【処世術】結
女性が一歩近付く。すらりとした長身。見下されている気分になる。
考えれば、狩り隊に対抗しにくい治癒の<使者>でありながら、こんな大っぴらに魔術を使うなんておかしい。「開店中」の看板すらあったのだ。
もしかするとこの人は、自分を囮にして、狩り隊を集めようとしているのではないか?その中にいる筈の、複製の<使者>を引き摺り出すため…。
「復讐となれば一層。」
この人はまだ俺を疑っていたのだな、と察する。複製の<使者>について語ったとき、俺がどう反応するかで、本当に複製の<使者>と無関係か確かめたいのだろう。
「…俺も、狩り申請書が届いたの、突然だったんです。偶に魔術使ってたし、使う気なくても出ちゃうし、誰か見ていたんだと思ってた。でも、もしかするとあれも、複製の<使者>が絡んでたのかもしれない。」
女性の眉がぴくりと動く。敵の敵は味方。俺も自軍に引き込んだ方良いかと考え始めているのだろう。成功、と内心で呟く。
俺が<使者>バレしたのに、複製の<使者>なんて絡んでいないだろう。俺は割と、使う気がなくても魔術が出てきてしまう性質だった。それを見た誰かがチクっただけだと思う。でもこう言えば、この人の共感を掠め取れる。
今追い出されるのは、ちょっと嫌だ。感覚的に。もう少し、ここに居たいから。
「へえ、お前もねえ。」
値踏みする目。戦闘能力で言えば、俺は使える方な筈だ。黙って視線を受ける。
女性が何か言うより先に、焦れた様子で男性_りーくんと呼ばれていた方だ_が立ち上がった。
「お話中、失礼。女医さんにお伝えしたいことがありまして、申し訳ありませんが、結さんには少し席を外して頂きたいのですが。」
「えっ、あー。」
俺の扱いを話し合うのか?比較的表情の出やすい蓮と呼ばれた男性を見やる。が、彼はきょとんとしていて、何が話されるのか全く予想出来ていない様子だった。別件があるのか?
「分かりました。外に居るので、終わったら呼んで下さい。」
「構わん、隣の部屋にいろ。」
女性が隣室を指さす。俺は礼を言ってドアを押し開けた。
雨音のせいで、耳が詰まっているような感覚がしている。




