表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

⑥ 学園からの洗礼

<はじめに>


今回は切るに切れなくて文量多めになっておりますが、視点が迷子にならないよう頑張って書いてみたので、是非最後まで読んでくれると嬉しいです。


書き方や展開に違和感があるかもしれませんが、生暖かい目で見守って頂けると幸いです!



四人が校門に差し掛かると、すでに何人もの生徒が次々と学校に吸い込まれるように入っていった。


「げっ、もうこんな時間じゃねぇか!」


阿久津あくつは制服の袖をめくり、腕時計を確認する。その仕草に、三栖みすずの目が引き寄せられた。


「腕時計....珍しいな。それに、なかなか良いものを使っている」


三栖みすずは腕時計をじっと眺め、感心したように言う。


「おっ、見る目あるな。やっぱお前、いいやつだな」


阿久津あくつは嬉しそうに腕時計を軽く見せつけながら笑った。


「......どうも」


口を緩めながらも淡々とした三栖みすずの返事に、阿久津あくつは何か言い返そうと口を開きかけたが、横から明日奈あすなの声が飛び込んできた。


「図書館はお預けだね、れんくん~」


明日奈あすな阿久津あくつを見て意味ありげにニヤニヤと笑う。


「......そうだったな。だがこっちには、勉強を約束してくれた奴がいるからな」


阿久津あくつは少し前を歩いていた刃霧はぎりをグイっと引っ張り、肩に手を回す。


「うわ、急に引っ張るなよ……あと、距離が近い」


刃霧はぎりはバランスを崩しつつも顔をしかめるが、阿久津あくつは気にした様子もない。


「.....お前、想像以上にひょろいんじゃないか?」


阿久津あくつがからかうように言うと、刃霧はぎりは何も言わず目を伏せる。


阿久津あくつ、今の時代その発言はアウトだぞ」


三栖みすずが呆れたように口を挟むと、明日奈あすなが即座に反応した。


「はーい、ぴーぽーぴーぽー、警察ですー!」


明日奈あすながふざけて手を挙げる。


「やめろやめろ、悪ノリするな!悪かったって!」


阿久津あくつが慌ててツッコミを入れる。そんな軽いやり取りをしながら進んでいると、玄関の入口に厳格そうな顔つきの教師が立っているのが目に入った。


刃霧はぎりたちはその存在感に思わず足を止め、互いに視線を交わす。


「......すげぇオーラだな。あれ、誰先生だ?」


阿久津あくつが小声で呟きながら刃霧はぎりに耳打ちする。


「えーっと、確か....」


刃霧はぎりが答えかけたその時、不意に明日奈あすなが前に出た。彼女の表情は一瞬で明るくなり、満面の笑みを浮かべる。


「おはようございます、三河みかわ先生!歴史の授業、担当になったらよろしくお願いします!」


明日奈あすなの声は朝の空気を一気に和らげるように響いた。その明るさに教師は一瞬たじろぎ、目を丸くしたが、すぐに咳払いをして表情を引き締めた。


「.....ごほん。朝から元気とは良い心がけだ。校内でもその態度を忘れないように」


刃霧はぎり阿久津あくつは顔を見合わせ、小声で話し合う。


明日奈あすな、あんな感じの先生にも堂々といけちゃうのね」


「マジで強メンタルすぎるな。俺なら絶対無理。てか、もう名前覚えてるのかよ」


三栖みすずはそのやり取りを横目に見つつ、ぽつりと漏らした。


「.....記憶力も含めて、すごいなあの才能」


刃霧はぎりたちは改めて明日奈あすなの器用さに感心せざるを得なかった。


下駄箱を過ぎ、みんなで教室に向かっていると後ろから呼び止められる声が聞こえた。


「あー阿久津あくつさーん。いたいた」


一斉に振り返ると担任の万純ますみ先生がこちらに駆け寄る様に近づいてきた。


「迎えが来たぞー行け、阿久津あくつ


刃霧はぎりは肩を組まれた時に言われた発言の仕返しのように、阿久津あくつを先生の方にぐいっと背中を押した。


「...えと、やっぱさっきの発言まずかったですか?」


恐る恐る喋る阿久津あくつを見た先生は思わず笑みをこぼしながら口を開く


「あはは、何を勘違いしているのかわからないが、違うよ。昨日の申し出すでに承認されているから、早速職員室まで取りに来て欲しくて」


「...承認?」


三栖みすずが不思議そうに尋ねる前に阿久津あくつは先生の方についていこうと歩き出していた。


「あぁ、悪い。お前ら、先教室行っててくれ」


後ろ向きに手を軽く振りながら去っていく阿久津あくつを三人は見送る。


「....行っちゃったね」


「とりあえず、先行って席でも取ろうか」


そんなことを言い合いながら、歩を再開させ教室に向かった。



....




