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第四十八話 布石

幕間などを含めて「鬼畜ゲームの攻略法」が50話目&20万字達成でございます!

皆様いつも読んでくださりありがとうございます!



「また仕事が増えたな…。」

「ごめんなさい。あなたしか頼れるアテが思いつかなくて。」


 私と殿下がまとめた書面を見ながらルイがため息をついた。

 孤児の人数を調べるなんて大掛かりな作業に加え、ビラの絵の絵師と版画家を探すこと、それに個人的な用事まで頼んでしまったので当たり前の反応だけれど。


 でもルイ以外に腕が良くてこっそり絵を描ける絵師を知っていそうな人が思いつかなかったのだ。


「まあ君の頼みだ。絵師と器用な奴には心当たりがあるし、引き受けるよ。」

「ありがとう!このお礼は必ずどこかで。」

「うん。何かあったら頼むよ。」


 私が描いたラフ画を見ながらルイが紅茶に口をつける。

 恥ずかしいからあんまりまじまじ見ないで欲しいわ…。

 別に絵心があるわけじゃないのに。


「それにしても君がラフ画を描くなんてね。依頼しやすいからありがたいけど。」

「ええ。頼れるアドバイザーがいるからね。」


 構図に関しては元々市井に住んでいたキーアとタリオスに相談した。

 どんな構図なら分かりやすいのか私には自信がなかったから。


「でもあんまりじっくり見ないでね。上手くないし…ちょっと恥ずかしいわ。」

「絵心はないけど分かりやすくていいと思うよ。絵師に見せれば大体伝わると思う。」

「自覚はしてるけれど一言余計よ。」

「ああ、ごめん?でもどっちも分かりやすくていいね。」


 ルイに渡したのはビラ用のラフ画の他にもう一つ、個人的なお願いに絡んだ説明書きもある。そっちも図がないと分かりづらそうだから描いてみたけれどどうかしらね。


「それにしてもよくこんなの思いついたね。僕でも初めて見た。」

「そうね…なんていうか、天啓?」

「なんだそれ。」

「ちょっと出所は言えないのよ。」


 なんせ先生の知識からだもの。どう説明すればいいものやら。


「ふぅん…。」

「不服?」

「気にはなるね。まあ言えないなら仕方ないか。」


 わざわざ追求するほどじゃないみたい。

 あっさり頷いたルイはいつのまにか空になったティーカップを置いて立ち上がる。

 でもまだ来てから20分も経ってないわ。

 さすがに帰るには早い気がするけれど。


「もう行くよ。」

「えっ!?本当に帰るの?もう少しゆっくりしていったら?色々任せた身で言うのもなんだけれど…。」

「いや、いい。急いでるんでしょ?」

「…ありがとう。」

 

 まさか本当に帰っちゃうだなんて。

 本当、友達思いね。

 私が孤児の保護に焦っているのをわかって色々急いでくれてる。

 きっとこの後もすぐ動いてくれるんだろう。


「それじゃあまた。君もこの後やることがあるんでしょ?あんまり無理しないで。」

「こっちのセリフよ。本当にありがとう。」

「いいよ。忙しくしてれば家に居なくていい言い訳もつくし。」

「それは…大丈夫なの?」


 手伝ってくれるのはありがたいしルイがいないと困ることも多いけれど、嫌いな場所からの逃げ方が忙しくすることしかないのは問題だと思う。

 ルイは一瞬、口が滑った、と小さく呟いた。


「まあ正直、人に会うのもそんなに好きじゃないし、頼まれてるのはめんどうごとではある。」

「それは…そうよね。」

「でも、アリシアの為なら悪くない気分だ。少なくとも親にこき使われてたときとは比べものにならないよ。」


 本当に気にしてないような顔で笑いながら、今度こそ行くよ、とルイが扉に近づく。

 一貫してルイは私の味方してくれてるなあ。

 私も胡座をかいてないでちゃんとやるべきことをやらないとね。

 見送りはいらないと言って手を振りながら去っていくルイに手を振りかえして、姿が見えなくなってからキーアに視線を移した。



「キーア、フィオとテオに手紙を書きたいの。紙とペンを用意して。」

「かしこまりました。」


 さて、やるべきことをやらないと。

 まずはフィオに連絡だ。

 今回の件、流石に勝手に孤児達を連れて帰るわけにはいかないから、フィオに頼んで彼らの住む場所を用意しないといけない。

 幸いうちの領地は耕作に向いてるから畑を用意するのはそんなに困らないだろうけれど。


「確かお父様の療養用のお屋敷があったはず…。」


 あの辺りは領地内でも比較的山脈から離れていて暖かい。

 本来ならテオもそこで療養させようかと思っていたのだけれど、本人が屋敷から離れるのを拒んだ上、一度そこに住んでもらったら逆に体調を崩してしまったので今は使ってないのだ。


