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雑草の花束  作者: 片喰
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【一時帰宅】蓮

 危機。オレに分かるのはそれだけだった。運転席から荷台へ戻ったときには、りーくんと『フラ・アンブロシオ』と飛鳥さんで話し合いが済まされていたから。不穏な空気を感じて、りーくんに説明を求めても、子守歌が欲しいのですか?とあしらわれる。ラオちゃんは首を振るし、羅謝くんは鼻を鳴らす。飛鳥さんが一番マシだったが、彼女とて詳しい話はしてくれなかった。

「これから、色々ありそうだなって。」

 それだけ。それだけですら、りーくんは飛鳥さんを睨んだ。まぁ、昔っから彼に心配掛けっぱなしのオレのせいだけど。

「そっち関連?」

 <魔女の使者>のことだ。りーくんより飛鳥さんの反応の方が、顕著だった。オレの視線の先に気付いたりーくんが、ぐいと肩を押してくる。

「全く違います。さあ、あなたは速く寝なさい。」

 ラオちゃんが運転席に移動する途中なので、車が動いてないのを良いことに、りーくんはオレを押し倒した。これなら寝たふりで聞き耳を立てるのがいいか。オレは"も〜諦めたからふて寝する!"の顔で目を閉じた。りーくんの手が離れる。しめた。少ししてから寝息っぽいものを出してみる。小さい鼾も混ぜつつ。

「……、リモンド。」

「…はぁ。失敬、お見苦しい真似をしてしまいました。…彼にこの話は聞かせたくない。」

「分かったわ。でも、いつもは平気だったよね?狩り隊の申請書を、蓮が見たことくらいあるんじゃないの?今までどうしてたの。」

「今までは、そういったことは私の範囲だと判断しているようで、心配してくれるだけだったのですが…。今は状況が違うんです。」

 ああ、と得心した。りーくんはまだ、オレが狩り隊へ脅しに行くのではと、心配しているのだ。

 狩り隊は<魔女の使者>を殺す。それは、オレにはどうにもできない。せめて彼の無事を祈って、帰りを待つだけだ。

 目を閉じる。本当のふて寝に入ることにした。

          ◯

「蓮、蓮。」

 肩に何かが触れる。少し冷たい。目を開けると夕日が目にしみた。りーくんが顔を近づけてくる。りーくんが揺すって起こしていたらしい。彼の手は冷たい。

「起きました?ロップ国に入るために、検問を通ります。身分証はどこに?」

「あぁ…。ちょっと待って。」

 そんなに寝てたのか、と自分に呆れつつバックを漁る。今まで交代で起きなきゃと気を張っていたから、眠りが浅かった。それなのに急にふて寝と言われて、オレの体はどうも寝貯めと勘違いしたらしい。

「あったあった。これ、……あれ、ラオちゃんは何処行ったの?」

 荷台にはりーくんと羅謝くんだけ、前には飛鳥さんとアヨマさん。ラオちゃんの姿が見えない。遅れて、大量にあったマリオネットなどが綺麗さっぱり無いことに気付いた。

「ラオメはマリオネットとか持って別ルート。」

 羅謝くんはいつもの仏頂面に、微かながら緊張感を漂わせていた。不安定な荷台の上で立って、進行方向を見詰めている。

「飛鳥の一件により、マリオネットを積んだ車には厳重注意との話が狩り隊内で回っているようです。疑われたら敵わないので、マリオネットだけ別ルートで運ぶことになりました。ラオメは周知の通りフットワークが軽いですから、崖登りも容易いでしょう。」

 フットワーク、ね。重力をも操るようなあの魔術も、彼にはフットワークか。

 検問所が見えて来た。途端、羅謝くんは舌打ちする。

「…蓮、飛鳥と運転代われ。あの人数の狩り隊だと殺り合った連中もいそォだ。飛鳥、怪しまれねェように戻れ。そこの建物の裏で代わるぞ。」

 指示通り、運転を代わる。戸惑いの目を向けるアヨマさんに、万が一の為だと説明すると頷かれた。彼女はまだ、飛鳥さんが<使者>だと"勘違い"されていると思っているらしい。