「なーんか、道中ゆっくり歩いたせいで、結構ギリギリになっちゃったね」


明日奈あすなが軽い調子で言うのを背に、刃霧はぎりが教室の扉に手を掛けたその瞬間。


「だからって、そんな言い方しなくてもいいだろ!」


机を叩く音と共に響く怒声。扉越しにもただならぬ空気が伝わってきた。


「な、何今の音。ただ事じゃないよ....」


「はぁ、まだ二日目だってのに、面倒ごとか?」


明日奈あすな三栖みすずがそれぞれ感想を漏らす横で、刃霧はぎりは一瞬ビクッとしながらも意を決して扉を開ける。


「違う!そんなつもりで言ったわけじゃないのよ!」


開いた扉の向こうでは、男女が激しく言い争っていた。男子生徒が机を強く叩き、椅子が音を立ててずれ動く。その音が教室全体に響き渡り、周囲の生徒たちが固まっていた。


女子生徒は目を見開き、片手で髪をかき乱しながら必死に言い返している。その必死さが、逆に男子生徒の怒りを煽る形になっているようだった。


「ちょ、ちょっと、やめなよ!」


刃霧はぎりは思い切って二人の間に割って入ろうとした。しかし、その瞬間、男子生徒が勢いよく振り返り、怒鳴りつけてきた。


「なんだよ、お前!こっちの会話に入ってくるな!」


怒声が教室に響き渡り、次の瞬間、男子生徒の手が反射的に動いた。


振り払うような仕草だったが、その動きは想像以上に鋭く、刃霧の顔を直撃する。


バシっ


平手が頬を叩いた音が教室にこだまし、ざわざわしていた空気が一瞬で凍りついた。


刃霧は驚きに目を見開きながら、一歩後ずさる。


「ねぇ!いくらなんでもその態度は酷いんじゃない!」


女子生徒が涙目になりながらも必死に訴えようと、男子生徒に抵抗するよう床を蹴りつけた。散らばるノートや文房具。その光景に教室の空気がさらに重くなる。


刃霧はぎりはたかれた衝撃で一歩後ろに下がりながら、目の前で繰り広げられる醜い争いをただ見つめた。ぶつけ合う感情が渦巻き、彼らの叫び声が耳に痛いほど刺さる。


教室内の空気は重苦しく張り詰め、誰もが息を呑み、次の瞬間に何が起こるのかをただ見守るしかなかった。


その時、刃霧はぎり後ろから軽く腕を引かれる感覚がした。


月斗つきとくん、下がってて。僕が出る」


「え?明日奈あすな.....?」


驚いて振り向いた刃霧はぎりの視界に映ったのは、朝とは全く違う明日奈あすなの冷たい表情だった。彼は刃霧はぎりの前に立ちはだかり、手を広げて庇うような姿勢をとる。


そして、可愛らしい言動が一変し、低く冷静な声が教室に響き渡った。


「お前ら見苦しいぞ、やめろよ」


その一言が教室全体に重く響いた。男子生徒は動きを止め、女子生徒も驚いたように言葉を失った。


明日奈あすなは冷ややかな目で二人を見据え、ゆっくりと歩み寄っていく。


「どっちが喧嘩をふっかけたかなんて知らないけど、ここでこんなことして、何か得られるのか?」


その声は氷のように冷たく、教室内の空気を凍らせた。その言葉は静かだが確実に相手の胸に突き刺さるようで、男子生徒は目をそらし、女子生徒も俯いた。


「お前……勝手なことを言うな!黙ってろ!」


顔を上げた男子生徒が怒りに任せて拳を振り上げ、明日奈あすなに向い振り下ろそうとした瞬間、背後から影のように現れた三栖みすずの手が、男子生徒の首元を正確に捉えた。


「……やりすぎだ」


冷静で低い声が男子生徒の動きを封じ、そのまま三栖みすずは無駄のない動作で力を加え、男子生徒の身体を軽々と机へ押しつけた。


「——っ!」


