【ハリボテの国】ラオメ
翌朝、アヨマちゃん一家に帰宅の旨を伝えた。彼女達は予想以上に悲しんでいたが、朝食の後に僕等は支度を終えた。
途中、アヨマちゃんが1人でいるときに、相棒と僕はさり気なく話し掛ける。ファマ教についての話から、ちょっと思いついたという顔で、僕はこう口にした。
「もし僕等が<魔女の使者>だったら、どうする?」
少女は間髪入れず答えた。
「駆除します。」
羅謝は無表情に、感慨の無さげな声で問うた。
「理由は?」
「それが正義だからです。」
強固な瞳の光。あどけなさの残る少女らしいいつものアヨマちゃんと同じとは思えない、表情だった。
「80年前、1人の<魔女の使者>が無差別に市民を殺した事件が起こりました。50年前、通り魔による被害が広まり、後から<魔女の使者>の犯行だと分かりました。30年前、小学校で<魔女の使者>による傷害事件がありました。
そして、4年前の事件を覚えていますか。<悪魔殺し>を使われたことに逆上した<魔女の使者>が、大量の狩り隊と一般市民を殺した事件です。死体も残らず、泥のような凄惨な有様だったと聞きます。
人の命を軽んじ、容易く手折る。そんな存在など到底許せません。わたしの感情などより、優先すべきは正義です。」
羅謝は目を細めて微笑んだ。痛ましさと、愛おしさを内包した微笑み。
「うん…。」
少し考え込むように足元へ視線を落としてから、彼は顔を上げて、
「ちゃァんと自分で考えられてるようで安心した。これからも、よく考えてェ生きてくんだぞ?」
アヨマちゃんはきょとんとしてから、いつもの顔に戻った。
「もしかして、わたし試されてました?ちゃんと考えて生きてるのかって。」
「そこまででもねェけど、大丈夫かなーって。」
ふふっ、と、柔らかなアヨマちゃんの笑い声。羅謝も笑声を重ねたが、僕はどうにも笑えなかった。
だって、だってさ、
「さァて、そろそろ出発するか。」
「もう行っちゃうんですか…。わたし、皆さんのお陰で今生きてるし、それに何より、皆さんと一緒に過ごせて幸せでした。」
僕は口角を上げて、手を振る。少女の目に、ちゃんと映るように。
「ありがとうアヨマちゃん、僕も楽し"かった"よ。」
背を向けると、とん、と羅謝が肩をぶつけてきた。
用意を終え、僕等はアヨマちゃん一家に別れを告げる。玄関先まで見送りに来た彼女達は、寂し気に手を振っていた。
「いつでも歓迎するから、また来てね。」
「会える日を楽しみにしてるよ。」
アヨマちゃんの両親が微笑んでいる。泣き笑いの顔のアヨマちゃんも、大きく手を振る。
「どうかお元気で。また会いましょう!」
「そっちこそ元気で。じゃァな。」
「ばいばーいっ。」
「お世話になりましたっ!」
運転席に乗り込む。羅謝に促され、結が助手席に着く。彼自身は後部座席に座ると、前の座席と肩を組むようにした。
「…さア!帰ろうぜ。」
邪念を振り切るように、相棒は声を出した。僕等も釣られて笑う。地平線から、清らかな光を伴って太陽が昇る。眩しさに目を細めると、気付いた羅謝がサングラスをつけてくれた。緑と黄色のフィルターごしの異国は、朝の日常の気配。
"バグ"を消した、日常。




