【空中散歩】結
「全く…お前にゃア勝てないよ。」
言うと同時に、光羅謝は俺をがっちりホールドして、ひょいと跳んだ。全く予想していなかった俺は跳べていないし、彼自身もそんなに力を込めている様子はなかった。しかし、俺達は手を離した風船のようにすらすらと上昇していく。
「さぁ逃げるよ〜。」
ラオメの元に到着すると、ラオメは俺達を背後から抱えるようにして空中を蹴った。気づけば、つかえる感覚も一切なく、滑らかに空中を進んでいる。
本物の、昇降の魔術。
あの男の"コピー"が、所詮"コピー"でしかないのだと、ようやく理解した。
完璧に気流を読み、重力や質量やその他諸々の強さを人体に負荷とならないように調整し、気を抜かずに続ける。昇降の魔術は他の魔術より難解と言われる。それを脊髄反射かのように。
年季と相性。本物の昇降の<使者>。
「車の場所は、」
「分かってる。ちな、食品も車内置いてきた。地上から追われるだろうから、ちょっと速度上げようか。」
冷静に周囲へ視線を滑らせるラオメに、俺ははっとして口を挟んだ。
「違います!あの男…複製の<使者>も、昇降の魔術を使えるんです。精度は落ちるんでしょうが、あいつなら空中でも追ってこれます。」
俺の報告に、『フラ・アンブロシオ』は盛大な舌打ち。相手が地上だけなら、こちらが建物の上を幾度か通るだけでも、大分追いにくくなるだろう。しかし①は飛べる筈だった。
「2人分の能力を同時に"コピー"って出来んのか?」
「いや、俺も知りませんよ。でも同時に"コピー"してんの、見てないと思います。」
「一か八かかなァ…。」
ラオメに抱えられたまま、光羅謝はくるりと後ろを向いた。派手に靡くツインテールを(謝りながら)どかして、彼は①を探しているようだった。タイミング良く、と言うべきか、①がゆったりと上昇してくる。光羅謝は彼から視線を外さず、こちらへ声を投げた。
「もう1人居たよなァ。あいつ、今何処?」
「ここからじゃー視認できませんが…。屋上にヘリとかも無いし、応援の狩り隊を呼びに行ったんじゃ?」
「それは重畳。」
全然重畳じゃない。そう返そうとしたが、呑み込んだ。
光羅謝は目を見開いて笑顔を浮かべ、親指を噛んでいた。
「こちとら二大強力魔術を抱えてェ、十何年も苦しんで…。だってのに、そーホイホイ"コピー"してんじゃねェよ。」
赤い血が見えた。
「…っ!」
その血が相手に届いたのかは、正直分からない。見えなかっただけで、飛んで行ったのかもしれない。少なくとも、①はグラリと揺れて真っ逆さまに落ちて行った。
「落とした!殺せてはねェ!」
「速度上げるよ!捕まってっ!」
風景が勢いよく流れて行く。この焦りや恐怖や、遣る瀬ない苦味も、置いていければいい、と思った。
空にはいつの間にか、暗雲が立ち込めていた。




