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④ 卒業生からの忠告

<はじめに>


色々謎が増えていってますがしっかり回収できるよう書きますからね!\( 'ω')/


書き方や展開に違和感があるかもしれませんが、生暖かい目で見守って頂けると幸いです!




撮影も無事終わり、卯月うづきは満足そうに口を開いた。


刃霧はぎりくん!どれも素晴らしい表情だったぞ!」


「ありがとうございます。お褒めの言葉、とても嬉しいです、卯月うづきさん」


照明の光が落ち、カメラのシャッター音が止むと、場にふわりと安堵の空気が広がった。卯月うづきはカメラを下ろし、柔らかい笑顔で刃霧(はぎり)を見つめている。その視線には、プロとしての満足感が込められていた。


「完成品はヴィクトールを通して渡すようにするから、楽しみに待っててくれ」


「はい!ありがとうございます。またご一緒にお仕事できたら嬉しいです」


軽く頭を下げた刃霧はぎりの表情は、ほんのりと達成感に包まれていた


卯月うづきは「おつかれ」と短く答えると、他のスタッフに指示を出しながら撮影機材の片付けに移っていた。


撮影スタジオを後にした刃霧はぎりは、控室へと向かう廊下を足早に歩く。


歩きながら、刃霧はぎりは先ほどの撮影を頭の中で思い出していた。カメラの前での自分の動き、卯月うづきの指示、スタッフの期待の視線──それらがまるで波のように胸に押し寄せる。


「もっとああすれば良かったかな…」


刃霧はぎりはほんの少しの後悔も交じるが、全体的には満足感が勝っている。


控室のドアに手をかけた瞬間、背後から軽やかな声がかかった。


「はーちゃん!」


振り返ると、ヴィクトールが手を振りながら駆け寄ってくる。刃霧はぎりはふっと肩の力を抜き、笑みを浮かべた。


「おつかれさま、はーちゃん。今日もバッチリ輝いていたわよ!」


「ありがとうございます。でも、まだ慣れない部分もあって…」


「なに言ってるの。あれだけこなせていれば十分すぎるくらいよ。自信持ちなさい!」


ヴィクトールは満面の笑みを浮かべながら、刃霧はぎりの背中を軽く叩いた。彼の声には明るさと少しの誇らしさが滲んでいる。


「さーて、次はわたくしとの撮影よ!せっかくの新作だし、桜が綺麗な所に行くわよー」


ヴィクトールの声はどこか弾んでいて、控室に入っていった。刃霧はぎりはその後に続き、控室のドアを静かに閉める。バッグを手に取り、移動の準備を始めようとしたところで、ヴィクトールが目を輝かせているのに気づいた。手には、上品なデザインの新作衣装が揺れていた。


「これが...新作ですか?」


「そうよ!わたくしの最新コレクション!どう、はーちゃん?惚れ直しちゃいそうでしょ?」


ヴィクトールは自信に満ちた笑みを浮かべながら、ハンガーにかけられた衣装を刃霧はぎりに差し出した。その服は淡い桜色を基調にしながらも、シルエットがシャープでモダンな印象を与えるジャケットとパンツのセットだった。春の空気に溶け込むような軽やかさと、洗練されたデザインが見事に調和している。


「素敵ですね...ではさっそく着替えてみますね」


刃霧はぎりは一礼し、バッグを一旦床に置いてハンガーから服を外す。ヴィクトールが控室から出ていくのを確認すると、シャツのボタンを外し始めた。汗ばんだ布が肌から離れると、ひんやりとした空気が気持ち良く感じられる。


新しいシャツを身にまとい、ジャケットを羽織る。滑らかな素材が腕に触れるたび、衣装の完成度が手に取るように伝わってきた。パンツも程よいフィット感で、シルエットが引き締まる。鏡に映る自分の姿に、刃霧はぎりは小さく息をついた。


「うん、いい感じ...」


自分でも思わずつぶやくほど、その衣装は自分に馴染んでいた。


「はーちゃん、着替え終わった~?」


控室の外からヴィクトールの声が響く。刃霧はぎりは返事をしてから、襟を整え、扉を開けた。


「お待たせしました!」


「やだー!似合いすぎて、わたくし感動で気絶しそうだわ!」


ヴィクトールは刃霧はぎりの姿を見るや否や、胸を大げさに押さえてみせる。その仕草に、刃霧はぎりは思わず吹き出しそうになるが、少し恥ずかしそうに目をそらした。


「さぁさぁ、このまま桜の下で最高の写真を撮るわよ!」


刃霧はぎりは頷き、ヴィクトールの後に続いて控室を出た。


撮影地へと続く道沿いには色とりどりの花が咲き誇り、柔らかな日差しが木漏れ日となって地面を照らしていた。ヴィクトールは撮影のイメージを語りながら足を進め、刃霧はぎりはその隣で穏やかに耳を傾ける。


