13 異世界物価状況
ケガをした見た目がグレートピレニーズとバーニーズのワンちゃん、もとい幻狼族の子を拾って3日が過ぎた。ケガの方はポーションで完治していたが、出血していた所為で貧血気味の白い子は起きては再び寝るということを繰り返していた。今では起きてはいるようだったが、特に動くそぶりをせずに静かに過ごしている。黒茶の子は軽傷だったらしく、次の日には起きてはいたが白い子の傍を離れなかった。2匹とも食欲はあるらしく、しっかりと朝・昼・夕の3食を食べ、順調に回復してきている。私は獣医ではないから、鑑定アプリだよりである。
「白ちゃん、黒ちゃん。農園に行ってくるからお留守番しててね」
2匹の頭をそっと撫でて、午前中のルーティンで畑の作業に向かう。相変わらず作物の成長が早く、連作障害を防ぐため野菜の種類を変えながら栽培している。ただし、収穫量がものすごく多い。でもスマートウォッチのインベントリというアプリ容量や時間経過ないようで、収納した野菜が傷むこともなくどんどん増えていっている。
「野菜の心配はしなくていいけど、完全に自給自足ってのは無理があるよね」
「そうですね。米や小麦などの穀物や、肉・魚・卵・乳製品はネットショップだよりですからね」
「ネットショップに鶏や豚、牛もいたけど、手が回らない気がするんだよね…」
「そうですね…。畑の方は午前中で何とかなりますが、果実の収穫や木々の伐採、除草作業にも手がかかりますからね」
幻狼族が争っていた土地を自分の領地にした後、視界を確保するためにも伐採と除草作業をしたのだがここで誤算が生じたのだ。野草や薬草は3日~7日ほどで再び生い茂るほどに再生するのだ。ちなみに木々は2週間ほどで成木になるらしい…。
「かといって、農園にするのもね…」
「まあ、しばらくは資材採掘場所とするのがよろしいでしょうね」
「でも、鶏くらいは飼いたいよね。卵、欲しいし…」
「鶏肉にもなりますよ?」
「いや、それは無理かも…」
「何故です?」
「私、鶏とか解体出来ない。そもそも食肉の解体なんて無理」
「ああ、それでしたら問題ありません」
「どういうこと?」
「クラフトアプリの中に解体のアイコンがあります。それを使えば解体されて、部位ごとにインベントリに収納してくれます」
「え、マジ?」
「ええ、マジです」
自分で解体しないで済むのか…。めっちゃ便利。
「それって豚とか牛とかも?」
「ええ、適応されますよ。何なら魚も適応範囲です」
「じゃあ、鶏くらい買おうかな…」
「鶏ですか?」
「うん。卵も取れるし、鶏肉も確保できるなら助かるかな。ご飯も野菜だったら農園で賄えるから経済的だしね」
「そうですね!まずは鶏からスタートするといいでしょう」
「そうね…。あの子たちもよく食べるし」
「あの子たち?…ああ、幻狼族ですか」
「うん。体が大きいからよく食べるのよね。早く元気になって欲しいから、栄養たっぷりのご飯をあげたいしね」
2匹ともたくさん食べて、早く元気になって欲しい。最初は体がつらいのか痛々しかったが、最近は呼吸も穏やかだ。
「紗英様、あの幻狼族をどうなさるおつもりですか?」
「どうって…。元気になった自然に帰そうと思ってるけど?」
「そうですか…。それなら結構です」
「…?なにかあるの?」
「いいえ、なんでもありません。それより畑のお世話が終わったら、昼食にしましょう?養鶏所の計画も立てなくてはいけません」
「そうだね!大方収穫も水やりも終わったし、ごはんの準備をしなくちゃね!」
幻狼族に対してのソラの言い方が気になったが、養鶏所のことを考えなくちゃと思いすっかり関心をなくしてしまった。今日の昼食は野菜炒めにしようかな、と思いながら家路につく。
「鶏っていっても、いっぱい種類があるのね…」
「そうですね」
「出来れば卵とお肉、両方だといいけど…」
「せっかくなのでこの世界の鶏を購入されてはどうですか?」
「この世界の鶏?」
「ええ、ネットショップには地球産の物とこの異世界産の物の両方取引が出来ます」
「え、そうなの?」
「単価が¥の物は地球産、Gの物はこちらの世界のものとなります」
「へぇー」
ソラの解説を聞きながら、ネットショップを開いてみる。確かに卵(10個)の欄には¥300・500Gと両方の表示がある。それに牛乳(1ℓ)にも¥500・5000G、砂糖(1㎏)に至っては¥300・50000Gとなっている。
「え?砂糖の幅が広すぎない?それに牛乳も…」
「まだ未解明な世界ですが、こちらでは一部の食品が異常に高値で取引されております。さらに食料の供給が不安定のようですね」
「そうなんだ…」
そのままよく見てみればうるち米(5㎏)には¥3000・―――、薬草(1本)には―――・500Gと表記がされている。
「この―――の表記は何?」
「それは取り扱いのない商品ですね。例えばうるち米は地球の貨幣で購入可能ですが、こちらの貨幣では購入不可です。逆に薬草は地球の貨幣では購入不可ですが、こちらの貨幣では購入できるということです」
「何ソレ?じゃあ、砂糖を地球で購入してこっちの世界に転売すればボロ儲けってこと?」
「早い話がそうですね」
「わお」
「ですが、砂糖を売るには袋に詰め替えないといけませんね」
「最終手段に取っておくよ。私の中の、なけなしの良心が咎めるから」
「まあ、逼迫した財政難の場合の最終手段として転売するのもありですね」
「ははは…」
そのままカタログを見ていると、ある鶏の欄が目に入る。
【こっこー・家畜】
種族/改良型魔獣
寿命/生体から1年程
性別/オス・メス
通常メスは1日に卵を3~5個産む
雛から成体になるまでおよそ7日間
肉も美味
販売価格―――・5000G
(メス)―――・10000G
「【こっこー】かー。卵とお肉の両方が取れて成長期間も短め。しかも、卵が1日3~5個前後…」
「もっとも飼育されている鶏の1種ですね。コストパフォーマンスが良くて、住民からも高評価の品種改良された家畜です。エサも雑草や野菜くずで対応できますし、牧草なんかを与えてより臭みの少ない肉になるように工夫されていますよ」
「牧草?」
「ええ。家畜のエサになる草で、種を撒いて1週間程で成長します。3回ほど収穫できますし、種も安価ですので人気ですよ。ここでなら種を撒いて翌日には成長するんじゃないですかね」
「なるほど」
「こっこーは、家畜特有の匂いも少なく、糞は肥料にもなりますしね」
「いいね!試しに育ててみようかな」
「よろしいのではないですか。鳥小屋を用意して周りを囲めば、その範囲からは出ませんし比較的世話の手間がかかりませんよ」
「鳥小屋って作れるの?」
「お持ちの原木でクラフト作成が可能ですよ。柵も作成出来ますし、インベントリに収納して移築も可能です」
「あとは場所だけか…」
「西側のエリアがまだ未開拓ですから、そこを開拓してみてはいかかがですか?」
「そうね…」
地図アプリで土地の大きさを確認すると、自宅のある西側に果樹園と同じくらいの大きさの土地がある。
「とりあえず、昼食の後に橋を架けて様子を見てみるよ。開拓は明日からだね」
「そうですね」
私とソラは明日の予定を計画しながら、昼食のために自宅に戻った。