突然制された男子生徒は食いしばった歯を鳴らしながら、三栖みすずから逃れようとしたが、三栖みすずの力は想像以上に強く、抵抗すればするほど体を押さえ込まれてしまう。机に押しつけられた体が無理に動くたび、机が軋む音が教室に響いた。


「やめろ、周りの奴らを怯えさせて迷惑をかけるだけだ」


三栖みすずの静かな声に、男子生徒は思わず身じろぎを止める。


「……くそっ、覚えてろよ……」


搾り出すような声は怒りと悔しさに滲んでいたが、その勢いは明らかに削がれていた。


その瞬間、教室のドアが勢いよく開き、万純ますみ先生が慌てて入ってきた。


「何をしているんだ!君たち!」


万純ますみ先生は急いで教室に入ったものの、何が起こったのか一瞬理解できずに立ち尽くした。その背後には、紙袋を持った阿久津あくつが驚いた様子で立ち尽くしていた。


三栖みすずくん、今すぐ彼を離しなさい」


先生の鋭い声が、教室内に張り詰めていた空気を一気に弛緩させる。三栖みすずは短くため息をつくと、掴んでいた男子生徒の首元を静かに離し、心を落ち着かせるように近くの席に腰を下ろした。


解放された男子生徒は、首を押さえながら肩で息をしている。体を支えようと机に手をつき、その場にとどまった。


周りの様子を一瞥し、状況を察した万純ますみ先生は、静かに男子生徒に声をかけた。


「今すぐ教室を出て、職員室に来てください」


男子生徒は悔しそうに目を伏せたまま、何も言わずにうなずいた。そして、静まり返る教室を背にしながら、ゆっくりと扉の外へ消えていった。残された教室内の空気は、まだどこか重く、冷たかった。


そんな中、明日奈あすなは素早く刃霧はぎりの元に駆け寄り、小声で、周りに聞こえないように言葉を投げかける。


「ちょ、ちょっと、大丈夫?ほっぺた、腫れてるよ?」


刃霧はぎりはそっと自分の頬に手を当て、じわりとした痛みと、わずかな腫れを指先で感じ取る。先程の冷たい表情とは違い、心配そうな表情で見つめる明日奈あすなに、刃霧はぎりは少し戸惑いつつも、返事をした。


「大したことじゃないから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」


笑顔を作ろうとする刃霧はぎりだったが、その表情にはどこか影が見えた。明日奈あすなはそれを見逃さず、冷静に言葉を続けた。


「そんなわけないでしょ!すぐに保健室に行こう。はい、行くよ!」


言葉を切ることなく、彼は刃霧はぎりの腕を軽く引っ張り、保健室へと導こうとする。その手には、無理やりでも連れて行くという強い意志が込められていた。


「もう、大丈夫だって言っているのに」


刃霧はぎりは軽く笑ってみせたものの、明日菜あすなの真剣な表情に気圧され、観念したように歩き出す。


三栖みすずくん、君にも話を聞きたいので、職員室に来てくれないかい」


教室内を見回していた先生が、静かに三栖みすずに声をかけると、乱れた髪を軽く掻き上げると無言で席を立ち上がり先生の後に続き教室を出ようとしていた。


「あー、ごめんね。やっぱ僕、かえでくんについていく。彼が一方的に責められることがあったら気分悪いし」


その様子を横目で見ていた明日奈あすなは、刃霧はぎりにしか聞こえないような低くて小さな声でぼそりと言った。


「ちょっと!れんくんー!」


そして、表情を明るく切り替えると、まだ状況を把握できていない阿久津あくつに向かって声を上げた。


れんくん、月斗つきとくんをよろしくねー!」


「お、おう……」


そう返事をしながら阿久津あくつがようやく動き出すと、明日奈あすな刃霧はぎりに保健室に行くように強く念押しをしたのちに、教室の扉に向かいながら流れるような動きで、先程の喧嘩相手である女子生徒の腕を掴んだ。


