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クリスマス小話

遅くなりましたがクリスマスの話が書けましたので是非ご覧ください。

クロード視点で進みます。

本編の時系列は無視しております。




 冬だからといってこんなに寒いものだろうか。

 山がちなこの領地は、盆地になっていて冷気が平野に吹き込んでくる。足元から冷え込む寒さはその日1日の活力まで奪いそうだ。

 だからといって今日ばかりは部屋にこもってぬくぬく過ごすわけにはいかない。


 どうしてかって?

 大人にはやらなくちゃいけないことが山ほどある。納税、労働、家の管理やらエトセトラエトセトラ。

 子供にクリスマスプレゼントを届けるのも役目の一つだ。

 向こうは名門の家を継ぐ姉弟。片やこちらはそこに転がり込んだ居候の身。本来、何か贈るほど向こうは困窮していなければ、こちらも何かを贈るほど余裕はない。

 それでも、サンタがいなくなった子供がボクシングデーに肩を落とすかと思うと、何もせずにいられるほど冷血漢ではない。


 そんなわけでアリシアとテオにクリスマスプレゼントを用意しようと思う。

 だが、一体何を贈るものか。

 アリシアは倹約家で必要な物以外は買わない印象があるので、持っていないものを贈るのは難しくないだろう。問題はテオだ。

 あいつも遠慮がちで浪費を好む奴ではないが、両親やアリシアが物を与えたがるので、それなりに物を持っている方だろう。

 となると、何か物珍しい物を贈らなくては被ってしまう。

 本…はダメだ。屋敷の書庫が大きすぎる。何があって何がないのかとてもクリスマスまでには把握できない。

 ぬいぐるみ…定番だが子供っぽいか?いや、アリシアはともかくテオはまだ子供なんだが。埃が立つ物は避けた方が無難か。

 アクセサリー…半端な値段のものを贈ったらつける場面がないか?


「これが姉様に貰ったアドベントカレンダーだよ。」

 まずはリサーチをするべきだと思い、テオの部屋まで来てみた。比較的調子がいいらしく、起き上がって俺を歓迎したテオは、アリシアへのクリスマスプレゼントを考えていると伝えたところ快く相談に乗ってくれた。

 プレゼントの存在をバラすのは御法度かもしれないが、問題ない。俺が相談している体にしているのはあくまで俺からのプレゼント。それは相談するまでもなく予想しているだろうし、向こうも用意しているはずだ。

 そしてそれは既にフィオ達に相談して決定済み。残るはサンタクロースからのプレゼントのみである。


「アドベントカレンダーってあれか?25日まで毎日一個ずつ開けるとかいう…」

「うん。クリスマスまで毎日楽しめるだろうからって姉様が。すごいでしょ、お菓子だけじゃなくて陶器の人形とか編み物のコースターとかも入ってるんだよ。」

 凝ったものだ。アリシアからテオへの溺愛っぷりが伝わってくる。

「誰かに贈るものってその人の好みが出るでしょ?自分でいらないと思うものは贈らない。まだ10日分残ってるけど今日までに出たプレゼントだけでも姉様の好みが分かるんじゃない?」

 ベットの横の引き出しには、菓子や小さなおもちゃなんかが丁寧に整頓されて入っている。少し数が足りないのはいくつか食べたからだろう。


「レースのコースターか…もっとでかい物ならプレゼントにしてもいいな。」

「それなら手袋は?社交界で使えるし、それ以外でもお茶会とか出かけるときに使えるでしょ。」

 手袋か…そういえばパーティーでつけている令嬢はよく見かける。特にボビンレースは高級品だと言うし、アリシアがつけても格が下がるものではないだろう。

「よし、それにしよう。ありがとな、テオ。」

「ううん。姉様のためだから。」

 俺のためなら動かないのかよ。アリシアの弟好きも相当だが、こいつの姉好きも筋金入りだ。

「お前は何を贈るんだ?」

 このタイミングでテオのリサーチもしておく。贈り物に好みが反映されるというなら、テオの好みも聞いておこう。

「テディベア。」

 残念ながら参考にはならなそうだ。理由だけ聞くか…。

「アリシアならもう持ってそうだが、理由は?」

「ぬいぐるみはいくつあってもいいでしょ?枕元にいっぱいあったら寝る時も賑やかになるね。」

 子供らしい無邪気な理由だ。アリシアもテオからの贈り物なら喜んで抱いて寝るだろう。

 その割にテオの枕元には何もないけどな。


「クリスマスプレゼント…ですか?」

 テオからはアリシア宛のいい情報が得られたが、テオのプレゼントは決まらないままだ。

 困った時は誰かに聞くに限る。タリオスが俺よりも贈り物への造詣が深いとは思わないが、騎士だからこそ特有の視点というのもあるだろう。

「俺はあまり詳しくありませんが…クロード様が子供の頃もらって嬉しかったものを贈るのはどうですか?」

「嬉しかったものねえ…。」

 アイデアとしては悪くない。やっぱりおもちゃあたりか?俺は模擬刀を貰った時は嬉しかったが、振り回せないものをもらってもテオは複雑なだけだろう。

「テオドール様があまり外出できないなら、外の景色が楽しめるものなどいかがでしょうか?」

 へえ、いいことを言うじゃないか。贈り物に慣れていないという評価は覆した方がいいだろう。

 外の景色、というとテラリウムあたりが妥当か?

