背後に潜む影
倉庫の近くに立った時、俺は慎之助に目で合図を送った。あの倉庫に何かが隠されている、ただの商業倉庫ではないことは確かだ。これ以上、放置しておくわけにはいかない。俺たちは無駄に動き回ることを避け、慎重に進む必要があった。
「慎之助、周囲を確認しろ。」俺は低い声で言った。
慎之助はうなずき、俺と少し距離を取って周りを見渡し始めた。その間、俺は倉庫の入り口に目を凝らしていた。外からは何の音もしない。だが、気配は確かに感じる。この倉庫に出入りしている人々の気配が、少しずつ不穏になってきた気がした。
「彩斗、誰かが見張ってる。」慎之助が声を潜めて戻ってきた。
「見張りか。」俺は目を細めた。「どんな奴だ?」
慎之助は小さな声で言った。「男二人、入口の近くに立っている。それに、他にも数人が倉庫の中にいるかもしれない。動きが不自然だ。」
俺は少し考え込む。これまでの調査で、倉庫周辺には商人や農民がいることは分かっていたが、外部の勢力が関わっているとは予想外だった。だが、この瞬間にその詳細を確認しないわけにはいかない。
「慎之助、俺が先に行く。」俺は決断した。「お前は少し後ろで待機してくれ。」
「分かった。」慎之助は頷き、少し距離を取った。
俺はゆっくりと歩き出す。倉庫の近くに立つ二人の見張りがこちらに気づかないよう、物陰を上手く利用して接近する。歩幅を小さくして、足音を立てないように気を付けながら、少しずつ距離を縮めていった。
「おい、何か見つけたか?」一人の見張りが言った。
「いや、何もない。」もう一人が答える。
その会話を耳にした俺は、呼吸を整えながらさらに接近した。幸い、彼らは注意を欠いている。今がチャンスだ。だが、完全に近づく前に、俺は一瞬立ち止まって考えた。
「今、倉庫の中に何かがあるのは確実だ。だが、ただ情報を得るだけじゃ意味がない。」俺は静かに呟いた。
それと同時に、足を止めることなく倉庫の角を回り、入口に忍び寄る。見張りの一人が視線を外した瞬間、俺は素早く倉庫の扉を押し開けた。
中は薄暗く、倉庫内の陰に何人かの影が見えた。何かを運び込んでいる様子だが、その動きが異様に速い。俺は隠れた場所からじっとその光景を見守った。
「お前ら、準備はいいか?」倉庫内で一人の男の声が響いた。
「もうすぐだ。」別の男が答える。
俺はその会話を聞き逃さなかった。何かが動いている。準備というのは、ただの物資の運搬ではない。何か大きな計画が進行しているのだろう。それに関わる者たちは、見かけとは裏腹に規律が保たれているようだった。
「慎之助、今のうちに動け。」俺は静かに慎之助を呼んだ。
慎之助がすぐに近づいてきて、俺の隣に立つ。
「どうする?」慎之助が低い声で尋ねた。
「今の会話から察するに、何かが動いている。俺たちは情報を引き出すしかない。」俺は言った。
慎之助は小さく頷く。「じゃあ、どうやって?」
「まず、誰かを捕まえないと。」俺は冷静に言った。「少しだけ騒ぎを起こして、誰かを外に引き出す。」
慎之助は少し戸惑った様子で言った。「騒ぎを起こすって…?」
「お前、力はあるだろ?」俺は軽く笑って言った。「少しだけ、相手を油断させるだけだ。で、あとはお前が手早く情報を引き出すんだ。」
慎之助は少し考えてから、頷いた。「分かった。」
俺は一度深呼吸してから、慎之助に合図を送った。慎之助が軽く壁を叩き、意図的に音を立てた。その瞬間、倉庫内の男たちが警戒の目を向ける。
「何だ?」そのうちの一人が叫び声を上げた。
その隙に、慎之助が素早く近づき、最初の男を掴み、倉庫の外へと引きずり出す。俺はその間に、倉庫内の他の人物を見守り、動きの確認を続けた。
慎之助が外に引き出した男は、驚きと恐怖の表情を浮かべている。俺はその男に冷たい視線を向け、問い詰めた。
「お前らが何をしているか、知っているんだろう?答えろ。」
その男はしばらく黙っていたが、次第に震えながら口を開き始めた。「…や、やめろ。俺たちは…ただ、雇われているだけだ…。」
「雇われている?誰に?」俺はさらに詰め寄った。
男はさらに震えながら言った。「…元親様の部下だ。俺たちは、外部勢力との取引を手伝ってる。」
その言葉に、俺の中で一つのピースが嵌った。元親…。やはり、彼が何か大きな計画を動かしている。それがこの村にも影響を与えているということだ。
「元親の部下か。」俺は低く呟いた。「もっと詳しく話せ。」
その男はさらに言葉を絞り出すようにして続けた。「その取引には、四国全体を動かすような…大きな計画が関わっている。だが、詳しくは…まだ教えられない。」
俺はその男を冷たく見つめた。話せることはこれ以上ないだろう。それなら、この男をどうするかだ。
「分かった。」俺は慎之助に合図を送ると、その男を再び倉庫に押し戻し、足早にその場を離れた。
俺たちはその日のうちに、村から少し離れた場所で再び集まった。慎之助も俺も、次の一手をどう打つべきかを考えながら、深く沈黙していた。
「元親、か。」慎之助が呟く。
「どうやら、俺たちの動きがさらに大きな波に繋がりそうだな。」俺は冷静に答えた。