⑧ 阿久津の焦り
<はじめに>
今回は入学式後みんなと解散した後の阿久津視点です!!
★ 補足!
入学式の後に図書館に行こうとしていたのに、結局二日目の朝イチに阿久津は図書館に向かっていましたよね?なんでかって?どうやら入学式後のその日は行けなかったらしい...
さて、入学式後に一体何があったんだろうね?...(*´꒳`*)
書き方や展開に違和感があるかもしれませんが、生暖かい目で見守って頂けると幸いです。
阿久津は図書館から行く先を変え、職員室へと足を運んだ。
(よし、ここだな...)
入口に掲げられた”職員室”と書かれた小さな看板を見つけると、息を整えた。覚悟を決めて扉に手をかけた瞬間——
ガラッ!
思わぬ勢いで扉が開き、阿久津の腕が一瞬持っていかれそうになった。
驚いて顔を上げると、扉の向こうに立っていたのは万純先生だった。彼は片手を扉に添えながら、驚いた顔を一瞬だけ見せた後、すぐに柔らかい笑顔を浮かべた。
「あれ、阿久津さん?偶然だねー。どうしたの、何か用かな?」
教室で見せていたのと同じ笑顔だ。そのあまりに眩しい様子に、阿久津は一瞬たじろぐ。
(うっ、溢れる優しさオーラ。笑顔が眩しいぜ...)
一瞬、その眩しさに逃げ出したい気持ちに駆られたものの、覚悟を決めると姿勢を正し、先生の目を見つめながらゆっくりと言葉を紡いだ。
「あの、生活費の援助の件で話を...」
その言葉を聞いた瞬間、万純先生の笑顔が真剣な表情に変わった。
「......そのことか。ちょっと中に入って」
先生は職員室へと入るよう促し、自分も職員室の中に戻っていく。
(えっ、先生ってあんな顔もするんか...)
表情の変化に驚きを隠せない阿久津は、戸惑いながらもそのあとを追った。
「な...なんだこれ...」
職員室に足を踏み入れた瞬間、阿久津は目を見開く。そこに広がっていたのは、彼の知る職員室とはまるで違う光景だった。
机が並び、先生たちが密集しているのではなく、個室が所狭しと立ち並ぶ構造。まるで、教室内にアパートが形成されたような異様な空間だった。
ちょうど別の先生が個室の扉を鍵を使って開け、中へと消えていくのが見えた。
「あ、びっくりした?初めて見るとかなり変だよね」
隣で足を止めた万純先生が、ふわりと笑みを浮かべた。
「ここ、学園長から色々重要資料を貰うことが多いから、セキュリティ状こうなってるんだ」
「...貰う?」
阿久津は耳を疑い、思わずその言葉を復唱した。
「まぁまぁ、それはあとで教えますよ」
曖昧に流すと、先生はある個室の扉の前で立ち止まり、ポケットから鍵を取り出して施錠を解除した。
「とりあえず、入って入ってー。好きな場所に座って」
扉の向こうに現れたのは、小さな教室のような空間だった。中央に大きな机と椅子、隅には作業机が一つ。阿久津は目を見開いたまま立ち尽くした。
(特殊すぎるだろ...なんだよここ...)
万純先生に軽く背中を押され、促されるまま部屋に入ると、阿久津は中央の椅子に恐る恐る腰を下ろした。
そして、向かいに座った万純先生は、真剣な顔で問いかけた。
「...えっと、お金の援助の件だっけ?」
優しい口調なのに、その真剣さに阿久津は思わず背筋を伸ばし、体が強張る。
「は...はい...入学式の時、学園長が言っていたので」
万純先生はその言葉を聞きながらゆっくりと立ち上がり、作業机に向かって歩き出した。
阿久津は鍵を使って机の引き出しを開ける先生の様子をじっと見つめた。
(万純先生...なーんか掴めない人だな...)
やがて万純先生は厚めの茶封筒を手に戻ってきた。それを机の上に置き、ニコニコと微笑む。
「どうぞー、阿久津さんに渡すもの。中、見てみて」
「...これって...なんですか?」
警戒心を滲ませながら茶封筒を手に取ると、その重さに思わず顔をしかめる。
(おっも...これってまさか...)
