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雑草の花束  作者: 片喰
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【愛でもって】結

 翌朝、アヨマさんのお母さんに見送られて、俺達は麦農場で出掛けた。栽培から加工まで見せてもらい、アヨマさんの説明を聞いた。集中はしていなかったが、それなりの相槌はできたはずだった。昔ながらの製法で陶器を作る店に出向いて、体験もさせてもらった癖に、マトモに楽しんだ感じはない。光羅謝とラオメがわいわいと色違いの湯呑みを作っていたのには、流石に脱帽した。

 気が散って仕方がない。脳味噌は別のことでいっぱいだった。

 武器製作場へ、行ける。

「武器の製作は昔からやっていましたが_何せ治所どころか狩り隊の力も借りませんから_世界的に有名になったのは、4、5年前からです。きっかけはやっぱり、狩り隊から武器製造を依頼されたことですね。長年、自力で製作してきたファオマ帝国の技術を見込んだとのことでした。

 わたし達ファマ教信者は元来、狩り隊が嫌いです。彼等は<魔女の使者>討伐のために、一般市民までもを危険に晒しますから。でもファオマ帝国の武器を使うことで、その危険を減らせるかも。そうしたら手を取り合う夢も、あながち遠くはないかもしれない。わたし達はその思いから、製造を引き受けたのです。」

「なるほどぉ。」

 今日の運転は光羅謝だった。アヨマさんは相変わらず助手席。道案内のためだ。光羅謝は、隣の席なのにアヨマさんの話に相槌を打たない。気まぐれに、短い質問と感嘆詞を漏らすだけだ。必然的に俺とラオメが、アヨマさんの説明の主な聞き手となっている。

「そうして作り上げたのが、かの有名な<悪魔殺し>です!」

「へっ?」

 瞠目した俺に、アヨマさんは何を勘違いしたのか、くすぐったそうに笑った。

「この話は他国ではあまりされないですから、知らなくて当たり前です。わたし、皆さんには知っててほしくって!この国の誇りですからね!」

 呆然とした。俺達を絶望に追い込むあの憎い武器は、ここで、この少女の愛する故郷で、意図的に、"一般市民"を殺さないために、<使者>だけを殺せるように、作られていたのか?頭がクラクラした。失言も微笑んだ面を崩すこともなく済んだのは、何も冷静だったからではない。行動に移せる程の頭の整理が、できていなかっただけだ。

「へえ〜、そうなんだ。凄いね。」

 ラオメの声にはっとした。無意識に隣を見る。

「教えてくれて、ありがと。」

 ラオメは、微笑んでいた。自然に。それでも、ツインテールの動きが普段より速いのが分かる。この国の人達は、そんなもんか、で済ませているが、この浮遊こそがこの人が<使者>である証しなのだった。

 <使者>の魔術は、感情の揺れに呼応する。

「いつか皆さんが汚れた<魔女の使者>どもに遭ってしまったときは、絶対にこの国の英知と愛の極みである<悪魔殺し>が皆さんのお命を助けます。必ずやこの世界の()()を消し、」

「アヨマァ。」

 純真で"清い"演説が途絶えた。バックミラーの光羅謝は、いつもと変わらぬ仏頂面で前を見詰めていた。

「ここ、右だっけ左だっけ?」

「あっ、ごめんなさい。ここは右です。もう少しで到着しますね。」

 光羅謝は、やはり短い感嘆詞だけを返した。

「おー。」  

 快晴の空に、白くチビな月を見つけた。しばし睨み合って、いや、あれはこっちを見ちゃいないと、目を背ける。

 武器製作場では、予想以上の収獲を得られた。アヨマさんを助けたことでこちらへの警戒心が無かったからだろう、仕組みも製造方法も()()()()くらいにペラペラ喋ってくれた。

「そう、<悪魔殺し>を開発したのはファオマだよ。凄いでしょ?SLAYって物質を集めて特別な機械で加工するの。その加工したやつを銃の形の専用の武器に詰める。銃みたいな方は小さくて持ち運べるし、ぱっぱか作れるんだけどね、SLAYの加工にはでっかあーい機械が必要で、こいつは狩り隊の本部にひとつしかないんだ。」

