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雑草の花束  作者: 片喰
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【運搬】ラオメ

 どうも僕等は、非常に頼れる協力者を得たらしい。

 青年はあろうことか、背に僕を、手に羅謝を乗せたまま、屋根から屋根へ飛び移っていた。着地の際に普通ならかなり衝撃が伝わる筈だが、青年は羅謝と僕のことを少し空に放ることで僕等に届く衝撃は和らげている。彼自身には大分衝撃が行くと思うのだが、膝の動きのクッションだけで吸収し切っているのだ。しかも踏み切った建物より1階高い建物へも、難なく飛び乗る。解体の魔術で出来ることでは無い。これは魔術では無い。

 単純に、彼の肉体と運動能力の話だ。 

「キミ、凄いね。」

「え?あぁ、ありがとうございます。てか、本当にこの人大丈夫なんですか?」

 青年は腕の中で眠る羅謝を示す。さっき寝落ちしたのだ。無論、寝不足などでは無い。

「いいの。血を作るには体力が足りなかったから、無理矢理体が寝かせたんだよ、多分。」

 相棒が失血で眠るのは偶にあることだった。寧ろ寝てくれた方が安心する。彼の体が、彼は生きる見込み有りと判断したように、思えて。

「ここだ。降りて。……降りれる?」

 僕等は今、3階くらいの建物の屋上にいた。重傷必至、死ぬ可能性もざらにある高さと言えよう。

「ちょっと揺れてもいいなら。」

「オーケー、僕等の重さは最大限"調整"する。だからその人を離さないでね。」

「重々承知です!」

 パッと屋上から飛び出す青年。来るだろう衝撃に身を竦める。来たのは、横風だった。下降していない。

 青年は隣り合った建物の壁と壁の間を飛び移りながら降りていた。一気に降りないので衝撃は緩まる。しかしそれを実現するには、垂直な壁から滑らず、しかも隣の壁の狙った位置に上手く着地する必要があり、ジャンプのタイミングが遅れれば真っ逆さまに落っこちるだろう。手を使えればまだしも、青年は人間は2人分の枷がある。それなのに、よくここまで。

 階段を2段飛ばしした程度の感覚。無事に着地できたらしい。

「ここで合ってますか?」

 青年が見上げたのは、煤けたコンクリートの3階建てである。3階の窓はカーテンで中が見えないが、2階の窓からは本とタオルケットが覗いている。1階の窓に目線を下ろすと、こちらもカーテンが閉まっているが、「開店中」と書かれた紙が見えている。女医の筆跡だった。

「合ってる。行こ。」

 ぎぃ、と音を立てて、青年は戸を開ける。薄っすら洋酒の匂いが鼻につき、次いで声が飛んだ。

「羅謝くん!ラオちゃんも!」

 駆けて来たのは蓮である。癖っ毛が走るのに合わせてふわふわ上下する。しかし瞳は、その穏やかな動きに反して薄暗さを帯びていた。

「リモンドは、まだなの?」

 リモンドと飛鳥は、僕等の30分前が決行時間な筈だ。僕等より帰りが遅いなんてそうある訳ない。実際、飛鳥は奥のベッドに丸まっていた。怪我がなくて済んだから女医の所には来ていないだけ?いや、彼に限って、蓮に連絡をしないのは有り得ない。

 目を伏せた蓮は小さく頷くだけで、すぐにぱっと顔を上げ、女医を振り返った。彼女は酒の注いだコップを机に置く。

「羅謝くん、ベッド使う?先生、飛鳥さん動かそうか?」

「いい、いい。こんな奴ベッドに置いたら、ベッドの木枠まで"腐っ"ちまう。ソファでいい。そいつのコートを広げるのを忘れるなよ。」

 蓮は言われた通りに、羅謝のコートをソファに広げ、青年がその上に彼を寝かせた。

「あっ…。」

 青年が声を上げてソファから身を引く。そのときには既に怪我が治っていた。女医が"治した"のだろう。

 彼女は次にこちらを見、僕のことも無言で"治した"。唖然とする青年の背からひょいと飛び降りる。

「さんきゅ、お代はこれね。」

 血のついた「治療6回無料券」をひらひらさせる。女医は何故か鼻を鳴らして応じた。

「一体どういう…。」

「で、一段落ついたんで訊くが。」

 目を丸くしたままの青年に、女医はぎろりと視線を飛ばす。

「お前、誰だよ。」

 ひっくっ、と青年が身を竦めた。

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