新たな刺客
高松城の占拠を終えた後、俺は周囲の情勢を見定めるために一度休息を取ることにした。戦の疲れが体に染み込んでいたが、戦国時代において、安穏としている暇は一瞬たりともない。元親を倒したとはいえ、それが全てではなかった。四国の統一はあくまで始まりに過ぎないのだ。
城内での会議を開き、慎之助と共に今後の方針を決めるために集まった。慎之助は、戦の余波がどれほど大きいかを理解している。だが、同時に次の一手がどれほど重要であるかも彼は十分に理解していた。
「元親を討ったことで、四国の一部の豪族たちは我が勢力に従うだろう。しかし、まだ油断はできません。」慎之助がその顔を引き締めて言った。
「そうだな。」俺は頷き、地図を広げた。元親が支配していた地域は広大であり、その勢力を一気に飲み込むのは容易ではない。だが、この機を逃す手はないと、俺は直感的に感じていた。「この辺りの領主たち、特に阿波や讃岐の豪族たちがどう動くかが重要だ。」
慎之助は眉をひそめ、しばらく黙って地図を眺めていたが、やがて口を開いた。「確かに、阿波や讃岐の豪族たちは今、元親の死をどう受け止めるかにかかっている。彼らの動向が今後の戦局を大きく左右することになるでしょう。」
「では、まずは彼らの動きに注視し、反応を見ながら対応を決める。」俺はそう告げて、慎之助と共に次の手を考え始めた。
その後、俺は数日間、周囲の豪族たちとの接触を試みた。阿波や讃岐の領主たちも、元親の死後、どのように行動するかが未知数であり、彼らの対応次第で、今後の戦局が決まるだろう。しかし、意外にも彼らの反応は冷静であった。元親の死を受けて動きがあるかと思いきや、ほとんどの豪族たちは慎重に様子を見ていた。まるで、次の支配者が誰になるかを探っているかのようだった。
その時、ある人物が俺のもとを訪れた。それは、阿波の豪族、三好長治だった。彼は名を馳せていたわけではないが、阿波を支配していた力を持つ人物であり、元親の死後にどのように振る舞うかを決めかねていた様子だった。
「長治、どうした?」俺は彼を迎え入れ、茶を進めた。
「実は、四国の状況に関して、お話があって参りました。」三好長治は静かに口を開いた。その目は鋭く、どこか冷徹な印象を与えた。
「話を聞こう。」俺はその言葉に真剣に耳を傾けた。
「元親が倒れた今、四国は空白地帯となった。」長治は言葉を選びながら続けた。「我々のような小さな豪族がここで動けば、あっという間に大きな波に飲み込まれてしまう。しかし、もしあなたが本当に四国を制するつもりならば、その後ろ盾があれば、我々も動きやすいのだ。」
「後ろ盾?」俺は眉をひそめた。
「元親が信長と連携を深めていたという話は聞いたことがあるか?」長治が続けた。
その言葉に、俺は少し驚いた。元親が信長と接触を持ち、協力関係を結んでいたのは事実だが、それがどれほど深いものだったのかは知らなかった。
「信長が四国の支配に関与している可能性がある。」長治は冷徹な表情で続けた。「しかし、信長が直接四国に手を出すことはないだろう。今後、彼があなたに協力するならば、それは四国の支配においてあなたの後ろ盾となるだろうが、そのためには慎重に動くべきだ。」
「なるほど。」俺はその意図を理解した。信長との関係が今後の鍵となる可能性があるということだ。それが本当ならば、信長との協力を前提に、四国の統一を進めるべきだろう。
だが、その時、突然、慎之助が急いで部屋に飛び込んできた。「大変です!」彼は顔色を変えて、息を切らしていた。
「どうした?」俺は立ち上がり、すぐに慎之助に向き直った。
「阿波の勢力が動きました。長治の後ろに誰かがついているようです。」慎之助は言った。
その言葉に、俺の心臓が一瞬跳ね上がった。阿波の勢力が動き出したということは、何か大きな変化が起きた証拠だ。それが誰の手引きによるものなのかをすぐに突き止めなければならなかった。
「行動を起こす前に、情報を集めろ。」俺は慎之助に指示を出すと、すぐに自らも動き始めた。
数日後、長治が再び俺の元に現れると、彼の表情はどこか微妙に変わっていた。「どうやら、阿波の支配権を巡って、他の勢力が動き出したようです。誰かが裏で糸を引いているのは間違いない。」




