【朝支度の一同】結
「あ、今日はつけてんすね。」
洗面所で会ったラオメにそう声を掛けると、相手はきょとんと目を丸くした。
「え?」
「ピアス。」
数秒間を置いてから、ラオメは自身の耳に触れた。可愛らしいデザインだが、それだけでは誤魔化されないほど大量のピアスだった。昨日までつけてなかった分、目立って感じる。多分、仕事のときは安全重視でつけていないのだろう。引っ掛かったりしたら、確かに危なそうだ。
「…僕がピアスつけてるの、結、初めて見るんじゃないっけ?」
「ピアス穴あったんので。つけないのかな〜って前から思ってたんですよ。」
ラオメが数秒の間の後、いつもの明るい声に近い声で、
「よく見てるね〜!ネイル変えたのとかすぐ気付くタイプ?」
「…。割と気付きますよ〜。ラオメは昨日塗り直したでしょ。」
「え、凄。色は黒のままなのに。結もやるの?ネイルとか、メイクとか。」
今度は俺が数秒黙る番だった。その数秒間に脳内で流れた記憶は、誕生日を祝う母親と、おれの体が"腐ら"ないことに心底の笑みを浮かべた光羅謝と、ファオマ帝国の少女に毅然と勇気を贈ったラオメだった。
なんだかバレてしまいたい気分になって、その暴力的な魅力に魅入られた一瞬の間に、言葉が出ていた。
「メイクは、自分で言うのもアレっすけど、上手い方だと思いますよ。」
「へぇ。時間あるときにでも教えてほしいな。」
ラオメは笑っていなかった。だが俺にはそれ以上進む度胸は無くて、笑顔で手を振った。
「じゃっ、俺お医者さんとこ行くんで。いってきます。」
「いってら〜。」
結局、ラオメは俺に合わせて笑ってくれた。
洗面所を出ると、リビングで洗濯物を畳んでいた光羅謝が顔を上げる。
「あァ、女医んとこ行くの?いってらつしゃい。」
今更だがこの男は、昨日の血の実験を自宅で行ったのだ。"仲間"の前を避けて。何故か?己の血が、ラオメとおれ以外は"腐ら"せると悟っていたから。ラオメとおれ以外から愛されている自信がないから。…愛されていない自信があるから。
そんな相手にとって血の話云々なんて関係ないのだから、伝える必要は無いと、あっさり決めれる男。
「いってきまーす。」
俺がここを出れば、ラオメはこの男に何か言うだろう。結は何か隠している、と言うか、あの子に気を許しちゃ駄目だよ、なのか、それとも、もう俺をここに帰らせない決断をするかもしれない。そしたら、雑で淡白で情の深いこの男は、どうするのか。
「結。」
ドアノブに手をかけた姿勢で、振り返る。
「_なんすか。」
「昼飯は要らないっつーのは聞いたけどォ、夕飯は聞いてなかったと思って。要る?」
ふっと、頬が緩んだ。おれはここに帰れる、気がした。
「欲しいです。お願いします。」




