【中学】蓮
りーくんと会ったのは、転校先の中学校。隣の席だった。
第一印象は、"不良"。
銀髪に染めていて、ピアスを付けていて、横を通ると時々煙草臭くて、怖い先生の授業でも平気で寝て、なんなら遅刻で昼から登校して。オレが会ったときは中2の初期だったが、1年生からそうだったらしく(なんなら中1で留年したらしい)、他のクラスメイトは慣れた様子だった。慣れた上で怖がっていた、と言うべきか。
オレもちょっと怖くはあったけど、それだけではなかった。
彼の行動には、不思議なものが多かったのだ。
頭頂部にグリーン系の地毛が現れても放っといたと思いきや、急にパッションピンクに染め直した。全部の授業を寝過ごした次の日に、全部の授業を模範的に受けた。駐輪場の隅で喫煙した数時間後、ひとりで校庭整備をしていた。授業参観日には必ずファストフード店でサボっていた。給食のパンはひと口も食べなかった。おはよう、とオレが転校初日に言ったとき、目をまん丸にしてから、おはよ、と返してくれた。
試行錯誤しているように見えた。どうしたら幸せになれるかな、みたいな。彼の正解が見つけられるのを祈っていた。
だから、中2の中間テストの返却以後、彼が変わったのには驚くと共に、それが彼の"正解"だったのか、と思いもした。
彼は毎日授業をきちんと受け、特に外国語では目覚ましい成績を収めた。煙草の匂いが無くなり、代わりなのかガムや棒付きの飴を口にしていた。オレ以外とも挨拶し始めて、ぎこちなさがありつつも微笑むようになり、給食のパンを偶に食べた。
気付けば彼は、テスト上位者になって、外国語のテストの救世主になって、クラスの人気者になって、よく笑うようになった。彼にとって正解だったんだなと、オレはほっとした。
中3でクラスが分かれて、それっきり、…の筈だったのだが。
高2の秋、同中面子から"リモンドがお前を探しているらしい"と知らされた。違う高校に進学したし、連絡先も知らなかったから、会う約束をするだけでひと苦労だった。しかしりーくん側からの熱心な誘いと、懐かしさからオレも会いたくなって、なんとか再会を取り決めた。
約束した場所に来たとき、オレは本当に戸惑った。と言うのも、そこにいた人物が中学の彼の地毛と同じ髪色で、だけど肩過ぎまで伸びていて、あの頃からは考えられない穏やかな目をこちらに向け、途端にあの頃からは考えられない爽やか笑顔を浮かべたのだ。
「お久しぶりです。」
しかも何故か敬語だった。
「ひ、久しぶり。」
「私かどうか自信なさげな感じじゃないですか、悲しいな。…ふふ、なんてね、冗談ですよ。結構変わったでしょ?」
首を傾げると、彼のストレートヘアーがさらりと揺れた。柔らかな微笑みは、昔のぎこちなさなんて見る影も無い。
「うん、変わったね。」
「…そう?」
目が細められる。藤納戸色の双眸が鋭く美しい輝きを帯びた。これは変わらない。オレも笑顔を返した。
「見た目は。オレは全然変わんないっしょ?背、ちょっとだけ伸びたんだけど。ほとんど中学生から変化なし。」
「将来の夢も、変わりませんか?」
将来の夢。昔、彼には話していた。
「勿論。オレは記者になる。」
息を吸う、音が聞こえた。引き結んだ口元。りーくんはこのとき、何を考えていたのか。
「東部地方の言語はあらかた使えるようになりました。撮影技術も磨きました。写真部の高校大会ではこの前、金賞を頂きました。人と話すことも苦手でなくなりましたし、こうして見た目も整えました。」
正直、何の話が始まったのか分からなかった。自慢話にしては相槌を打つ暇もない。ポカンとするオレに、彼は真っ直ぐな視線を向けた。
「だから、あなたが記者になった暁には、私をバディにして下さい。ビジネスパートナーで構わない。あなたの夢を、隣で見ていたい。」
ポカンとした。さっきとは違う方向に。
それから、確かオレは笑ったのだった。だって、そうじゃない?久しぶりに会ったら、オレなんかの夢に付き合ってくれるって言うんだから。
「…優良物件だとは思いますがね。」
笑ったのを馬鹿にされたと捉えたのか、彼はヤケクソ気味に言い放つ。オレは慌てて彼に向き直った。
「…リモンドくん。…えぇっと、あれ、何から言えばいんだろ。…。…先ずさ。」
こくん、と頷く彼を見ると、案外変わっていないなと思えて、また笑みが溢れた。
「ビジネスパートナーなんて言わないで。メイトとして、オレの隣にいて下さい。」
りーくんが笑った。さっきとは違う、中学生のときも見れなかった、素の笑みだった。天真爛漫な笑い方だった。