「桜の下でポーズを決めるのが楽しみだわ。今回の衣装、あなたにぴったりだもの~」


「ヴィクさんのデザインはいつも洗練されていますからね。お好みのポーズがあれば何なりと」


「まぁ!嬉しいことを言ってくれるわね。でも、わたくしはあなたの自然体を撮りたいのよ」


軽やかな会話が続く中、刃霧の視線がふと道路の向こう側で止まった。そこにいたのは、小さな女の子の手を引く阿久津あくつの姿だった。


「あれ、阿久津あくつ…?誰だろうあの女の子」


女の子は無邪気な笑顔を浮かべながら、阿久津あくつに話しかけている。刃霧はぎりは一瞬立ち止まり、その様子に目を留める。


「はーちゃん?どうかした?」


ヴィクトールの声が耳に届いたが、刃霧はぎり阿久津あくつから目を離さないまま何も答えず、ただ胸の奥に、何かざわつくような感覚が広がっていく。


「あの、今日学校で喋った子がいて、気になることがあるのでちょっと話しかけてきます!」


好奇心が溢れた彼は、話しかけに行こうと足を向けていた。


「待ちなさい」


その瞬間、ヴィクトールの手が刃霧はぎりの腕を軽く掴んだ。その表情は、いつもの冗談めいた柔らかさとは異なり、どこか鋭いものが宿っていた。


「何を聞こうとしたかわからないけど、学園の子なら無駄な詮索はしちゃダメよ。あの学園に通う人間は、みんなそれぞれ“抱えているもの”があるの。それは、あなたにも言える。だからこそ招待されたんでしょ?」


刃霧はぎりは一瞬、ヴィクトールの言葉に胸がざわついた。「招待された」──その言葉が脳裏に響き、過去の記憶がよみがえる。




________________




刃霧はぎりがその黒い封筒を初めて受け取ったのは、中学三年の秋の終わり頃だった。


「えっと、この後はヴィクさんの所にデザイン案を持って行って、それで...」


そうつぶやきながら歩いていた刃霧はぎりは、曲がり角で誰かとぶつかって尻もちをついてしまう。


「あ、ごめんなさい!……っ!」


刃霧は尻もちをつきながら慌てて謝った。見上げると、きっちりした黒いスーツを着た相手が立っていた。だが、その顔は仮面で覆われており、表情は見えなかった。


「あぁ、すまない……」


相手は低い声で話し、尻もちをついた刃霧はぎりに手を差し伸べた。


「すみません...前を見ていなくて...不注意でした」


刃霧はぎりは相手が着けている仮面に戸惑いながらその手を取り、立ち上がった。その人物は再び仮面越しに刃霧はぎりをじっと見た後、ゆっくりと歩き去っていった。


「なんだったんだ、今の人は?」


刃霧はぎりはその姿を見送りながら落とした鞄の中身を確認しようと、開けると、中には見知らぬものが入っており、目に留まった。


真っ赤な蝋封が施された重厚な漆黒の封筒──見覚えのない名前が書かれていた。


「何これ...?」


興味を引かれた刃霧はぎりはその場で封を切ると、中から上質な紙が滑り出た。達筆な文字でこう書かれている。


「──選ばれた者に贈る、学園への招待状」


「なんだろうこれ、えっと...ヴィクテンラス学園?」


刃霧はぎりは招待状に目を落としながら、聞き慣れない名前に首を傾げた。疑問を解消しようと、鞄からスマホを取り出してネットで検索をかける。


「え......? 情報なし?」


何かのミスではないかと思い、刃霧はぎりはもう一度招待状を見返し、検索したものに打ち間違えがないのを確認した。しかし、見れば見るほど疑問が募るばかり。深いため息をつきながら、彼はその招待状をポケットに押し込み、足早に歩き始めた。


向かった先は、信頼できる相手──ヴィクトールの仕事場だった。





...




「……へぇ、あなたにも来たのね」


封筒を手渡されたヴィクトールは、それを一瞥したあと、口元を引き締めた。その反応に、刃霧はぎりの胸がざわつく。


「こんなものが鞄に入っていて……心当たりがありません」


刃霧はぎりは困惑した声で尋ねた。ヴィクトールは軽くフッと笑みを浮かべながら封筒を机にそっと置くと、彼を真っ直ぐ見つめた。


「ヴィクテンラス学園っていうのはね、この招待状が届いた、選ばれた子しか通えないのよ」


「選ばれた...?」


刃霧はぎりは顔をしかめた。ヴィクトールは薄く笑ったものの、どこか厳かな雰囲気を漂わせている。


「はーちゃんの場合“あれ”が原因だろうね」


「”あれ”?」


「心当たりあるだろ?」


ヴィクトールの声は、いつもの軽やかさを失い、低く静かな響きを帯びていた。その言葉に、刃霧はぎりの声が震え、背筋が凍った。


「嘘...なんでバレたの?隠してきた...つもりだったのに」


ヴィクトールは深く息をつき、顎に指を当てながら答えた。


「はーちゃん、落ち着いて。世に公表されることはことはないし、完全にバレたわけじゃないのよ。ただ、彼らには“見抜かれている”のよ。あなたが選ばれた理由──それは、あなたが秘密を抱えているからよ」