阿久津が茶封筒の封を切っていると、万純先生が柔らかく話しかけてくる。
「本当は、申請しに来た次の日に渡すのが普通なんだけどね。阿久津さんだったら絶対初日に言いに来るだろうって、学園長に言われて、あらかじめ預かっていたんだよ」
封を開けた瞬間、阿久津の視界に飛び込んできたのは、想像を超える額の札束だった。
「な......!先生!なんですか、この額は!」
「え?阿久津さんの生活費だよ?」
そうあっけらかんと言われた、阿久津は思わず声を荒げ椅子を立ち上がる勢いで倒してしまう。
「いや、だとしても多いですよ!俺、一人分の相場知っているんですよ!?」
すると万純先生は数秒目を閉じ、再び真剣な顔になり、ゆっくり話し出した。
「二人分+α...これなら納得する?」
「は.........?」
冷静な口調で返され、阿久津は思わず絶句し、何も言い返せなかった。
二人の間に沈黙が続いたその時、不意に阿久津の鞄の中から電話の着信音が響くのが聞こえた。
「...すみません。出てもいいですか?」
「はい。構いませんよ」
そう言われた阿久津は慌てて鞄から携帯を取り出すと画面には“公衆電話”の文字が表示されていた。
(...なんだ?)
恐る恐る応じると、携帯の向こうから聞き慣れた声が飛び込んできた。
『あっ、兄ぃー!』
「...っ、お前!?どうしたんだよ!携帯は?!」
『ない....お母さんが知らない男の人と帰ってきたと思ったら、すぐに追い出されちゃって。あ、でも小銭は持ってこれたんだよ!』
「...くそ、あいつ。ちょっと、今どこにいるんだ?........え?まさかそこまで歩いたのか?」
「あらら、困っているみたいだね?」
焦る阿久津の様子を見て、万純先生が小声で呟きながら立ち上がった。そして、作業机に掛かっていた鞄から車の鍵を取り出し、指で揺らしながら阿久津に見せつけた。
「迎えに行くよ」
「.....!」
万純先生に小声でそう言われた阿久津は驚きつつも、瞬時に状況を把握して携帯に向かって声を荒げた。
「.....今からそっちに行くからそこから動くんじゃないぞ!え、桜の花びら?あぁ、拾っていいから!と、とりあえず!変な大人に着いていくなよ!またな!」
そう言って電話を切ると、阿久津は慌てて、倒した椅子を直しながら自分の鞄を掴み直し、深く頭を下げた。
「先生、ありがとうございます。本当に助かります!」
「お礼は無事合流してからでいいよ。ほら、早く行こう」
万純先生の指示に従い、阿久津は学校裏の駐車場まで急ぎ、案内されるまま助手席に乗り込んだ。
車のエンジンが静かにかかると、万純先生はナビを起動させ、質問を投げかけてきた。
「妹さん、どこにいるって?」
「桜並木近くの公衆電話です......。は?なんで知ってるんですか!」
咄嗟に声が荒くなった自分に驚きながら、阿久津は先生を振り向いた。その目には困惑と警戒心が入り混じっていた。
「学園長から渡された資料を読んだんだよ。それに、今の電話を聞いていれば予想はつく」
万純先生の声は穏やかだったが、その冷静さが逆に阿久津に疑念を積もらせた。
(資料...?何を知ってるんだ......?)
心の中で恐る恐る問いかけるように、万純先生の横顔を盗み見た。
「阿久津さんシートベルト忘れずにね」
「あ、はい。すみません...」
その余裕ある表情に逆らえないような圧を感じつつ、阿久津はぎこちなく座り直してシートベルトを締めた。
(俺のこと、どこまで知ってるんだよ。この学園...一体何なんだ?)
「はーい、安全第一で急いで行きますよー」
先生は軽く笑うと、車を静かに発進させた。
阿久津の心の中で疑念が膨らみ続け、その振動は彼の心のざわめきを収めるどころか、さらにかき乱していった。
...