「どこの景色がいいと思う?」

「それはご自分でお考えください。」



 クリスマス当日は、円満に、穏やかに終わった。サンタとは別で自分からのプレゼントを用意するのは少々悩んだ。が、思うに、サンタ以外からのプレゼントというのはなんというかこう、もらえたらいいもののような気がする。

 別におざなりでいいというわけではないが、あくまで親愛の情として渡すものなので貰ったものをそいつのセンスだと思って受け取っておけばいい。

 ちなみにアリシアからはガラスペンとインク、テオからはペーパーナイフとルーペを貰った。示し合わせたのかあいつら。これはもっと仕事をしろという圧力か?

 まあできるだけ軽装でこの領地まで来て荷物はあまり持って来れていないのでありがたいにはありがたいが。


 そんなわけで、俺は今真夜中の屋敷を歩いていた。気配を消す術など持っているわけがないのでプレゼントを置く役はタリオスに任せようかと思っていたが、拒否された上浮かれきったサンタ帽を被せられた。なんで持ってたんだアイツ。

 真夜中の屋敷なんて寒い上に不気味な空間、すぐに離脱したい。さっさとプレゼントをおいて部屋に戻らねば。

 極力静かにアリシアの部屋にたどり着いた時、ランタンの向こうに朧気な人影が見えた。

 思わず叫び出さなかった自分を褒めて欲しい。

 何者かが暗がりに浮かび上がった。

 細身の老人だ。暗さで顔色までは判別できない。心なしか人を恨んだような雰囲気を漂わせ…


サンタ帽を被っていた。


「おや、おやおや…」

 フィオだった。俺が幽霊ではないかとビビり散らかしたのはこの屋敷の家令だったのだ。

「そうでした。今年はクロード様がいらっしゃったんでしたな。」

 目的などもはや聞くまでもない。俺と同じだ。しかも帽子だけでなく全身がサンタだ。似合いすぎだろ。クソが、ニヤニヤするな。

「…去年もお前が?」

「はい。僭越ながら私が贈らせていただきました。さ、手早くプレゼントを置いてしまいましょう。あまり扉の前で話すとアリシア様が起きてしまいます。」

 音を立てずに動く方法は心得ているとでも言うかのように、フィオは扉を開けるときの軋んだ音すら立てず部屋に入って見せた。

 俺も続けて入る。こんな場面でも扉を押さえておく使用人魂は見上げたものだ。

 近づいたアリシアの枕元には、大量のぬいぐるみがあった。

 こうして寝息を立てる姿を見るとただの子供だが、領主と伯爵の代理とは、こいつも大層な立場になったものだ。

 俺にとっては今でも夢に見るほど羨ましい立場であっても、コイツにとってはどうだろうか。

「どうなさいましたか?」

 立ち尽くす俺に、小言でフィオが聞いてきた。一瞬ヒヤリとしたが、アリシアに起きる様子はない。

「なんでもない、行くぞ。」


「さて、次はテオドール様の部屋でございますね。」

「ああ。」

 テオの部屋に入る機会は俺もフィオもアリシアの部屋に入るより多いだろう。

 慣れた様子で扉を開けたフィオは、そっとベッドに近づく。

 テオが寝ている姿を見るのは初めてではない。今日は寝息も穏やかで、昼間も大広間まで来ていたから体調がいい日だったのだろう。

 アリシアとはベクトルが違うが、こいつも生まれたときから苦労が多いことだろう。

 思わず頭を撫でてしまったが、フィオはチラリと見ただけで何も言わなかった。


「さて、お疲れ様です。」

「お前もな。」

「プレゼントを渡し終わったところで、こちらへ。」

 示されるままに着いていく。体も冷えたし、紅茶でも淹れてくれるんだろうな。クリスマスだしエッグノックでもいい。ブランデーを効かせて欲しい。

 しかし、予想に反してフィオは執務室の前で立ち止まった。


「…おい、まさかお前。」

「今年はサンタが2人いて幸運でしたな。」

 着いたのは広間でも厨房でもなく執務室だ。とてもちょっとしたご褒美を楽しむ場所ではない。

「プレゼントは物だけではございません。できる限りの雑務を片付けて1日アリシア様のお時間を作ること…ひいてはご兄弟が団欒できる日をご用意すること、こちらもクリスマスプレゼントでございます。」

「エッグノックじゃないのかよ…!」

 冗談じゃない、何が悲しくてクリスマスの夜に仕事に塗れなければいけないのか。

「エッグノックでしたらお仕事が終わり次第ご用意いたします。」

 恭しく頭を下げられても要望は全く遜っていない。

 だがしかし、俺は貴族である。コイツの主人の親戚である。その気になれば簡単に…そう、簡単に断ることができる。

 できる、が。

 ちらつくのはさっき見た2人の寝顔。そして屋敷に来てからアリシアが仕事を休む日を見ていないという事実。

「クロード様…」

 踵を返した俺に、フィオが仕方ないとでも言うかのように呟いた。これは不名誉な想像をしているな?

「おい、勘違いするな。部屋にペンを取りに行くだけだ。」

 ちくしょう!この状況で断れる奴がいるか?!

 アリシアのやつ、忠誠心の高い部下を持ちやがって!


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