【正義】狩り隊
先輩が俺の肩を叩いた。コンクリートだけの廃墟には囁き声が漂っている。皆、作戦の確認中なのだ。
「おいおい、ガッチガチじゃねぇか。」
先輩は確認の必要性を感じていないらしい。同感だった。全て頭に入っている。
「いや、俺、初任務ですよ。当たり前です。」
「あれ、お前タッパあるから同期だと思ってたわ。なーんて。」
にひひ、と先輩は笑う。元気づけようとしたらしい。俺は自分の眉尻が下がるのを感じた。
今日が俺の、狩り隊としての初任務だ。
狩り隊。それは、約千八百年前に人々を震撼させた<魔女>を狩るために結成された。十種の魔術を操る<魔女>に、当時の狩り隊は苦戦したが、いつでも正義は勝つ。狩り隊は無事に<魔女>を地獄へ落とした。
しかし予想外なことに、地獄で罰を受け続ける<魔女>は、それでもなお地上に<使者>を送ったのだ。十種類の魔術の中のひとつを持つ<魔女の使者>。一種の魔術につき一匹、合計十匹の<魔女の使者>がこの世界を跋扈する。そのため、今日でも狩り隊は解散されず、<魔女の使者>狩りを行っている。
市民を守るためのこの任務、失敗は許されない。
「…来るんですよね。」
錆と埃だらけの階段を見詰めて、俺は問うた。
「来る。」
<魔女の使者>を狩る場合、近隣住民に被害をもたらさないように、<使者>本人に、狩り申請書を出して、狩りの場所と日時を伝える。今回は無法地帯となった町の廃墟だ。普通なら死に行くようなものだから<魔女の使者>は来なさそうだが、資料によると十中八九成功している。
「奴等は、挑発されたら必ず乗る。相手をより酷い目を遭わすためにな。そういう生き物なんだ、<魔女の使者>ってのは。」
「なるほど…。」
脳裏に、怒号が響く町で、泣き叫ぶ妹が浮かんだ。
丁度そのときだった。
「来た…!」
階段から、"それ"は現れた。闇色の髪にひと房の黄色。腐った池の様な緑の目。細身だが背は相当高い。色の薄いサングラスを額に上げながら、無表情で俺達を見る。
背筋が凍った。
腐敗の力を持つ<魔女の使者>。7年前から狩り隊にマークされているにも関わらず、生きてる。今まで狩りに来た者を全員殺したから。皆、死体すらまともに残らなかったそうだ。どろどろに溶けて…。
あのときも、そうだった。
「…っ。」
狩り隊は銃を構えるが、打ちはしない。
<魔女の使者>には強化条件がある。それを満たせば、魔術は普段の数十倍に膨れ上がってしまう。万が一、攻撃をして条件に触れたらと思えば、下手に攻撃はできない。
強化条件は、それに関わる体の1箇所に文字が刻まれている。それさえ発見できれば対処ができるのだが…。
「あっ。」
誰かが小さく叫んだ。壊れた窓の風が、<使者>の前髪を持ち上げ、額に文字が見えていた。
頭に直接、文字の意味が届くこの感覚。
ビンゴ。強化条件を示す文字だ。
これが額にあるのなら、強化条件は"知る"の可能性が高い。攻撃が、できる。
「打てえ!!」
一斉に銃声が響く。
<使者>が腕を首の前に上げた。風が、彼のTシャツを翻す。細い腹が見え、そこに刻まれた、文字。頭に直接響くその意味。
"永遠の肉体、永遠の真実、永遠の愛情、腐らないで。"
どういうことだ。
2箇所に文字があるなんて有り得ない。でも意味が直に伝わるこの感覚は本物だ。一体…?
<使者>の淀んだ緑の目が、自らに襲い掛かっている銃弾をなぞった。
銃弾のひとつが、他のものよりひと足早く<使者>の腕に当た
●Marcirà?●
「ア゙ー…。」
原型を失った狩り隊の死体の中、1人だけ、立ったままの男がいる。血の垂れる腕を押さえつけながら、彼は呻いた。
「いってェなァ。」
美しかろうが美味しかろうが、構わず腐さらせるカビの様な色の瞳を持つ、男だった。