車内には沈黙が続いていた。そんな気まずい空気を破るように、万純先生が唐突に口を開く。
「ねぇ、阿久津さん。お金の話だけど、結局受け取ってくれるんだよね?」
その一言が、阿久津の心を引き戻した。焦りと動揺が混じる中、必死に言葉を絞り出した。
「......それは、受け取りたい気持ちはありますけど、額が額ですし、正直、戸惑ってます。それに、内訳もよくわかりません」
なんとか返事をしたものの、言葉に自信はなかった。そんな阿久津を横目で見ながら、万純先生が静かに続ける。
「阿久津さん、中学の頃、妹さんを養うためにバイトしてましたよね?」
「......っ!?」
瞬間、息が止まる。頭の中が真っ白になり、視界が一瞬揺れたように感じた。
「それも、他人には絶対言えないような場所で...でしたよね?」
「な、な、なんで....なんでそんなこと知ってるんですか!」
阿久津は声を荒げ、体が前のめりになる。冷や汗が背中を伝い、手が震えるのがわかった。
「......どういうことですか?俺がそんなことをしてたなんて、どうして知ってるんですか!」
拳を握りしめ、思わず先生に詰め寄るような勢いで問いかけた。
「先程も言いましたが、学園長が渡してくれた資料のおかげ...ですよ」
先生はふふっと笑う。その表情が逆に冷たいものに見え、阿久津は椅子に深く背中を預けた。
「資料って、何が書かれてるんですか。俺の........全部がそこに?」
声は次第に小さくなり、最後の方は独り言のようになった。
「知りたいですか?」
万純先生は目を伏せ、ハンドルを握る手を少しだけ動かした。
「その資料には、ここに来る生徒一人一人がどういう状況で、どんな理由で招待されたのか、書いてあるんですよ。もちろん全てではありませんが...だから、あの資料は担当の物が大事に保管しているんです」
阿久津はその言葉に絶句した。額にじんわりと汗がにじむ。彼の脳裏には、妹のためにとある場所で働いていた自分の姿が嫌というほど蘇っていた。
「......学園長は一体何者なんですか?」
震える声で問いかけたが、万純先生はただ静かに笑っただけだった。
「それは、私にもよくわからないですよ。けど——ここの卒業生として、同じく不思議には思っています」
「...は?卒業生?じゃあ先生も何かを?」
阿久津は驚きに目を見開いた。だが先生は表情を変えず、ただ一言。
「はて、どうでしょうね?」
万純先生の静かな声が車内に響いた。
阿久津はその声に反応し、横目で先生の方を見たが、先生は正面の道を見据えたままだった。
その横顔に何かを探るような視線を送りつつも、言葉を飲み込む。
「...阿久津さん。この学園は、あなたみたいな人を助けるためにあるんです。それだけは信じてほしいです」
運転席からの穏やかな声が聞こえた。その言葉に、阿久津はしばらく沈黙した後、顔をあげ前方に目を向けた。
「...本当かよ」
搾り出すように答えた阿久津の声には、どこか虚ろな響きがあった。
窓の外をぼんやりと眺めながら、彼の視線はまるで現実から逃げるように桜並木の向こうに目をやった。
窓の外では桜の花びらが風に乗って舞っていた。外の穏やかな景色とは対照的に、車内には張り詰めた空気が漂い続けている。
<おわりに>
これからもゆっくり更新して行く予定なので、少しでも続きが気になる!!と思ってくださった方は、ブクマなどして気長に待っててくださるとモチベアップです!
さて、今回の会話はいかがでしたか!!
書いている途中、先生の口調が迷子になるし、先生が阿久津の方ガッツリ視線行っちゃって、脇見運転所の騒ぎではなくなっていたしで、書き直すのに時間かかっちゃいました。(´>ω∂`)☆
どうやら、妹を迎えに行く為に図書館は行けなかったようですね...さて、次回も阿久津視点が続きますのでお楽しみに!
最後まで読んでくださりありがとうございます!