【悪魔】ラオメ
僕の実行場所は、この前に羅謝がドンパチやった廃墟の1階だった。羅謝は同じ建物の2階。入り口に立った途端、もう狩り隊が居るのが分かった。少し、ざわついている。30分で済むと思っていたリモンドや飛鳥との戦いが、まだ終わっていないからだろう。
「死ぬんじゃねェぞ。」
いつも以上に動き回る僕のツインテールを、相棒の手が優しく梳いた。髪の動きが少し弱くなる。僕は廃墟を見上げて微笑んだ。
「帰ったら、なんか食べに行こ。甘いものがいいな。」
「うん、そうしよう。」
柔らかな声。顔を向けずに彼の方へ手を伸ばす。衣擦れの音で、相手も手を上げたのが分かった。視界の端で僕の手と羅謝の手が、勢いよく重なる。
パンッ、と景気の良い音が響いた。
◯
廃墟には予想通り、狩り隊が<悪魔殺し>の来ないことに慌てていた。僕の頭に一度手を乗せて、羅謝は2階へ上がっていく。狩り隊に目を戻すと、もう準備を整えていた。
「始めようか。」
銃口が一斉に僕を向く。直ぐ様跳び上がった。さっき僕が居た位置に銃弾の集中豪雨。天井付近を浮遊しながら、足下の人々を眺める。
「あれの強化条件は知ることだ。撃てるだけ撃てえ!」
「はいっ!」
自分の体の下の空間を"弄る"。重力を"乱せ"ば銃弾がこちらに来ることはまず無い。無論コツが要るが、それは長年使い続けて身についている。案の定、銃弾は下で見えない壁に跳ね返された。狩り隊の悲鳴が響く。跳ね返った一部が狩り隊を貫いたらしい。
「職業、利き手、声、顔、性別…。この間にも、君達は僕に知られている。」
昇降の<魔女の使者>。
強化条件、知ること。
「僕を悪魔だと言うなら、悪魔らしく、アンタ等を地獄へ落としてやる!!」
狩り隊達の周りの重力も垂直抗力も気圧も思い切り"乱す"。血が飛び散り、肉と骨が細切れに飛ぶ。赤。僕の好きじゃない色。
「アレを使え!!」
「僕を悪魔だって言うんなら!」
「おい!おい誰かスイッチを押せえ!」
「悪魔になりきって_」
ぱっと、視界が真っ暗になった。明かりが消えた?目眩?いや違う、これはきっと、
「SLAY反応武器の製作時に出る気体に、こんな作用があるなんてな。」
狩り隊の兵器。
「っ!」
昇降の魔術に必要なものとして、昇降の<使者>には魔術の他に高い視力が与えられる。気流や圧力さえも見える視力だ。つまり、それが無ければこの魔術は通用する筈無く、僕の体はゆっくりと落下を始めた。
天井を眺め、彼もこれを浴びていたらどうしようと思い至った。彼の魔術にも、視力は絡んでいる。思いついたとほぼ同時に、叫び声が鼓膜を貫いた。
「あア゙あ゙アあアあ゙ああ!!!」
低音が若干掠れた、癖のある声。
「羅謝っ、」
足に衝撃があり、次いで熱が広がる。間髪入れず襲い掛かった激痛に声も出なかった。狩り隊の銃弾がとうとう当たったか。
後天的ドライアイの君は、僕が死んだら泣いてくれる?
加速する落下の風圧に揉まれながら、天井の先の相棒へ問いかけた。
死ぬんじゃねェぞ、と言う声が脳裏に蘇った。




