【質疑応答】結
ツインテールの人に案内された部屋に居たのは、小柄な男性と若干ガラの悪い女性だった。
こちらに駆け寄って来た男性は、赤褐色の癖毛に日焼けした肌が特徴的だった。身長の低さに加え、アーガイル・チェックのトレーナーと迷彩柄のパンツという派手な組み合わせのせいで、どうにも幼く見える。しかし彼の瞳を見れば幕を下ろしたように薄暗く、ぞっとして目を逸らした。
だが、目を逸らした先にいた女性も、あまり治安の良い目はしていなかった。
雑に白衣を羽織り、黒髪から覗く薄浅葱色の片目でこちらを睨んでいる。左耳を飾る大量のゴツいピアスが、威圧感をマシマシに盛り付ける。
メッシュの男性をソファに下ろすと、女性が眼光鋭くおれを射抜いた。
「 で、一段落ついたんで訊くが。お前、誰だよ。」
ここで殴られでもするんじゃないかと退路であるドアを確認する。しかし、いつの間にかツインテールの人が戸の前を陣取っていた。出させないつもりか。協力したのに。…いや、協力してくれた相手に命を狙われることくらい覚悟できなきゃ、<使者>として何年も生き抜くことは不可能だ。彼等とて、それを理解しているだけ。
「義堂結といいます。おれも、解体の<使者>なんです。今日、ここに引っ越して来て。」
「引っ越し?どうしてここに?」
「もうすぐ大学の入学式あるんで…。実家が輝万国なんで、ひとり暮らしで、あんま金使えないんですよ。それで、ここの家賃凄い安かったんです。」
「苦学生か〜。頑張ってね。」
にこっと男性は笑顔を見せたが、どうにもその瞳の暗さが目について、素直に受け取れなかった。
「ありがとうございます…。」
「こいつ等のこと、どうして助けたんだ。」
女性は目線で、ツインテールの人とメッシュの男性を示す。おれも少し振り向いた。
「血の匂いがして、ここ<魔女の使者>が多いっても聞いてたんで、もしかしてって…。」
「もしかしてで窺いてマジで<使者>がいた。そこまでは良しとしても、わざわざ助けるか?お前の危機管理能力はそんなにガバなのかよ?」
「いや、でも、」
言っていいのか迷ったが、今誤魔化しても集団リンチに遭う未来しか見えない。おれは瞬時に言っていい話と言わない話を定めた。
「恩人、なので。」
「はぁ?」
「2人って<悪魔殺し>に勝った人、ですよね。おれあのとき、あの場所を見てたんです。少し離れたところから。だから今日、えっと…ツインテールの、あの人の顔見て、そうかもしれないと思いました。彼のことを見て、確信したんです。」
彼、とメッシュの男性を目線で指す。女性はハッとしたように一瞬だが、目を瞬いた。
「あのことで、おれは希望を持てた。だから、そのお礼に。」
「…へぇ。偶然だな、いやはや全く。」
「偶然ですけど、でも本当のことです。」
「血の匂いに気付いたんならさ、他の場所でも何か気付くことは無かった?」
こてんと首を傾げて、男性がおれを見上げた。その瞳には薄暗さが依然として張り付いていて、寧ろさっきより濃くなっているように思えた。
「ええっと…、窓が全部割れてる建物は見ました。人の気配は無かったですけど。」
「それ何処?」
肩に手を乗せられる。そこまで力は入っていないのに、少し高めの体温のせいか、体の芯に触れられているような圧迫感を覚えて、全身が強張った。
「えっと、大きい靴屋の、隣にあるビルで。看板、光る看板の残骸?みたいなのがあるとこです。」
「飛鳥のところだな。人がいないのは事後だからだろ。」
あいつのところじゃない、と女性は付け足す。肩から手が離れた。
「そっか。じゃあ、りーくんは普通に手間取ってるのか。ごめんね、疑っちゃって。」
向けられた微笑が無理矢理作った偽物であることくらい、すぐ分かった。それを言及したところで、余計笑わせてしまうことも。おれは目を逸らした。
多分、1人来ていないのだろう。おれが何かして、その人を動けなくしたのではと疑ったらしい。賢明な判断と言えた。おれだって、偶然見つけましたなんて言う奴は怪しいと思う。
「じゃあ〜待ってますかぁ。」
この人は、いつもはこんな目では無いのかもしれない。普段は、もっと明るいのだろうか。
「…おい蓮、お前は隣の部屋で休んでろ。んな面でここに居られると、気分が悪い。」
隣にもうひと部屋あるらしい。女性は扉を示した。迷う素振りを見せたが、結局男性は隣に移った。人と居ると無理をして元気がる質なのだろう。それならひとりで居た方が気楽か。
男性が部屋を移った後で、ツインテールの人物が囁いた。
「…リモンドと飛鳥は僕等より30分も早く始まった。本来なら、もう来てるはずじゃない?実際に飛鳥はもう来てる。手間取った僕等でさえ、もう帰ったってのに、」
「辛気くせえことほざくな。蓮が馬鹿程心配しているんだから、お前くらいはニヤついて背を伸ばしてろよ。」
女性が吐き捨てる。ツインテールの人は彼女を一瞥しただけで、同意も否定も口にしない。代わりに、ぽつりと呟く。
「蓮とリモンドって、どれくらい一緒に居るの。」
「さぁ。この町に来たときにはもう2人だったしな…。」
昼下がりにしては部屋が陰っている。おれは居心地の悪さを感じつつ、外を見詰めた。




