闇をさく
四国の支配が着実に進んでいく中、次第に俺の力は未知の領域へと広がりを見せ始めていた。元親を倒し、四国を統一しただけでは終わらなかった。俺は転生者として、過去の記憶を持っているだけでなく、今の俺には常人を超えた能力が目覚めつつあった。あの戦いからの勝利にあぐらをかいている暇はない。これからの道はもっと険しく、俺がどれほど強くなろうとも、それに見合う挑戦が待ち受けていることを、もう痛いほど理解していた。
その日の夜、俺は再び自分の力を試すために孤独な訓練を始めた。人の目を避け、誰もいない広大な野原に足を運び、空気を感じながらその中に漂うエネルギーを手に取るようにして感じ取った。
「この力、どう使えばいい…?」
俺は自分の内側に潜む、まだ完全に理解しきれていない力を感じながら、手を伸ばす。その力は、まるで空間そのものを操作するような感覚を伴っていた。四国統一を果たしただけでは満足できない。もっと強く、もっと速く、そしてより確実に。
そのとき、ふと目の前に閃光が走った。何もない空間から光の波動が湧き上がり、それを引き寄せるようにして手のひらに集める感覚があった。突然、そこに意識が集中し、俺は息を呑んだ。
「これが…!」
その力は、「空間の裂け目」を作り出す能力だった。空間そのものをねじ曲げ、一定の範囲で物理法則を無視するようなエネルギーを引き寄せているような感覚だった。俺はそれをさらに強く、広げようと力を込めた。
すると、目の前の空間が歪み始め、瞬く間に裂け目が開いた。そこからは、異なる景色が一瞬だけ映し出されたが、それもすぐに消えていく。俺はその力の使い方に、まだ完全には慣れていないが、今まで感じたことのない感覚に興奮を覚えた。
「これを使えば、戦局が大きく変わる…」
空間を歪める力。戦場での移動、敵の行動を予測する力、そして最も重要なのは、戦闘において相手の動きそのものを制限することができる可能性があった。少なくとも、これで四国における敵対勢力に対して優位に立つことはできる。
その夜、俺はその新たに覚醒した能力に没頭し続け、次第にその力を完璧に制御できるようになっていった。
だが、その力が単なる戦闘の優位に留まらず、これからの未来にも大きな影響を及ぼすことになるとは、当時は思いもしなかった。
次に俺が向かったのは、四国の北部に位置する、最も強大な勢力の一つである「伊予」の大名、加藤信長の領地だった。加藤は四国の他の大名と比べて比較的独立心が強く、俺に対しても最初から友好を示すわけではないと考えていた。だが、このまま放置しておくわけにもいかない。
加藤の領地に到着すると、すぐにその豪華な屋敷に迎えられた。屋敷内には強い威圧感を放つ護衛たちが立っていたが、それも俺にとっては気にするべきことではない。俺が今まで経験した戦闘や交渉と比べれば、これもまた一つの通過点に過ぎなかった。
「彩斗様、ようこそ。」加藤信長が俺を迎え入れる。彼は中年の大名で、非常に冷静で理知的な人物だ。「長宗我部家が四国を制したと聞き、どんなお話を持ってきたのか、非常に興味深いです。」
「加藤殿、あなたには興味がある。」俺は言った。「四国の未来について、どのように考えているのか。」
加藤は少し笑みを浮かべて答えた。「私も四国の平和を守りたいと思っています。しかし、各地の情勢が複雑で、長宗我部家に従うのが本当に最善かどうかは分かりません。」
俺はその言葉を聞きながら、内心で微笑んだ。この男は、自分の立場を確保するために何もかも計算している。だが、俺が持っている力を見せつければ、彼もまた俺の力を認めざるを得なくなるだろう。
「私はただ、四国全体の安定を望んでいるだけだ。」俺は穏やかな表情を作りながら言った。「そのためには、力を示すべき時もある。」
その言葉と同時に、俺の目が一瞬輝き、加藤の周囲の空間に微かなひずみが生じた。加藤はその異変に気づき、微妙に身を震わせた。
「これが、俺の力だ。」俺は静かに告げた。「あなたの領土に害を及ぼすつもりはない。しかし、もし逆らえば、この力で完全に制圧することもできる。」
加藤はしばらく無言で俺を見つめた後、ゆっくりと頷いた。「あなたが思っている以上に、私も力には自信があります。しかし、あなたの力がどれほどのものであろうと、私は決して譲ることはない。」
その瞬間、空気が一変した。加藤の周囲からも、今までには感じたことのないエネルギーが感じられた。それはまるで、加藤自身が自らを守るために、秘めた力を解放したかのような気配だ。俺はその変化に気づき、さらに集中した。
「いいだろう。」俺は言った。「だが、覚えておけ。俺の力は、ただの力ではない。」
その時、俺の手が一瞬だけ輝き、空間の裂け目が再び開き、加藤の周囲の防御を一瞬で無効化した。
「お前の力を試させてもらう。」俺の声は冷静で、どこか楽しげだった。
加藤は一瞬固まった後、ようやくその意図を理解し、苦笑した。「なかなかの力だ。私も負けてはいられない。」
こうして、四国の支配を巡る戦いはさらに激しさを増し、俺の力も一層の高みに達することとなった。




