【月と太陽】光羅謝
廃墟の階段を下りる途中で、そこの手すりに腰掛けた相方を見つけた。惑星みたいに、いや惑星なんて詳しくないから俺の惑星のイメージに合った動き方で、ツインテールが漂っている。相方のアリスブルーの髪はふわふわ動いて通常運転だ。
「よォ。待った?」
声を掛けると、相方はくるりと振り返った。天色の吊り目のきつさが、愛らしい垂れ眉で緩和されている。
「そこそこね。あーあ、腕打たれてんじゃん。」
「打たす気なかったんだけどな。」
「ばあーかっ。」
鈴の音の様な笑い声。手すりから降りたが、地面に足は着かない。ショートパンツとタイツに包まれた足の先には靴すら履いていない。人通りの無いこの地域で、地面を歩かないのに靴を履く意味を見い出せなかったのだろう。
「帰ろうぜ。」
「その前に女医のとこ行こ。その腕、治した方いいでしょ。」
「えェ…。いーだろ、夜だし。ぼったくられるぜ。痛みは"腐らせた"から大丈夫だろ。」
腕を指す。いつも着ている薄手のコートで、傷口の上を縛っている。片手と両足で行った止血はそれなりに上手くできたらしく、血は大凡止まっていた。
すると相方は一瞬だけ気が緩んだのか、吊り眉と歪んだ口という、相方曰く"可愛くない顔"になった。
「お前さー…、痛いの超嫌いなのに、痛くない怪我は平気でほっとくよね。ひびりの癖に。」
「痛くねェからな。」
「はいはい。猫トイレの砂買って行けば、あの女医は割引してくれるから、行くよっ。僕が特別に猫砂運んであげるから。」
「あれって猫砂なんて名前なのか?」
相方は無視して歩き出す。浮かんだままで。どうやら猫砂は正式名称でないらしい。
「待てよ、ラオメ。」
呼びかけると、振り返った相方はぷくうっと頬を膨らませた。
「羅謝が遅いんだよ。」
苦笑して相方の隣に並ぶ。廃墟を出ると、空では夕日と月が睨み合っていた。その下にいる俺達のことなんて露程も知らないみたいな面だと思った。
俺だって太陽にも月にも詳しくない。お互い様な訳だ。