「へ〜、それってでも危なくないですか?狩り隊の本部を爆破でもしちゃったらSLAY反応武器は使えなくなりますよね?」

 工場長と名乗った女性は大きく頷いた。 

「そこが問題だったの。ファオマ帝国の人々がSLAYを見つけたのは偶然だった。()に出稼ぎに行っていた国民から連絡をもらってね。要は、SLAY反応がある所なんてそーホイホイ見つけられない。今、狩り隊は血眼になってSLAY反応のある土地を探してるよ。…ところでアヨマ、考え込んじゃってどうしたの?」 

 俯いて一点を見つめ続けていたアヨマさんが、ふっと顔を上げた。

「SLAY…。姉さん、これって<悪魔殺し>以外の武器に使うの?」

「え?いや、使わないけど…。まぁ最近、<悪魔殺し>を作るときに出てくる副産物で、()()武器を作れるって騒いでたけど、SLAY自体は使わないかな。」

 首を傾げながら工場長は答える。アヨマさんは、ああ!と叫んだ。興奮混じりの声だった。

「コッツティ王宮で作ってた大規模武器は、<悪魔殺し>のことだったんだ…!!あそこは、加工に適した土地だったんだ!」

 意味がわからず『フラ・アンブロシオ』を窺う。彼等は苦い顔を隠して、びっくりして見せていた。2人にとっては既知のことだったらしい。

 しかし工場長は俺以上に状況を理解できなかったのだろう、アヨマさんに説明を求めた。彼女は少しぐちゃついた説明ながらも、コッツティ王宮での悲劇と<悪魔殺し>の繋がりを語った。

「武器を作るために王宮の人達を犠牲にして…!酷い!狩り隊なんてやっぱり信じられないわ!」

「アヨマ、でも<悪魔殺し>はこの世に必要なんだ。<魔女の使者>だけを上手く攻撃出来るのはあれしか無い。」

「分かってる…。これで<魔女の使者>を全滅させられなかったら許さない…!」

 少女は拳を震わせて呻く。彼女は怒っている。王宮で亡くなった国王と、苦しむ王宮仕え達と、"バグ"に恐怖する"健全な"人々のために。

 とんだ、茶番。

「<魔女の使者>は、いんですか。」

 その言葉が口から出た瞬間、強く後悔した。案の定、その場の全員がこちらを見てくる。

「いや、ファマ教は、全てを愛すんでしょ?<魔女の使者>って、どうなってんだろって…。」

 へらっと笑う。馬鹿で愚鈍で知りたがりが恐怖を上回っちゃうような、餓鬼の顔を作って。俺の顔は上出来だったと見え、工場長とアヨマさんは苦笑した。

「馬鹿だねぇ。ファマ教信者が愛するのは全てじゃないよ。()()()()全て、だ。」

「そうですよ〜、わたしちゃんと言ったじゃないですか。」

「あっ、あ〜!そっかそっか、そーでした。すいません。」

 フリーズする脳味噌をぶっ叩いて、無理矢理笑う。魂。そこを、わざわざ強調するなら、

「「<魔女の使者>なんかに、魂は無い。」」

 冷や汗が背筋を伝った。

 これは、宗教なんかじゃない。ただ嘲笑うのに都合の良いからと、趣味の悪い人間が創り上げてしまった、"夢物語"。

「次のエリアに移ろう。着いておいで。」

「さあ皆さん、行きましょう。」

 2人が笑顔で前を向き、歩き出す。数秒遅れて俺とラオメが続くが、光羅謝が来ないのですぐに振り返った。

 彼は、工場長とアヨマの背を見詰め、口を動かす。

 俺は途中から見たのかもしれない。口の動きを見間違えるか、言葉を読み間違えるかしたかもしれない。俺の、代弁してほしいという願望が混ざったのかもしれない。でも、俺には、こうとしか見えなかった。

「あ、く、ま。」

 隣のラオメが少し、肩の強張りを緩めた。

「早く、行くよ。」

 彼はニヤリと俺達に笑んでから、歩き始める。

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