 フィオには孤児を受け入れること、その屋敷を使える状態にして欲しいこと、領地で農業を教えられる人を手配して欲しいことを頼んだ。

 いきなり色々頼んでしまって申し訳ない。


「あとはテオね。」


 少し前に手紙を送ったばかりで過保護かもしれないけれど、フィオに送るなら一緒にテオにも送りたい。

 しつこいようだけれど体調のことと、あとは簡単に王都でのことを話しておこう。


「確かルイが今度は冒険物の舞台が流行るって言ってたわね。」


 流行は自然にできるんじゃなくて位の高い貴婦人達の意思で作られる物だ。

 ルイほどの人脈なら流行り始める前になんとなく察知するくらいは余裕でしょうね。


 確か書庫に以前読んだ冒険物があったはず。流行りに関係するかはわからないけれど、面白かったからテオの暇つぶしになるといいわ。


「あとは…体調が良ければフィオの手伝いを…いや、それはいいか。」


 言わなくてもやってくれるでしょうね。

 むしろ無闇に頼んで張り切りすぎて体調を崩したらと思うと怖い。


「よし、こんなところね。」


 しっかり蝋で封をして軽く乾かす。

 その間にキーアを呼んで椅子から立ち上がった。


「ちょっと用事があるの。教会に行くわ。支度をお願い。」

「かしこまりました。」

「この間買ってきてもらったお菓子は手土産にするからそれも用意しておいて。」


 さて、ゲームの方も布石を打っておかないと。

 当面の目標はヒロインさんと仲良くなってゲームの展開を進めやすくすること。

 そのためにはこないだのことを口実にお土産を持っていって覚えてもらわないとね。


「教会に行くわ。馬車を出して。」




 教会の中は相変わらずステンドグラスでキラキラと照らされている。

 この間と同じように私以外誰もいない教会でマルガさんを待った。

 シスターにお願いしたからもうそろそろきてくれると思うのだけれど。


「お待たせしました!」


 予想通りすぐ扉を開けて入って来たマルガさんは走らない程度に早歩きでやって来た。

 どうやらシスターに身嗜みを整えられたみたいで、この間と違って正装だ。


「突然お呼び立てしてしまって申し訳ありません。来てくださってありがとうございます。」

「とんでもないです!私はずっと教会にいるので。」


 服が違っても笑う顔はこの前と一緒ね。

 先生の知識で知っていた通りとってもいい人みたいで安心した。


「この間のお礼をしたかったんです。これ、皆さんで召し上がってください。」

「ええっ!そんな…私は当たり前のことをしただけなのに。」

「いえ、教会でのマナーを破ってまでキーアを呼びに行ってくれて、助かりましたし申し訳ないと思っているんです。どうぞご遠慮なく。」


 そんな、申し訳ないだなんて、と言いながらもマルガさんの手はお菓子を受け取った。

 教会では甘味は貴重でしょうし、彼女は確か甘いものも好きだったはず。

 本当は1番好きな山羊のチーズを持ってくればよかったのかもしれないけれど、私は知らないはずの情報だし事前知識なしで持ってくるにはクセが強すぎる。


「改めまして自己紹介を。私はアリシア・レンド。レンド伯爵家の長女で、今は当主代理をしています。」

「あっ、私はマルガと申します!赤ちゃんの頃この教会に拾ってもらった孤児です。」


 まずは自己紹介。

 ここで仲良くなっておけば彼女と殿下を結婚させる良い足掛かりになる。

 打算抜きでも素敵な方だと思うけれどね。


「見たところ同年代ですけれど、マルガさんはおいくつですか?」

「今年で14になります。」

「まあ!じゃあ同い年ね。」

「同い年…。」


 少し驚いたようにマルガさんは私の方を見つめた。

 いきなり敬語をやめるのはちょっと距離を詰めすぎたかしら。


「どうかした?」

「あ、いえ、こんなにお綺麗な方が同い年とは思えなくて…ちょっと驚いてしまったと言うか。」

「褒めてくれてありがとう。お化粧してるから大人っぽく見えるかもしれないわね。でも、あなたもすごく可愛らしいわ。」

「あ、ありがとうございます!」


 マルガさんの頬がほんのり赤くなる。お世辞じゃなくとっても可愛い。

 それにしても、こんな感じでいいのかしら…。

 貴族以外と仲良くなるのってどうしたらいいか分からないのよね。ルイに聞いておけばよかった。

 初めてキーアと会った時はもっと小さい頃だったからある意味何も考えず話せたし。


「アリシア様は来年学園入学なさるんですよね?」

