァイスが、目を見開いてびっくりした様子で確認してくる。
「いや、少ない方だと思うけど…」
「俺たちは基本的に金を使う習慣がないから、こんな金額を持ち歩くことがあまりない」
「そうなの?」
「ああ…。ここから一番近い村の【ヴァータ】でも、物々交換で足りないものを仕入れていた」
「え、そうなの?じゃあその ヴァータっていう町では、貨幣は使えないの?」
「使えないこともないが、ほぼ物々交換がほとんどだ。その場で決めることも多いが、物の物価を一覧表にして配っているからそれで計算しながら交換していた」
「そうなんだ…」
物々交換か…。私が交換できるものと言えばポーション以外では、野菜と果物、あとこっこの卵とお肉くらいである。
正直なところ異世界の物が欲しいかと言われれば、そこまではとも思う。でも、見てみたいとは思っている。
「いつか、行ってみたいな…」
「そうだな…、俺とロトとソラと4人で行こう。素朴な村だが、うまい屋台もある」
「うん」
ヴァイスは泣き笑いのような顔を向けて、私にそう言った。
こちらのお給料がどの程度の物かは分からないが、月に50000Gくらいであればこれからも渡していけるだろう。いつか彼らがここを去るときの、足しになればいいなと思う。