「……」


「ところで、封筒を見つける前に、何か変わったことはなかった?」


「……あ、誰かにぶつかりました。顔は仮面に覆われて見えなかったけど」


「きっと学園長ね。直々に招待とは、すごいわね」


「...なんで、ヴィクさんがそんなこと知ってるんですか……ネットで検索しても何も出てこなかったのに」


「あら、言ってなかったかしら? 」


ヴィクトールは立ち上がり、刃霧はぎりの肩にそっと手を置いた。


「それはね──わたくしもその学園の卒業生だからよ」


「え.......」


刃霧はぎりの驚きに満ちた瞳がヴィクトールを捉えた。息を飲む刃霧はぎりをよそに、ヴィクトールは微笑みを浮かべながら続けた。


「その学園は、世間に対してあまり公にしない場所なの。だからネットで調べても出てこないのよ。でも、わたくしが保証するわ。あの学園に行くべきよ、はーちゃん。きっとあなたにとって新しいチャンスになるわ」


ヴィクトールの言葉に、刃霧はぎりは自然と耳を傾けた。


「あそこには他の学校にはない楽しさがあるし、勉強だってちゃんとサポートしてくれる。大学受験だって心配いらないのよ」


ヴィクトールは少し間を置き、再び刃霧はぎりを見つめた。その視線はどこか優しさと期待に満ちていた。


「それに...あなたが自分を偽らなくて済む日が、きっと来るかもしれないのよ?」


刃霧はぎりはヴィクトールの言葉を噛み締めながら、その胸に去来する不安と期待をそっと抱きしめた。




___________





過去の記憶の中の景色から現実に引き戻されると、視界にはヴィクトールの困惑した顔があった。彼の手はいつの間にか軽く握りしめられており、慌てて力を抜く。


「ちょっと、どうしたの?急に固まっちゃって」


ヴィクトールの声が柔らかく響く。しかし、その声の裏には、刃霧はぎりの異変を気遣う繊細さが潜んでいた。


「い、いえ、大丈夫です!」


刃霧はぎりは慌てて視線を戻し、咄嗟に微笑んで見せたが、その表情にはどこかぎこちなさが残る。


「とりあえず、さっきみたいに行き過ぎた好奇心は時に心の毒になるのよ、はーちゃん」


ヴィクトールは少し肩をすくめながら、刃霧はぎりの腕を軽く引いた。目には穏やかな笑みが浮かんでいるが、その奥には何かを察したような冷静な光が宿っている。


「ごめんなさい、気をつけます」


ヴィクトールは苦笑を浮かべると、そっと刃霧はぎりの腕を放し、ゆっくりと歩き出した。その背中は軽やかなのに、どこか言葉にしづらい威厳をまとっているようだった。


「あ、それと.......」


数歩進んだところで、ヴィクトールが静かに振り返った。その仕草は軽やかでありながら、視線には揺るぎない意志が宿っている。


「“抱えているもの”ってね、他人から見れば些細なことに思えるかもしれない。でも、それがその人自身にとっては、人生を壊しかねないほどの重荷になっていることもあるのよ」


低く穏やかな声に込められた重みが、刃霧はぎりの心に深く突き刺さる。ヴィクトールの言葉には冗談の余地はなく、その一つ一つが真実を帯びているようだった。


「軽々しく考えたり、深入りしすぎたりするのは危険よ。人の心って意外と脆いものだから......まあ、こう言いながらも、友達を作るなとは言わないわ。はーちゃんにはめいっぱい青春を謳歌してほしいし」


柔らかく微笑むヴィクトールの表情と、先ほどの鋭い眼差し。その対比が、言葉の真意を一層際立たせる。


刃霧はぎりは息を飲みながら視線を道路の向こうに戻した。だが、阿久津あくつと女の子の姿は、すでに見えなくなっていた。


胸の奥に残るのは、言葉では表しきれない微かな違和感。それは、自分の中で形にならない感情が揺らぎ、不安と疑念が絡み合う感覚だった。


「...はい。肝に銘じておきます」


刃霧はぎりは深く頷き、ヴィクトールの後を追う。彼の言葉の意味を何度も考え直しながら、静かに歩みを進める。


ヴィクトールはそれ以上何も言わず、先へ歩き出した。その背中には静かな気迫が漂い、刃霧はぎりは追いかけながらも、それ以上の問いを口にすることができなかった。



<おわりに>


少しでも続きが気になる!!と思ってくださった方は、待っててくださるとモチベアップです!!


書いていて、刃霧とヴィクトールの会話がめちゃくちゃ楽しかったです!この先も脱線しない程度に会話挟みたいですね...(*´`*)


次回は学園生活の様子に戻りますよ〜次回もお楽しみに!最後まで読んでくださりありがとうございます!

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