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24 領地の外

「少し、いいか?」

「どうしたの?」


普段寡黙なヴァイスが珍しく、話しかけてきた。少し不思議に思いながら、彼の方を見る。


「午後は何か予定があるのか?」

「ううん。いつも通り果樹園の収穫をお願いしたいんだけど…」

「そうか。特にいつも通りの仕事ならば、ロトと交代で果樹園の奥にある森で狩りをしてもいいか?」

「狩り?」

「ああ、そうだ。秋は森の恵が通常よりも豊富になるし、獣が冬ごもりの準備で動きが活発になる」

「そうなの?」

「先日果樹園に収穫に行ったときに、森の方を見たんだが通常よりも獣の気配が多い」

「え…?」

「森はこちらからは行けるが、向こうから果樹園の方には入って来れない。お前に害はないだろうが、用心に越したことはない。冬ごもりの獣は殺気立っているから、少し数を減らして適性数に戻したい」

「適性数?」

「ああ、ここに来たばかりの時は穏やかな状態だったが、最近は他の森からもこちらに獣が移住しているように思える。このまま増え続ければ、森の恵の供給と需要のバランスが悪くなり森が枯渇する。さらには他の町の人間が食料を求めてこちらに流れてくる可能性上がある。お前は他の町の人間と無駄な争いをしたくはないのだろう?」

「そりゃ、そうだけど…。でも、狩りって危なくないの?」

「危険が全くないかと言えば、嘘になるが…。だが、この付近の獣や魔獣はそれほど強くない。それに俺たち幻狼族は、本来は狩りを生業とする一族だ。食糧難の状態だから畑を耕して自給自足をしていただけだ。定期的に狩りをしないと腕がなまる。約束したお前の手伝いはきちんとするから、許可が欲しい」


ヴァイスが真剣な顔で話すので、わたしも了承をする。


「狩りは構わないけど、ケガをしないように気を付けて。それから、狩りに行くときは必ず私が作った下級ポーションを持っていって」

「…いいのか?ポーションは高価なものだ。もし使うことがあっても、弁済できないかもしれないぞ」

「弁済のことは考えないでいい。必要な時はためらわずに使って。大事なことはあなた達が無事に戻ってくることよ。それが約束できるなら、狩りに行っても構わないわ」

「…ああ、約束しよう」

「うん」


お互い顔を見て笑う。


「それじゃあ、昼食にしましょう。みんなー、ログハウスに戻るよー」

「はーい!」


私の呼びかけにロトが元気よく返事をして、こちらに駆けてくる。彼の頭の上には、ソラが器用に乗っていた。




「じゃあ、行ってくる」


昼食を終えて午前中に話した通り、ヴァイスは果樹園の奥の森へ狩りに、ロトは通常通り果樹園に果物の収穫に出掛けた。私はソラと一緒に米や麦を植えている第2農園の方まで足を運んだ。


「紗英様、米や麦の様子を見に来られたんですか?」

「ううん、違うの。地図アプリで見てみると、この先に4つの未開拓領地があるのが分かるんだけど…」

「ええ、そうですね…。この先には東西に2つずつ南に向かって計4つのエリアが存在します。今は木々や雑草が生い茂っておりますが…」

「うん。この先に道があるみたいなんだけど、地図アプリでは表示されなかったんだよね」

「ああ、そうですね。紗英様が管理する領地候補については、開拓済みであれば鮮明に未開拓状態であれば不鮮明ではありますが表示されます。ですが公用地や他国の管理場所であれば、実際に足を踏み入れて初めて表示されます」

「やっぱりそうか…」

「もしかして、先の道まで行かれるおつもりですか?」

「うん。道には出ない予定だけど、自分の領地になる場所がどこでどんな風につながっているのか、確認しておきたいなって思ってる」

「…そうですか…」

「ダメ?」

「いえ、ひとまず道に出なければ大丈夫でしょう。すべてのエリアに橋を架けますか?」

「うんまずは西側の2エリアだけにしておこうかな。実際に森林状態になってるみたいだから、エリアの真ん中に道を作って視界を確保したいなって思ってる」

「分かりました。それでは伐採し、道を作成しながら開拓していきましょう」


ソラから了解を取って、いつものように丸太橋を架ける。地図アプリを確認しながら進み、道幅が2m前後の広さになるように木々を伐採していく。雑草などは戻るときに処理しようと思い、そのまま進んでいく。農具の性能が良いおかげで、サクサクと進んでいける。しかし、歩いてみれば結構な距離はある。正確な長さは調べてみないと分からないけれど、体感で500mくらいあるだろうか。


「アプリで見るとあんまり分からないけれど、実際歩くと結構な距離だね…」

「そうですね。この広さならば町までとは言いませんが、1つの村または集落くらいの規模ですね」

「なるほどねー」

「紗英様の領地候補であるこのエリアには、害獣と呼ばれるものは入れないようになっています」

「そっか」


害獣とは一般的に、人間や家畜を襲ったり農作物を荒らしたりする生き物のことだ。ここに来て野良犬やイノシシ、サルやシカなども見ていないし、ネズミやイタチも見ていない。何なら女性の敵であるゴ〇ブリも見ていない。

2つのエリアを進んでいくと、最終目的地である街道のようなものが見えてきた。


「ここが最終地点だね」


そう言って周りを見渡す。そこは一面の荒野が広がっている。地図アプリで確認すると、この領地から一番近い場所に外壁のようなもので囲まれている建物が見える。多分ここがこの領地から一番近い町、もしくは村になるんだろう。


「ここから一番近い場所にあるこれは、街なの?」

「え?…ああ、はい。そこは【ヴァータ】という村ですね。騎獣で1日、徒歩で3日ほどの距離の場所にあります」

「え、1日?3日?」

「ええ、そうです」

「ちょっと待って。ここでの移動手段って…」

「基本的には、徒歩です。裕福な貴族や王族は馬車、騎士は騎獣という移動に特化した魔獣に乗ります」

「うわぁ…、マジか。トイレとかお風呂とかどうするんだろうね…」

「まあ、トイレは脇で穴を掘って済ませますし、体は清拭になりますね」

「ちょっと無理かも…」

「まあ、紗英様がお出かけになられる場合は簡易式トイレと浴室、それから寝泊まりするコンテナハウスが必要でしょう」

「まあ、出掛けることもないとは思うけどね…」

「当面、その予定はないでしょう」


お互い顔を合わせて、肩をすくめた。


「それじゃあ、帰ろうかな」

「はい」


とりあえず領地外の状況も確認できたので、来た道を除草作業をしながら帰る。見たことのない薬草や植物が副産物として手に入った。


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