【到着地点】光羅謝
頬睦利町からファオマ帝国までの移動は、それまでに比べると楽だった。頬睦利町で俺達が狩り隊を削ったことで、下手に動けなくなったのかもしれない。もしくは、せっかく完成したSLAY−97が失敗に終わったと早とちりして、項垂れているのか。
ロップ国はそれなりに広いため、移動日数の長さや食料と寝床の確保などの苦労はあった。しかし時々治所の相手をするだけで済むのだから、ラッキーと言えよう。結をアヨマの近くに居させられるため、いつもよりは依頼人の安全を気にしながら戦う不安感が軽減されている。結自身は大して働けなくて、と萎れていたが、ラオメも俺も本心から助かっていると答えた。そんなこんなで、一行を乗せた車はロップ国の端っこを走り抜けていた。
「あっ……!」
俺の前の座席に座っていたアヨマが身を乗り出す。車は、放牧のための草原に囲まれた田舎道を走っていたため、彼女が待ち望んでいたそれは、案外あっさりと姿を見せたのだ。運転席で相方は、声を弾ませた。
「ファオマ帝国の名物だね。いや〜懐かしいな〜。」
不法入国の常習犯たちを何度も追い返し、難攻不落と評されるファオマ帝国警備の象徴であり要。昔ラオメと俺も挑み、例に漏れず敗走した相手。
「ファオマの国壁、ですね。」
隣で結が窓にこめかみをつけて呟く。俺もそれを見上げた。
ファオマで災いを遠ざける色とされている純白の壁だ。高さは15m程度か。煉瓦を積み重ねているから足掛かりはあるのだが、ねずみ返しのような物が数段設置されていて登りづらい。しかも登り切っても、壁の上の通路をレーザー銃を持った兵士が巡回しているのだ。前回に俺達が逃げたのも、この兵士達に狙われまくったためだ。
「ファオマ帝国の兵士と言えば、レーザー銃で有名ですよね。遠距離でも威力を落とさずに届くとか。どう対処するのが正解なんですか?」
「俺達も知らねェよ。尤も、今回はンなこと考えなくったっていい。アヨマが居るからな。」
「僕等が殺されそうになっても、最悪アヨマちゃんだけ入国できればいいよ。ファマ教徒だって伝えればすぐ入れる。」
「そんな、だめです。ちゃんと<ファマの愛>を差し上げます。そういう約束ですし、何よりわたしが、皆さんに差し上げたいんです。」
真摯な表情。<魔女の使者>ということを隠しているせいで苦くも感じたが、少し夢を見て、微笑みながら頷いた。
「車で入れるかな?」
「国民であれば車でも出入可能です。正面の門から入ります。」
「よ〜し、じゃあ凸っちゃお〜。」
ラオメがアクセルを踏みしめる。車窓を流れる原っぱ。何頭か牛が見える。草を食んでいる。穏やかな陽の光に包まれて。
恩人の男が眠る地も、こんな風に、広大な草原の中にある。
知らず、鼻歌を歌っていた。




