【出立】アヨマ
急用と言って『フラ・アンブロシオ』さんが離れていったときは心細かった。しかも場所は危険な土地として有名な頬睦利町で、預かり先は小さな少女の家だったのだ。
八重と名乗る彼女は飛鳥さんの妹らしく、ボブカットの薄紅色と猫っぽい目の茜色が似ていた。私以上に小柄で、オーバーサイズのパーカーワンピースが余計に華奢に見える。
が、そんな不安はじきに消えた。
「で、そのオジさんがグラサンの親分で、」
「え〜!」
「でしょ?だからオジさんが何バカやってんだ!って怒ってくれてさ。」
八重さんは聞き上手な上、経験豊富で面白い話を沢山してくれたのだ。私の話すファオマ帝国や出稼ぎ地での生活なんてつまらないと思うのだが、彼女は目をキラキラさせてくれる。話に夢中なって、いつの間にか私達はタメ口であれこれと話し続けていた。
「お、仲良くなってんねェ。」
「やっほ〜、遅くなってごめんね。」
「あっ!ラオメさん、光羅謝さんも。用事は終わったんですか?」
もうそんな時間か、と驚く。続いて、『フラ・アンブロシオ』の後ろから顔を出す人物がいることに目を瞬く。
群青の双眸は清白な印象で、やや太い眉が素朴さを加える。耳にかかる長さの髪に、前髪を上げる大きなヘアピン。何故か気を許したくなる人懐こさと誠実さを感じさせる青年だった。
「その人は…?」
「結っていいます。アヨマさんですよね?えっと、急でごめんなさい、俺も今回参加することになりまして。」
「大丈夫、それなりに信頼できる子だよ。」
「アヨマです。よろしくお願いしますっ。」
結と名乗った青年は、にこりと笑顔を返してくれた。話しやすそうな人でほっとする。
「それじゃあ出発しようか。」
「ファオマ帝国までは、まあまア道のりがある。頬睦利町で足のつかない車を借よう。」
結さんがニヤニヤしながら顎を撫でる。
「足のつかないアシですか。」
「「寒いギャグの極寒地帯、製作済み。」」
何故そこでハモれるのだろう、と私は感心と不思議さを感じながら2人を見ていた。




