【電話】結
男性が部屋を移ってから、時計の秒針が4、5周した頃、ツインテールの人物が立ち上がる。間髪入れず白衣の女性が、手元の紙束を投げ付けた。ぱしと手で受け止めて、ツインテールの人は女性を睨む。彼女は空を揺れ動くツインテールを眺めていた。
「リモンドの所へ行く気か。」
「流石に、まだ来ないなんておかしいでしょ。」
「やめとけ。今のお前じゃただの足手まといだ。どうせ、大した魔力残ってないんだろ。」
図星だったのだろう、ツインテールの人の顔が険しくなった。吊り目と相まって、不機嫌と言うより歯痒そうな感情が、ありありと見て取れる。
結局、女性に紙を投げ返して座る。厚みのある紙束だったため、机に落ちるときバサッと重い音を立てた。八つ当たり気味で飛んできた紙束を、彼女は静かな表情で整える。
沈黙が広がる。しかし間を置かずに、隣の部屋の扉が開いた。さっきの小柄な男性が顔を出す。
「なんかバサッておっきい音が聞こえたけど、大丈夫?」
「なんでもない。」
「ラオメが物にやつ当たるんだ。お前からもなんとか言ってくれ。」
「オレじゃどうにも、」
苦笑と共に続く筈だった言葉が、途切れる。軽やかなスマホのコール音が鳴り出したのだ。
「っ!」
そのとき息を呑んだのは、おれだったのか彼だったのか。
それくらいに、彼の瞳の変わりようは凄まじかった。太陽が下りてきてその双眸を作ったのではと本気で勘ぐりたくなる程の、強く鮮やかな輝き。清らかと言うには強烈過ぎ、華やかと言うには野性味が濃い。ひとことで済ましてしまうなら、壮絶に美しい。
その様子を見るに、来ていなかった相手からの電話だろう。彼は飛び付くようにスマホを取り出す。笑顔の浮かんだ、マリーゴールド色の瞳。
これが、本来の彼の_
「りーくん!」
…こう言ってはなんだが、拍子抜けした。そんな目をして、なんて子供みたいな声を出すのだろう。とは言え、ここまで想ってもらえる通話相手が、羨ましくもあった。
『はい、私です。失礼、ちょっと遅くなりましたね。』
茶目っ気混じりの穏やかな声が漏れ聞こえる。ツインテールの人と女性も声が聞こえたらしく、肩から力を抜いた。
『お手数かけますが迎えに来てくれませんか?あなたの顔が見たい気分なんです。』
結構な口説き文句に、男性は笑い声を上げて返した。
「分かった。今行くよ。スクーター乗れる?」
『ええ。場所は動いてないので、狩り申請書にあった通りです。』
了解、と答えてスマホを仕舞う。彼は通話を見守っていた3人に笑い掛けた。
「てことで行ってきます。すぐ戻るから、先生、りーくんを"治す"用意しててね。」
用意なんか無い、という女性の返事も聞かずに彼は建物を駆けて出た。
戸を開けるときに風が入り込み、部屋の空気を一新したようだった。




