【軽トラック】ラオメ
そういう訳で、僕達はロップ国を経由してファオマ帝国に向かうことにした。ファオマ・ティク間よりは、ファオマ・ロップ間の狩り隊の方が少ない筈だ。
「助けてお願い!求むヒーロー!その声で現るダァークっヒーロー!」
「光羅謝。」
「ハンディは不用、寧ろあげる、一発で決める、巨大な力はダーク?ラあイツ?無視して蹂躙するはダァークっヒーロー!!」
「羅謝、呼ばれてるよ。」
僕の呼び掛けで、漸く相棒は歌を止めた。
一行は飛鳥の運転する軽トラに乗っていた。無論、マトモに乗れるのは運転席と助手席の2人だけで、『フラ・アンブロシオ』と記者ペアは荷台に座っている。かなり速度が出ている上にマリオネット達に占領されていて狭いせいで少し怖いが、他の3人は平気らしい。蓮はパソコンを広げて揺れてなどいないとばかりに仕事をしているし、羅謝は荷台から身を乗り出して少年時代に彼が愛した(今も好きなんだろうが)『轟けダークヒーロー』という特撮番組の主題歌を歌っていた。子供達の健全な成長に悪影響を与えそうなその歌詞も気になるが、極めつけは揺れも歌声も気にせず、蓮の肩を枕代わりに仮眠をとるリモンドだ。昨夜、彼はコッツティ王国の記事を買ってくれるところを探していて、あまり寝ていなかったらしい、と蓮が説明した。それでもこんな騒々しい荷台で寝るか?
「なんでその歌知ってんの?」
飛鳥が運転席から声を投げる。羅謝は目を大きく見開いた。
「はァ!?『轟けダークヒーロー』は千知露国の宝だろ。知ってるに決まってる。」
「いや宝では無いし。てか羅謝って千知露の出身じゃないよね?」
「母さんが千知露。休みの日とか、母さんの実家によく遊びに行ってさ。」
バックミラーの飛鳥は一瞬眉を上げてから、興味なさげな返事をした。羅謝がまた歌い始める。また最初からだった。
「うん?」
蓮がリモンドを窺う。大音量の歌声でも起きなかった彼が、唐突に目を開けていた。すくりと背筋を正し、自分のシャツの中から拳銃を取り出す。瞬時に状況を理解した羅謝が、無理矢理体を伸ばして助手席のアヨマちゃんの頭を下げさせる。僕もやっと分かった。敵襲。魔術を使う気で立ち上がりかけた僕を、蓮が押さえつけた。リモンドはもうレバーを回してセーフティを解除している。
「すぐ終えますので。」
さっきまで寝てた癖にと毒づきたくなる程、涼し気な物言いでちょっとイラッとした。狩り隊の車が後ろをつけていたらしく、リモンドが銃口を向けると同時にあちらの窓から大きい銃が突き出された。助手席側なので運転役と打ち役がいるのか。リモンドは声ひとつ上げず、相手の手首と車のタイヤを連続で打った。狩り隊が無事な方の手で無線を摑むのが見える。
「リモンド!」
無線で仲間を呼ばれては敵わない。大量の狩り隊から蓮とアヨマちゃんを守りつつ、ここから逃げ延びる自信は正直無かった。
「ええ、仕方ありません。」
助手席と運転席の2人、両者の頭が撃ち抜かれた。ガシャアーとけたたましい音を響かせて車が滑る。運転手が撃たれるのに前後してハンドルを切ったのか、右側の歩道に進む。人通りのない道なので人的被害は無かった。…歩行者の人的被害は無かった、と言うべきか。それを見届けたリモンドは拳銃を仕舞う。羅謝もアヨマちゃんの頭から手を離した。流れ弾の被弾を心配していたのだろう。
蓮が目を閉じて、死者が天へ上るための祈りの言葉を短く囁く。それが終わると、リモンドはまた彼の肩を借りて寝始めた。
「…あの、今の、狩り隊、ですよね。コッツティの人達、もう追いついたんですか?」
「…。」
多分、彼等は飛鳥を探していた。しかしそれを言うのは躊躇われた。乗車中の6人の内、自分と蓮以外の全員が<魔女の使者>だと知ったら、このファオ教信者の少女はどうするだろうか。だからと言って、彼女自身を追って来たと答えるのも可哀想な話ではあった。
「確かに、コッツティ王国の狩り隊から連絡が届いたのかもしれません。」
僕の逡巡に反して、淡々と述べたのはリモンドだ。目は閉じたものの、寝付いてはいなかったらしい。
「しかし、飛鳥を<魔女の使者>ではないかと"勘違いした"狩り隊だった可能性の方が高いです。"本当に<使者>でない"と証明をしたいところですが、一度疑うと盲信するのが狩り隊ですからね。こうする他に無いかと。」
アヨマちゃんは隣の飛鳥へ、同情の声をかけた。
「<魔女の使者>だと勘違いされるなんて!屈辱でしょうに。大変でしたね。」
いや、とも、うん、とも取れる飛鳥の返事。アヨマちゃんは彼女の複雑な心境に気付かず、憤慨のひとり言を吐いた。
「やっぱり狩り隊は危険な組織です。あんな恐ろしい存在と一般市民を間違うはずがないでしょうに。目の汚れた狩り隊、おばあちゃんは合ってたんだ…!」
無機質なタイピング音。羅謝が歌を再開する。今度は歌詞のない鼻歌だった。リモンドが蓮の肩の上で、もぞもぞと体勢を調整する。
「荷台に待機する見張り役と運転役で、交代で寝て、夜も進んだ方がいいね。リモンド寝てるし次いい?もうひとり、誰やる?」
思っているより低い声が出てしまった。代わりに笑顔で周りを見回してみる。オレやる、とだけの言葉で蓮が答えた。
軽トラは、ブロロォ…と不機嫌に排気ガスをばら撒いた。




