表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/58

背後に潜む影

倉庫の近くに立った時、俺は慎之助に目で合図を送った。あの倉庫に何かが隠されている、ただの商業倉庫ではないことは確かだ。これ以上、放置しておくわけにはいかない。俺たちは無駄に動き回ることを避け、慎重に進む必要があった。


「慎之助、周囲を確認しろ。」俺は低い声で言った。


慎之助はうなずき、俺と少し距離を取って周りを見渡し始めた。その間、俺は倉庫の入り口に目を凝らしていた。外からは何の音もしない。だが、気配は確かに感じる。この倉庫に出入りしている人々の気配が、少しずつ不穏になってきた気がした。


「彩斗、誰かが見張ってる。」慎之助が声を潜めて戻ってきた。


「見張りか。」俺は目を細めた。「どんな奴だ?」


慎之助は小さな声で言った。「男二人、入口の近くに立っている。それに、他にも数人が倉庫の中にいるかもしれない。動きが不自然だ。」


俺は少し考え込む。これまでの調査で、倉庫周辺には商人や農民がいることは分かっていたが、外部の勢力が関わっているとは予想外だった。だが、この瞬間にその詳細を確認しないわけにはいかない。


「慎之助、俺が先に行く。」俺は決断した。「お前は少し後ろで待機してくれ。」


「分かった。」慎之助は頷き、少し距離を取った。


俺はゆっくりと歩き出す。倉庫の近くに立つ二人の見張りがこちらに気づかないよう、物陰を上手く利用して接近する。歩幅を小さくして、足音を立てないように気を付けながら、少しずつ距離を縮めていった。


「おい、何か見つけたか?」一人の見張りが言った。


「いや、何もない。」もう一人が答える。


その会話を耳にした俺は、呼吸を整えながらさらに接近した。幸い、彼らは注意を欠いている。今がチャンスだ。だが、完全に近づく前に、俺は一瞬立ち止まって考えた。


「今、倉庫の中に何かがあるのは確実だ。だが、ただ情報を得るだけじゃ意味がない。」俺は静かに呟いた。


それと同時に、足を止めることなく倉庫の角を回り、入口に忍び寄る。見張りの一人が視線を外した瞬間、俺は素早く倉庫の扉を押し開けた。


中は薄暗く、倉庫内の陰に何人かの影が見えた。何かを運び込んでいる様子だが、その動きが異様に速い。俺は隠れた場所からじっとその光景を見守った。


「お前ら、準備はいいか?」倉庫内で一人の男の声が響いた。


「もうすぐだ。」別の男が答える。


俺はその会話を聞き逃さなかった。何かが動いている。準備というのは、ただの物資の運搬ではない。何か大きな計画が進行しているのだろう。それに関わる者たちは、見かけとは裏腹に規律が保たれているようだった。


「慎之助、今のうちに動け。」俺は静かに慎之助を呼んだ。


慎之助がすぐに近づいてきて、俺の隣に立つ。


「どうする?」慎之助が低い声で尋ねた。


「今の会話から察するに、何かが動いている。俺たちは情報を引き出すしかない。」俺は言った。


慎之助は小さく頷く。「じゃあ、どうやって?」


「まず、誰かを捕まえないと。」俺は冷静に言った。「少しだけ騒ぎを起こして、誰かを外に引き出す。」


慎之助は少し戸惑った様子で言った。「騒ぎを起こすって…?」


「お前、力はあるだろ?」俺は軽く笑って言った。「少しだけ、相手を油断させるだけだ。で、あとはお前が手早く情報を引き出すんだ。」


慎之助は少し考えてから、頷いた。「分かった。」


俺は一度深呼吸してから、慎之助に合図を送った。慎之助が軽く壁を叩き、意図的に音を立てた。その瞬間、倉庫内の男たちが警戒の目を向ける。


「何だ?」そのうちの一人が叫び声を上げた。


その隙に、慎之助が素早く近づき、最初の男を掴み、倉庫の外へと引きずり出す。俺はその間に、倉庫内の他の人物を見守り、動きの確認を続けた。


慎之助が外に引き出した男は、驚きと恐怖の表情を浮かべている。俺はその男に冷たい視線を向け、問い詰めた。


「お前らが何をしているか、知っているんだろう?答えろ。」


その男はしばらく黙っていたが、次第に震えながら口を開き始めた。「…や、やめろ。俺たちは…ただ、雇われているだけだ…。」


「雇われている?誰に?」俺はさらに詰め寄った。


男はさらに震えながら言った。「…元親様の部下だ。俺たちは、外部勢力との取引を手伝ってる。」


その言葉に、俺の中で一つのピースが嵌った。元親…。やはり、彼が何か大きな計画を動かしている。それがこの村にも影響を与えているということだ。


「元親の部下か。」俺は低く呟いた。「もっと詳しく話せ。」


その男はさらに言葉を絞り出すようにして続けた。「その取引には、四国全体を動かすような…大きな計画が関わっている。だが、詳しくは…まだ教えられない。」


俺はその男を冷たく見つめた。話せることはこれ以上ないだろう。それなら、この男をどうするかだ。


「分かった。」俺は慎之助に合図を送ると、その男を再び倉庫に押し戻し、足早にその場を離れた。


俺たちはその日のうちに、村から少し離れた場所で再び集まった。慎之助も俺も、次の一手をどう打つべきかを考えながら、深く沈黙していた。


「元親、か。」慎之助が呟く。


「どうやら、俺たちの動きがさらに大きな波に繋がりそうだな。」俺は冷静に答えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