「え、あ、あの.....」


「泣くのは構わないけど、ちゃんと自分も関与してましたって先生のところで説明してもらうからね?」


その言葉を聞いた女子生徒は目を軽く擦りながら小さく頷くと、明日奈あすなに腕を引かれるまま教室を後にした。


先生たちや喧嘩していた二人が出ていくと、教室の人たちは緊張の糸が切れたように徐々に会話を再開させた。


その様子を横目に、机に持っていた紙袋を置いた阿久津あくつが、刃霧の頬の怪我にようやく気が付き、慌てて保健室に行くよう促しながら、廊下で話しかけた。


刃霧はぎり....教室で一体なにが起こったんだよ」


阿久津あくつは事情を聞き出そうと、刃霧はぎりに尋ねたが、遠い目をした刃霧はぎりは自分の頬を手の甲で軽く拭いながら静かに答えた。


「.........さぁ、この学園特有の喧嘩でしょ」


刃霧はぎりはそうぼそりとつぶやき、自嘲気味に笑う。


(こいつ....朝とは随分違う態度だな、どうしちまったんだ?)


その言葉に含まれる無力感に、阿久津あくつはさらに言葉をかけるべきか迷ったが、結局何も言えないまま、二人は保健室に向かった。


保健室に到着すると、担当の先生が刃霧はぎりの顔を見るなり声を上げた。


「あら、どうしたの? 顔が腫れちゃっているじゃない。入学早々大変ね」


「ごめんなさい、ちょっと色々トラブルがありまして」


刃霧はぎりは軽く笑いながら、答えたが、先生は何も言わず刃霧はぎりをベッドに座らせていた。


(うげぇ……やっぱり保健室の先生って相場女性って決まってるよな。気まじー)


阿久津あくつは保健室の中に入ることはなく、なるべく目を合わせないようにしながら二人のやり取りに聞き耳を立てていた。すると先生が刃霧はぎりを手早く診察しながら、ふと阿久津あくつの方に目を向けて声をかける。


「ごめんね、ちょーっとこの子に聞かなきゃいけないことができちゃって。だから、先に教室に戻っててくれない?」


「え......いや、でも.....」


阿久津あくつが戸惑いながら返事をする前に、刃霧はぎりが思わず先生の方を驚いたような目で見ていた。その反応を見て、阿久津あくつは首を傾げる。


(......なんだ? 刃霧はぎりのやつ、なんであんな焦ってんだ?)


刃霧はぎりの表情には焦りの色が浮かんでいたが、言葉にはならないようだった。阿久津あくつは一瞬迷ったものの、先生と刃霧はぎりの間に漂う微妙な空気に耐えきれず、そそくさとドアを閉めながら言う。


「あ、そっすか。俺、先戻りますわー」


半ば逃げるように保健室を出た後、廊下でほっと息をつく。


(いやー、わりぃな刃霧はぎり、助かったわ.......。けど、なんだったんだ。朝から教室で何があったんだ?)


阿久津あくつは頭を掻きながら、あとで事情を聞こうと思いながら教室に戻るため廊下を歩いた。


<おわりに>

少しでも続きが気になる!!と思ってくださった方は、ブクマなどして気長に待っててくださるとモチベアップです!!


今回のシーンいかがでしたか!色々書き直したので楽しい反面大変でしたわ~

★本編では書けなかったのでここで捕捉すると、喧嘩の原因は傍から見たら本当につまらないことです。でもお互い抱えているものがあり、敏感なせいでほんの些細なことであんなことに

刃霧はぎりは事前にヴィクさんから話を聞いていたので、今回の喧嘩を目の当りにして色々察したんでしょうね...


さて次は阿久津あくつ視点の予定です!

最後まで読んでくださりありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