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雑草の花束  作者: 片喰
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【逃亡】光羅謝

 コッツティ王国と隣接する国は、リモンドの出身国・ジル国、行き先であるファオマ帝国、そしてティク国という小ぶりな国と、狩り隊本部があるティルク王国だ。

 ファオマ帝国に直で行ければ話は単純なのだが、そうはいかない。ファオマはファマ教信者ならばジャンジャン入れる国なので、不法出国者に"人気"な国で、国境辺りの警備は万全と見られる。

 と言う訳で、今回はティク国から回って行く。ティク国は芸術関連の文化発展が著しい一方、それ以外に全く興味が無い国だ。兵器開発の話なんて聞かないし、突然王の変わったコッツティを警戒して警備することも無い。よって、コッツティにいる狩り隊側も、別にいっか感が漂っている。要するに、穴場なのだ。

「だからってこんな険しい道だったとは…。」

 アヨマの嘆きが聞こえるが、彼女は蓮に任せるべきだ。ラオメと俺の仕事である護衛に集中した方、結果的に彼女を助けることになる。

「ま〜、崖だよな。」

 ティク国の警備が手薄な理由がもうひとつ。ティクは窪地で、崖を降りなければ辿り着けないのだ。高さ、約20m。

「ファオマ行くときゃァ似たの登るから、覚悟しなきゃだぜ。ロップ国側は平坦だけど、ファオマ側はこんなんだ。」

「えぇ…。」

 可哀想だが、帰れない方が不憫だ。慰めつつ、崖の下を覗う。

「ラオメ、どォ?」

「へっちゃら度120%だね。」

「へへ。頼りになるなァ。…と。おいリモンド、アヨマと蓮頼んだぞ。」

 響かないよう配慮した足音が聞こえていた。狩り隊か、治所か…。リモンドも気付いたらしく、2人をまとめて自身の後ろに追いやる。ラオメがちらとこちらを見た。

「3人だけ先に降ろしちゃう?」

「あ゙ァー…。うん、頼んだ。」

 返事もせずラオメはくるりと振り向き、3人まとめて崖下へぽんと突いた。意図を理解したリモンドが直ぐ様アヨマと蓮の肩を摑む。ぎょっとした少女と、俺達に何か言おうとする青年を抱えて、リモンドはティク国へ落下していく。煙草の匂いが、遅れて鼻についた。

「あ、あれ…?」

「静かに。」

 そう囁く声が、崖下から僅かに聞こえる。ラオメを覗うと笑顔を返された。3人のことは、ラオメの魔術でゆっくり降ろしているのだ。

「オメェ等そこで何をしてんじゃあ!身分証出さんかいや!!」

 丁度現れる狩り隊。5人か…。先に3人を降ろしていて良かった。

「なんつってる?」

「訛りが強くて分かんない。南部出国者じゃない?すみませ〜ん、訛ってて分かんないで〜す!」

「お前達そこで何してるんだ。身分証を出せ!」

「標準語喋れんじゃんっ!」

 ラオメは目を見開いて叫んでから、すぐに我に返って咳払い。何言ったんだろと覗う俺に、目配せしてからポケットをぽんぽんと叩いた。

 身分証の表示を求めているのか。狩り隊が襲ってこないなら<使者>バレはしていないのだろう。だったら魔術を使ってバレるのは下策だ。銃…はリュックの中だな。ラオメもそうだが、銃が体の近くにあるのが苦手で基本バックに突っ込んでしまう。普段は魔術で済むからだった。

