【青年】ラオメ
「あ〜も〜…、今日のビジュ最高だったんだけどなぁ〜。」
僕の周りに狩り隊は居ない。…否、"生きている"狩り隊は居ない。ヤケクソの魔術連発が幸運にも成功し、視界を奪っていた兵器を壊したのだ。そこからはいつも通りの戦闘方法で生き延びた。
生き延びたけど〜……。
「僕の髪…ぐっしゃにしやがってぇ〜。」
足から血が延々と流れている。当然力が入るはずもなく、僕は今、ぺしゃりと床に転がっていた。
女医の分の狩り隊はハナから羅謝の方へ行ったのだろう。治癒の<使者>がいつも代理を立てるのは狩り隊も知っているし、代理を担う『フラ・アンブロシオ』の内、腐敗の<使者>が<使者>の中でも最強レベルなのも周知の事実なのだから。
彼の悲鳴が思い出されて、歯を食いしばる。腕だけを使って上体を上げ、撃たれていない方の左足に力を込める。壁に縋りついて、右足をぶらんと垂らした状態で一歩踏み出す。転びかけて思わず右足を出すと、ゾッとする程の痛みが走った。
「あぁ、もう…。」
声が震える。息を吸ってまた歯を食いしばる。もう一歩進もうとし、そこで声が聞こえた。
「血の匂い…?」
さっと血の気が引く。人が来る?足元を見る。狩り隊の死体が、まさしく死屍累々の様子で散らばっていた。押し潰されたような死体、内から破裂したような死体。これを見た人はどうするか?通報する。間違いない。幾ら<葬り町>の住民と言えども、この有り様を見れば通報するだろう。
そうなれば僕は勿論、上の階の羅謝も生きてはいられない…!
「えっ。」
聞き覚えのない声にハッとして振り向く。血の匂いを不審に思ったらしい青年が、廃墟に入っていた。まん丸に目を見開いて、無惨な彼等を見詰めている。
澄んだ群青の瞳。少し太い眉が眼力を強める。前髪を上げてヘアピンで留めた紺藍の髪は、うなじ辺りで切り揃っていた。僕とそう変わらない背丈だし細身だが、タンクトップにスカジャンの体が筋肉質なのは薄っすら分かる。
身構えるより先に、前髪を押さえていた。僕の文字は額にある。見られたら、どうされるか分かったものではない。
「…<魔女の使者>、ですか。」
疑問形の文面だが、声色は断定文だった。
息が止まる。殺すか?でも、魔術を使うには魔力が足りない。どうする、どうする。せめて彼だけは…。
「待って下さい。俺、戦う気は無いんです。恩を返したくて来て…。」
「どうゆうこと?」
眉毛を寄せた僕に、青年は真っ直ぐと青い双眸を向けた。
「俺も、<魔女の使者>です。解体の<魔女の使者>です。…言葉だけじゃ信用できないか。ちょっと待って下さい。文字を見せます。」
そう言うとすぐ、右手の指空き手袋を脱ぎ取る。骨張って武骨さと温かみのある手が顕になった。否、その印象は手の甲に限ったものだった。
彼の手の平には、でかでかと、不気味な1文字が陣取っている。
"ばらばら"
意味は脳味噌に直接届くが、咀嚼できない。間違いなく<魔女の使者>の強化条件を示す文字だった。<使者>の文字の大概が、よく完全な理解は難しい内容だ。
「これで信じてもらえますか。俺は、あなたの敵じゃない。」
「…。」
彼を助けるには、もう、この青年に頼る以外の選択肢がないことを察していた。もししくじっても、今より酷い状況なんてないだろう。
「お願いがあるんだけど、いいかな。」




