【ノート】アジェッグ
これを書いている今、私は19歳になる。書く直前まで、成人の儀式のため首都で帝王に会っていた。幾つかの村から、選ばれた新成人のみが会えるのだ。しかし、何も自慢のためにこれを書くのではない。ただ、長年の疑惑が、帝王との対面で形を成してしまったため、筆を執る。愛する妹よ、母に隠して続きを読んでくれ。
私は長年、ファマ教における教えが妙に感じていた。家族の愛す国へ文句を垂れるなど、あまりに大罪として、今まで黙っていたが。
考えれば考える程、ここの教えはあるひとつの目的に向かっていると思えるのだ。
まず肉・魚・乳製品の飲食禁止。魂を大切にする心は素晴らしいが、ファオマ帝国建国当初は麦の開発も進んでおらず、この辺りでは酪農が命綱だった。その状況でここまで厳格なベジタリアンを貫くか?肉食を禁止するならまだしも、乳まで駄目と来た。実際、建国当初は幾度も飢饉が起きたと聞く。これのどこが魂を大事にしているのか。
ならば、もし酪農をこの国で行ったらどうなるか?首都は教会や住宅で十分な土地がない。酪農をするなら地方でやるだろう。しかし地方とて、小さなファオマ帝国では、広大な土地はない。そうなると首都に出回るかどうかは怪しい。一方、禁止してしまえば、こっそり他国から輸入すればいいのだ。この国にその食料を食べようと思う者はいない。禁止されているのだから。
つまり食事の制限は、痩せたこの土地で、いつでも己だけでも食うに困らないための、ある人物のエゴから生まれた教えなのだ。教えを作ったのは、現ファオマ帝王の父・初代帝王だ。要は、この初代帝王のエゴで、ファマの教えは形作られているのである。
そう考えるともうひとつの教えも狂って見える。<魔女の使者>への厳しさだ。<魔女の使者>と知らずに匿っただけでも重罪、<魔女の使者>本人であれば幽閉されて何十年と痛めつけられるという噂が聞かれる。それを聞くファオマ帝国民とて、<魔女の使者>なのだから当たり前だと言う始末。
初代帝王の母であり、現帝王の祖母は、とある<魔女の使者>に殺されている。彼等がやりたいのは、ただ純粋に、復讐。
同性婚の許容の目的だって、教えの完成や社会的使命感ではなく、純粋な利益追求なのだろう。
ファオマ帝国建国の直前、周辺国はやいのやいのと反対して騒いだという。この土地はどこの国の所有地でも無かったが、ティク国とロップ国の人々が混ざり合って暮らしていた地だったからだ。しかし、帝王がファマの教えを示すと、周辺国は見事なくらいに黙認した。
学校の先生はファマの教えの素晴らしさに感動したのだと言ったが、多分違う。
ファマの教えでは、同性で結婚した場合で子供を求める家庭には、他国から養育者のあてのない子供を紹介するとある。例えば、親族の亡くなった子供や、親の顔も知らないようなスラム出身の子供だ。例に漏れず、私もそうだ。比較的、スラム出身者が多い。ファオマの周辺国では、スラム地域の縮小は重大な目標のひとつなのだ。そんな国々に、スラムの子供を引き取りますよと持ちかけたら?建国の容認を得るカードとして、スラム縮小の協力を持ちかけるわけだ。そういう思惑から、この国は建国できたのではないだろうか。
母は、この国に利用されたのだと思う。他にあてもないから、まるでここを楽園と思えて。
愛しの妹よ、私はこの国の教えが気色が悪くてならない。偽善などという言葉では生ぬるい。ただの我欲と憂さ晴らしの塊だ。でも、母達がここを捨てるとは思えない。だから、私達だけになっても、逃げよう。すまない、私はもう耐えられない。先にここを発つ。どうか許しておくれ。しかし君がここを出る連絡をくれれば、迎えに来よう。2人なら、きっと本物の楽園を見つけられる。
君に幸運があることを願って、アジェッグ。
兄さんが目を覚まして帰ってくる日を、ここで待っています。
あなたにファマの御心が届きますように、アヨマ




