策謀の影
戦闘の後、俺と慎之助は無事にその場を離れることができたが、心はそれどころではなかった。あの戦闘が何を意味するのか、元親の計画にどんな影響を与えるのか、まったく予測がつかない。だが一つだけ言えることがある。それは、俺たちが今、元親に関する重要な情報を手に入れるために動き出したばかりだということだ。
「どうする?」慎之助が低い声で聞いてきた。
「まずは状況を整理する。」俺は答えながら、周囲を見渡す。戦闘後、村の周辺は少し騒然としていたが、俺たちが巻き込まれた混乱の影響はどうにか免れたらしい。
「それにしても、元親がどこまで本気で外部勢力との連携を深めているのか、見当もつかないな。」慎之助は眉をひそめる。
俺も同様だ。あの戦闘は単なる警告だったのか、それとも実際に力を持つ外部勢力が動き出したのか。何かが動き始めているのは確かだ。だが、それが何か、どれほどの規模で展開されているのか、その全容はまだわからない。
「とにかく、あの集会所の近くにあった兵士たちがどこへ向かったのか、追跡する必要がある。」俺は決断を下す。
慎之助はうなずいた。「了解だ。だが、慎重に行動しよう。」
俺たちはすぐにその場を離れ、集会所からしばらく歩いた。目立たないように、歩調を合わせて周囲の動きを探りながら進む。元親の兵士たちが向かっていた先を突き止めることが、次の一手につながる。
数十分後、俺たちは集会所のさらに奥に進み、隠れた小道を通っていた。ここでは、町の喧騒から離れた場所にある倉庫や小屋が並んでいる。雰囲気は一気に陰鬱になり、何か不気味な感じが漂っていた。
「何だ、この感じは…。」慎之助がつぶやく。
「だが、これが元親が裏で動かしている場所の一つかもしれない。」俺は静かに答えた。
そのとき、数人の兵士が小屋の中から出てきた。どうやらその小屋は、元親の手勢が密かに集まる場所の一つらしい。俺たちはそのまま隠れ、兵士たちの動きを確認する。
「やはり、あの場所が重要な拠点になっている可能性が高い。」慎之助が低く言う。
「そうだな。情報を掴むためには、もっと近づかないと。」俺は決心し、その小屋へ向かう道を探す。
慎之助は顔をしかめながらも、俺に続いて歩き出す。その後、俺たちは別の隠れ家を使って小屋の近くに潜伏することに成功した。時間が経つにつれ、次第に誰も気づかないように、周囲の警戒を避けつつ、俺たちはさらに近づいていった。
だが、やがてその小屋から誰かが出てくる気配がした。とっさに俺たちは身を隠し、その人物の顔を確認する。
「これは…。」慎之助が言葉を漏らした。
その人物は、見覚えのある顔だった。元親の側近であり、実力者でもある――長宗我部の重臣の一人、永井尚志だった。
「尚志がここに…。」俺は息を呑んだ。
「彼が元親の計画に関わっているなら、少しでも情報を引き出さないと。」慎之助が冷静に言う。
俺はうなずき、慎之助と共にその人物の行動を観察し続けた。永井は小屋を出た後、再び何かを確認するように周囲を見回し、誰にも気づかれないように移動を始めた。俺たちはすぐにその後を追い、できるだけ静かに行動した。
数十分後、俺たちは永井が向かっていた場所にたどり着いた。それは、町の外れにある古びた宿屋だった。宿屋の前には数人の兵士が立っており、まるで見張りのように警戒している。
「ここで何かが行われている…。」俺はひそかに呟いた。
慎之助は黙って頷き、俺に続いて歩き始める。「何をするつもりだ?」
「まずは様子を見る。」俺は息をひそめながら答えた。「どんな会話が交わされているのか、それを知ることが重要だ。」
慎之助と俺は宿屋の近くに身を潜め、しばらくその場の様子を見守った。宿屋の中からは、かすかな声が漏れ聞こえてきた。誰かが話している声だ。それは、長宗我部の重臣だけではなく、元親の部下と思われる者の声も混じっていた。
「間違いない…元親の手勢だ。」俺は息を殺して呟いた。
そのとき、突然、宿屋の中から大きな音がした。何かが倒れた音だ。俺と慎之助は即座に反応し、宿屋の中で何が起こっているのかを確認するために、さらに近づこうとした。
だが、その瞬間――
「誰だ!」宿屋の前に立っていた兵士が、突然、俺たちの方を指差した。
俺たちは一瞬、凍りついた。次の瞬間、その兵士は鋭い声を上げて駆け寄ってきた。
「逃げろ!」俺は慎之助に叫び、すぐにその場から飛び退いた。
戦闘が始まる前に、俺たちはまずその場を離れなければならない。何が起こったのか、次第にその答えが明らかになる。だが、まずは生き延びなければならない。