 検問所へ近づく。確かに狩り隊は多かった。コッツティ王宮の云々に飛鳥さんのことが重なったせいで、普通より警戒が強まっているのだろう。

「こんにちは〜。」 

 狩り隊の1人が歩いて来る。ひとグループにつき狩り隊1人対応なのか。オレは仕方なく車窓を下げた。

「こんにちは、お疲れ様です。」

「はいよ〜。いち、に、さん…5人乗りか。全員分の身分証見せてね。」

 身分証はあらかじめ全員分集めていたが、準備万端過ぎても変かと思い、ちょっと手間取るふりをする。

「あー、あった、ありました。お願いします。」

「うーんと、レカイさん、桃さん、ネオさん、タオマさん、真矢さんね。」

 誰だよ、と偽の身分証にツッコむ。とは言え、そんな問題発言は出来ない。オレは笑顔でハイと頷いた。狩り隊は頷き返し、それから荷台を見やった。

「あら、3人ともガチ寝だね。顔確認した方いいんだけど…。」

 一応、顔を見せたくないのだろう。<使者>全員の顔を覚えている狩り隊も、偶にいる。歴戦の彼等とて、敵対した全員を殺し切っている訳ではないのだ。…いや、羅謝くんは割と全員殺しているらしいが。

「いやあ、交代で運転してまして。車揺れるんでみんな今ようやっと寝れたとこなんです…。寝起き悪いし、このままっていうのは駄目ですかね…?」

 眉尻を少し垂らして上目遣いする。りーくん相手のとき程は垂らしてはならない。気弱ではないが今は彼に頼る他ない、という雰囲気で。

「そうだなー…。」

「お願いできませんかねぇ。」

 相手は顎を撫でつつ荷台を見やる。結局、彼は笑顔でオレに顔を近づけてきた。

「ま、いっか。内緒だよ〜。」

「ありがとございますっ。」

 軽トラを進める。狩り隊密集地から抜けると、アヨマさんがそっと囁く。

「あんなサラッと、いいんですね。」

「人によるよね。絶対に確認する人の方が多いよ。」

 2、3度頷き、アヨマさんは荷台を振り返った。狩り隊が離れるまで寝たふりを続けるようだ。

 幾らか進み、サイドミラーで狩り隊が見えないことを確認する。ドアを軽く何回かノック。すぐに窓に羅謝くんが現れた。足は荷台の上のはずだが、どれほど危ない体勢をしていることか。

「ありがとォな蓮。助かった助かった。」

「はい、どーも。」

「次の交差点右、そんでェ次の次の左の細い道入って。ラオメと合流しよう。」

「了解。」

 羅謝くんは、東部の国々の道は粗方覚えている。ホテルまでの道のり、近道、狩り隊の詰め所、治所の詰め所…。膨大な情報を脳に詰め込んでいるためか、逆に家の近くで迷いかけたりする。

 言われた通りに行くと、確かにアリスブルーの髪が見えた。あちらもオレ達に気付く。車を止めるとラオちゃんは荷台に乗り込みながら、

「やっほ〜。無事だった〜?」

「おォう。そっちは?」

「僕もマリオネットも無事だよ〜。はい、どーいたしまして飛鳥。」

「あ〜〜、可愛い可愛いあたしの子達、心配したんだよ〜〜。」

 突き出されたマリオネット入りの袋を抱き締め、飛鳥さんは高い声で叫んだ。ラオちゃんは顎に指を寄せて、上目遣いに羅謝くんを見詰める。

「可愛い可愛いマリオネットってさあ、僕の方が可愛くなあい〜?ねぇ羅謝?」

「うんラオメの方が可愛い。」

 即答だった。オレ同様に後ろを振り返っていたアヨマさんが、面食らってからオレを見た。

「光羅謝さんって…なんか、ああゆうこと言わないタイプだと思ってませんでした。」

「めっちゃ言うよ。お世辞は言えないタイプだけど、本気で思ってるならサラッと言う。」

 感心した様子で、へぇ、とアヨマさん。続いて飛鳥さんの怒号が響いた。

「はあ!?うちの子達は誰よりも可愛いだからっ!馬鹿なこと言わないで。光羅謝に訊くからでしょ?どんなのが真の可愛さか理解してないんでしょ。」

 埒が明かなそうだ。オレは問答無用で車を動かし始めた。

「ほらほら、車が動き出しましたよ飛鳥。お座りなさいな。」

「あっ、じゃあ光羅謝。ラオメと蓮はどっち可愛い?」

 若干の間があった。

「ラオメ。」

「あ゙〜〜、この信者がよ〜〜。」

 飛鳥さんの呻きに反して、羅謝くんは話は終わったという態勢で歌い始める。

「ハンディは不用、寧ろあげる、一発で決める、巨大な力はダーク?ラあイツ?無視して蹂躙するはダァークっヒーロー!!」

「信者がよ゙〜〜〜〜。」

 飛鳥さんの呻き声が続いた。

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