【予感】光羅謝
結が帰ってきたのは、俺達の帰宅から数十分後だった。行きたかったという店の感想も特に言わず、さっさとバイトに行った。大学が始まるまでにある程度貯めたいのだと言っていたが、大学ってどんなところなんだろう。
「ラオメも、大学行きたかった?」
「え、別に。…あー、洋裁技術検定は受けたいけど。別に学校じゃなきゃ取れない訳でもないしね。」
「洋裁技術検定。」
オウム返しの俺に笑い返し、ラオメは夕飯作りを進める。ソファに転がって、俺はぼんやり考え込んだ。結の様子を見るに、狩り隊と揉めた件は現在消火したのだろう。ひと安心だ。彼を連れて行ってあのナイフを見せてまで聞き出すことではなかったかもしれない。八重とレーリッシュが結を警戒しているのは、時間がどうにかしてくれると信じる他ないか。狩り隊は…飛鳥はSLAY反応武器を使われる前に仕留めたし、リモンドが<悪魔殺し>を突破したので、一旦様子見に入ったのか?最近は静かだ。…でも、何かある気がする。重大な秘密が。見落としたヒントが…。
「検定、」
「え?何?」
「狩り隊をどォにかして、そしたら生活も大分落ち着くし、そんとき検定受ける勉強したら。俺も一緒に、なんか…何いいかな、なんかの資格でも取りたいなァ。で、第3の人生スタートだ。」
「…羅謝、寝てるの?」
「寝言は寝て言えってこと?」
「違くて。なんか…、お前ってそういうこと、言わないじゃん、普段。」
「…うーん、なんかさァ、正念場に差し掛かってる気がするんだ。これを乗り越えたら、今よりゃアずっと良くなるって俺の勘が言ってる。だから、ここで気合入れとかねェとって。」
ラオメはフライパン片手にリビングへ歩いて来た。俺は体を横向きにして、その顔を覗う。
「じゃあ、めっちゃ気合い入る言葉を贈ってあげようじゃないか、光羅謝君。」
「…なんでしょうか、ラオメ先生。」
「一段落したら、みんなで旅行しない?僕、1回もそうゆうの、経験してないんだよね。だから、お前と行ってみたい。」
黙って見詰め合ってから、俺は勢いづけて立ち上がった。ラオメが頬を緩めて首を傾げた。
「どう?」
「気合い充分。」
「よし!」