 隣を見るが相方もリュックに放り込んだらしく、若干口元を歪めていた。さて、どうしたものか。

「あれ〜?身分証見せられねぇ理由があるのかな。…返事しろおい!!」

「先輩、こいつ等出国しようとしてんじゃないすか?」

「この前逃げた王宮の下働きかも…。」

 何か言っている。多分コッツティ語だとしか分からないけど。

 焦りを感じ始めて無意味に手を握る。すると握り込んだ指の外側に、何かが当たる感覚がした。

「あっ…。」

 ラオメが訝しんでこちらに視線を寄越す。俺は微かに笑った。俺達の間では、それで充分だった。

 相方が俺の腰を摑む。ぎょっとして拳銃を構えた狩り隊に向かって、ポケットに入っていた物を弾き飛ばす。

 それは、煙草だった。

「なっ!?」 

 リモンドは1本しか吸ってないので、ざっと20弱あった。一本ずつ指の間に挟んで間髪入れず弾いていく。無論、ただ投げても弱体化は望めない。狙うのは合計10個の目玉。

 ラオメが崖へ飛び降りるのが、進路に背を向けていても分かった。煙草の当たらなかった2人が駆け寄る。内心ヒヤヒヤしつつ残りの煙草も飛ばしてみると、窮鼠猫を噛む。それぞれの片目にぶつかったようで2人分の悲鳴が聞こえた。

 彼等の様子を確かめる間もなく、落下速度が上がっていく。ラオメにはまだ重力に手を加える兆しがない。地面に着く手前まで力を"いじる"ことなく、超特急で到着する魂胆なのだろう。目を潰しただけなのだから、狩り隊が追ってくる可能性は高い。急ぐ他なかった。

「わあっ。」

 予想通り地上3mで急に速度が緩み、先に着いていたアヨマが目を丸くする。地面に足が付いてから3人を確認したところ、怪我はない様子だった。ラオメが制御しているものの、着地で足を挫くかどうかは、ラオメが対応出来ない部分が大きい。アヨマも成功したらしい。

「さて、どうしますか?」

 リモンドの表情を見るに、彼も狩り隊が追って来る可能性を心配しているのだろう。俺は頭を掻く。

「顔見られたしな、俺等ァちょっと着替えるわ。3人も着替えとこうぜ。ホテルとかで俺等と連れなのはバレてる。」

「服はこっちで用意してるから大丈夫。あっごめん、アヨマちゃんは男の子用になるかも。ちょっと大きいしデザインがダサいんだよね〜。いい?」

 こくこくとアヨマは頷いたが、蓮は渋い顔を作った。

「それ、オレが着る予備だったんだよな〜。ラオちゃんのでもアヨマさんには結構大きいし。何、ダサいな〜て思いながら用意したの?」

「……。ほらほら急いで!見張ってるから蓮とリモンド着替えて来な!」

「答えてよ〜…。」

 ごねる蓮を引っ張るリモンド。一応木の裏に移動してから着替えるようだ。繊細な奴。…アヨマの為か?ラオメに目で問うと、えっここで着替える気だったの?あり得ない…の顔を頂戴した。俺は配慮不足らしい。気を付けよう。

 少し心配したが、アヨマも気丈に青空着替えを受け入れた。しっかりした子だ。ラオメと俺もさくっと済ませ(足と芽が生えた可愛い魚のキャラクター・おサカナの助のTシャツを脱ぐのは嫌だがぐっと堪えた)、歩いて町に移動する。国境の近くに小さめの町があり、徒歩でもすぐに着いた。

「ファオマ帝国付近まで電車で移動するよ。蓮達は途中で別れるけど、大丈夫?」

「ここは治所も狩り隊も少ないですから、私1人でも何とかなりましょう。」

「あの、なんで電車なんですか?何かあっても、電車の中って逃げづらそうですけど…。」

 そうなのだ。ラオメと顔を見合わせる。こういう子が狩り隊や治所に増えたら、俺達の寿命は縮まりそうだ。

「確かに逃げづらいよ。でも個人の特定がしずらい交通手段なんだよ。ほら、レンタルカーなんか使ったら、各グループで店員が対応するから顔を覚えられるでしょ。」

「なるほど…。」

「自家用車があればいィんだけど、俺達は持ってねェし、ティク国にそーゆーアテはねェし。」

「知り合いがいればいんだけどね〜。」

 肩を竦めるラオメ。ほぼ同時に、リモンドが一点を見詰めて、

「おや。」

 声色こそ普段通りだが、そもそも彼が急に声を出すこと自体が驚くべきものなのだ。4人して彼の視線を追う。

「おォ!」

「これはまぁ…。」

「凄い偶然じゃん。」

 軽くそう言った蓮は、しかしちょっと考えてから訂正した。

「東部マリオネット大会が昨日か。きっとそれに出たんだね。じゃあ偶然でもないか。」

 俺達の視線の先にいたのは、この国に無いと言ったアテであり知り合いの人物だった。 


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