「ええ。そのつもり。」

「私も特待生で入学するんです。よかったら仲良くしてくれると嬉しいです。」

「ぜひ!こちらこそ。私の親族が学園の卒業生なの。もし困ったことがあったら相談してね。」

「ありがとうございます!」


 よし、まずは一歩。

 貴族じゃないマルガさんからしてみれば学院に通うのはきっと不安なこともあるはず。頼りにしてもらえるといいのだけれど。

 とはいえ私も貴族だし、マルガさんからしてみれば非礼の一つで首が飛んでもおかしくない怖い相手よね。

 あえて隙を見せてみる?

 それとも何度か会いに来れば心を開いてくれるかしら。確か原作だとそんな感じで殿下と仲良くなってたはず。


「今は社交シーズンであと数週間は王都にいるの。その間は何度かこの教会に通うつもりだから、もし会えたらよろしくね。」

「は、はい。もしかして今までも何度か来てくれてたんですか?私全然知らなくて…。」

「いえ、最近信仰深くなったというか…。こちらに来たのは今年が初めてよ。」


 最初の目的は彼女じゃなかったけれど、来てよかったわ。

 殿下がクーデターを起こすつもりなら原作通りにはいかないでしょうけれど、いざという時の保険はあったほうがいい。

 それに殿下が進むことになる茨の道の道中、支えてくれる人がいると私も安心だ。2人の相性がいいのは間違いないし。


「マルガさんは普段どんなことをして…。」

「あの、お話中申し訳ありません。アリシア様、アスラーン公爵がお見えで、アリシア様がいらっしゃるならお話をしたいと…。」

「アスラーン公爵が?」


 もう少し話せないかと気持ち身を乗り出したところに、気まずそうな顔をしたシスターが現れた。

 ちょっと残念だけれど仕方ない。

 それにしてもアスラーン公爵がなんのご用かしら。確かにこの前はここで会ったけれど用事があるなら家に遣いを出したほうが確実でしょうに。


「今参ります。マルガさん、今日はありがとう。またお会いできると嬉しいわ。」

「こちらこそありがとうございました!またいらしてください。」


 少し名残惜しいけれどしょうがない。

 呼びに来てくれたシスターも会話に割り込むのは緊張したでしょうし、すぐに行ってあげないと彼女が気の毒だわ。


 案の定ホッとしたような顔のシスターについて行きながらついでに情報収集を試みる。

 内容はもちろんマルガさんのことだ。


「マルガさんはこの教会で育ったんですよね。あなたとも長いお付き合いなんですか?」

「はい。私がここに来てすぐマルガは司祭様に拾われました。あの子が小さいときは私達が身の回りの世話を。」

「へえ、マルガさんはどんな子供だったんですか?」

「そうですね…今と変わらず素直で、あまり手のかからない子でした。本が好きみたいで、よく教会の本を読んでいましたね。」


 一つだけ疑問がある。

 街にはあんなに孤児が溢れているのに、どうしてマルガさんだけが拾われたのかという疑問だ。

 やはり彼女の口ぶりを聞いていても同じように拾われた子はいないような感じがする。

 まあなんとなく触れないほうが良さそうだから今は聞かないけれど。


「本がお好きなら、私がおすすめの本を持って来たら喜んでもらえるかしら。」

「ぜひ。教会にあるのは宗教に関する本ばかりでつまらなそうにしていたのを見たことがあるんです。それが気がかりだったんですが、買うお金もなくて。」


 信仰が集まっていないだけに寄付する人は少ないのよね。アスラーン公爵みたいな裕福で信仰深い人は珍しいから多分経営はカツカツでしょう。


 程なくしてアスラーン公爵がいる大聖堂に着いた。相変わらず時間があればここで祈ってるみたい。敬遠なことだ。

 扉が開いたのに気づいたらしい公爵は少しだけ肩を揺らしたけれど、祈りの途中だからかまだこちらは見ない。

 それに倣って私も隣で祈ると、十分な時間を置いて話しかけて来た。


「またお会いできて嬉しいです、アリシア様。この間は急に帰ってしまって申し訳ありません。今日はお時間いただきたいのですが、よろしいですか?」

「ええもちろん。どうなさったのですか?」


 朗らかな笑みが何かを思い悩むような暗い顔つきに変わる。

 一体何を話すつもりなのかしら。私程度でお力になれるかどうか。

 そして公爵はさほど時間を置かず口を開いた。


「どうか、私の悩みを聞いてもらいたいのです。」

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