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2 いざ出発!新天地へ

面接の当日。

私は久しぶりにスーツを着て、面接会場にいた。そこは市役所が併設されている合同庁舎で、この面接がなんとなくホワイトな案件のように思える。

会議室の1室に案内されて、椅子に座るように促される。面接官は40代くらいのメガネを掛けた男性だった。


「野村紗英さん、28歳で間違いないですか?」

「はい」

「今回の勤務先はここから遠方になりますので、頻繁に里帰りなどは無理ですが、それでもよろしいですか?」

「はい、大丈夫です」

「基本的に生活用品などはネットショッピングで対応していただきます」

「あの、それは食品…、生鮮食品なんかもでしょうか?」

「ええ、そうなります。肉や魚、野菜などはネットショッピングで購入が可能です。もちろん自分で育てることも可能ですよ」

「自家栽培…、家庭農園ってことでしょうか?」

「そうですね。小規模から大規模まで、すべてあなたの判断にお任せします」

「私の…?」

「はい。自分で育てるのもよし、人を雇用して経営してもよろしいでしょう」

「はあ…」

「あなたの主なお仕事は与えられた土地に住み、管理をすることです」

「それは農業や畜産も含まれるのですか?」

「ええ、すべてあなたの一存で可能です。私たちは定期的に確認してデータをとり、分析をしていきますので…。まあ、視察は年に1度あるかなないかくらいです。どんな結果であれデータとして記録しますので、解雇ということはまずありません。任期は5年を目途に、更新はその都度あなたの意思で延長可能です」

「分かりました」

「ちなみに、あなたのサポートとしてペット型のAIを差し上げます」

「ペット型のAIですか?」

「ええ、そうです。領地管理や農業、畜産などのデータを入れ込んでありますので、あなたの役に立つと思います」

「ありがとうございます」

「タイプは犬、猫、鳥、リス、フェレットの5タイプになります。どのタイプがよろしいですか?」

「種類は何でしょうか…?」

「ああ、すみません。犬はパグ、猫はエキゾチックショートヘア、鳥はオウム、リスはシマリス、フェレットはそのままフェレットとなります」


リスやフェレットはまだしも、パグやエキゾチックショートヘアは好みが別れるのでは?しかもなぜオウム?

頭のなかで疑問に思いながら、選択肢を考える。まあ、AIならば小動物の方がいいだろうか…?


「エサや排泄物の処理はどうなります?」

「もちろん、AIですので必要ありません。自己充電式ですので、充電も必要ありませんよ」

「じゃあ…、フェレットでお願いします」

「分かりました。いつから赴任可能ですか?」

「明日アパートの引き渡しがあるので、明後日以降でしたら大丈夫です」

「それでは明後日の10時に、こちらに来ていただきますか?最終確認をして、赴任地に出発いたします」

「分かりました。なにか準備する物はありますか?」

「いいえ、特にございません。あえて言うなら、当面の着替えくらいでしょうか。トランク1つもしくは2つくらいまででお願いします」

「はい」

「では、明後日にここでお待ちしております」

「ありがとうございます。よろしくお願い致します」


私はメガネの面接官の方に頭を下げて、面接会場を後にする。

どうやら面接は合格のようだ。正直、しばらくこの街には居たくない。親戚にはもちろん、あの母親と義妹、智也には特に会いたくない。智也の両親は、私の母親や智也からの説明をどう受け入れたのだろうか…。常識ではありえないと思うけど、それは私だけだったのかもしれない。

私は一度ビジネスホテルに戻り、スーツを脱いでカジュアルな服装に着替える。私の荷物は今トランク3つ分だ。そのうちの1つは赴任地に持って行かないものをまとめて入れる。残った2つトランクに、持って行くものを整理する。生活用品や食品などはネットショッピングで購入するようなので、困らないだろう。とりあえず当面の着替えだけで十分と言われたので他は有料のコンテナボックスに預けて行こう。5年を目途にと言われたので口座引き落としにした方がいいだろう。着替えを5日分と当面必要な日用品をトランクに詰め込む。

私はトランクを1つ持って、有料の貸コンテナへと向かった。


2日後、無事にアパートの引き渡しが完了し、私は面接をした合同庁舎の中にある会議室の1室に居た。


「野村さん、お待たせしました」

「いえ」

「こちらがあなたの補助を行うフェレット型のAIになります」


面接官の人にフェレット型のAIを渡される。渡されたフェレットは目を閉じていて、まるで眠っているように見える。ほんのりと温かいので、まるで生きているフェレットのように感じる。


「そちらは赴任先で起動させてください。今はスリープモードになっていますから」

「どうやって起動させるんですか?」

「あなたの生態認証は登録済みですので、それに名前を付けて呼びかければ大丈夫です」

「分かりました」

「それからこちらはあなた専用のスマートウォッチになります。防水・防火仕様で丈夫に出来ておりますので、常に腕に付けておいてください。あなたの体調も同時に管理できますので、何かあった時は緊急通報機能もあります。また、ネットショッピングなどもそのスマートウォッチのアプリで行います。赴任先に付き次第、開封してください。使い方はそのAIが把握しています」

「はい」

「では、そちらの扉からどうぞ」

「?」


面接官に案内されたのは、会議室の奥に付いている扉。給湯室や倉庫のような扉に見える。


「え?」

「そこの扉を開けて、お入りください」

「この扉ですか?」

「ええ、荷物を忘れずに」

「はい」

「ご武運を」


そう言われて、2台のトランクを押しながら扉を開く。どうやら廊下のようでそのままトランクを押していく。1分もしないうちに再び扉があり、その扉を開けると室外に出た。

大きな島のような土地に出た。目の前には小高い丘のようなものがあり、少し下に森とも草原とも言えないような景色が広がっている。


「え?ここどこ?」


先ほどまで室内にいたはずなのに、急にどこかの島のような場所に出てしまった。びっくりして後ろを振り返ると、さきほど通ってきた廊下も扉も消えており、むき出しの岩肌が広がっていた。


「は?」


え?扉はどこ?というかそもそも、ここはどこ?

トランク2台をそっと1か所に置き、周りを確認する。今いる私の場所は短めの草が生えている平地で、背景には崖のような岩肌が見える。上に何かあるのかもしれないが、現時点では確認が出来ない。

すこし降りるとたくさんの木々と草花が見える。ここを歩いて行けば、どのくらいの奥行きがあるのか分かるかもしれないが、今のところ行く気にはならない。


私はその場に座り込み、茫然とした。


「私、遭難したの…?」


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