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第四十七話 覚悟

お久しぶりです

とても難産でお待たせいたしましたがこんな遅筆の投稿でも閲覧していただいて感謝しかないです




「陛下を…廃す…?!」

 聞き間違いではないらしい。

 思わず復唱した言葉に殿下は頷いた。

 つまりは殿下によるクーデターということ。そんなの原作でもしていなかった。


「今の体制がよくないからですか?でも、だからと言って…」

 陛下は為政者としては評価できない。

 そもそも貴族や王族という特権階級が民を守ることが当たり前じゃないから、この世界のスタンダードな価値観を持った陛下は貧民を救ったり様々な制度を整えようとはしていない。

 流石に大規模な飢饉とかになれば話は別でしょうけれど平時はね。


 でも、陛下がこの国の最高権力者であることに変わりはない。その地位を覆そうとすれば相応のリスクがある。

 それに、殿下にとっては実の父親だ。

 為政者としては尊敬できなくても、血のつながった親から王位を奪いとるなんて、苦しいんじゃないだろうか。


 クーデターされた王がどうなるか、なんてある程度決まってる。幽閉か、国外追放か、最悪処刑。

 少なくとも殿下は簡単には会えなくなるし、陛下はその後一生日陰で過ごすことになる。

 私だって、為政者として完璧な親じゃなかったかもしれないけれど、両親のことは好きだった。だからあんなに悲しかったのに。


「私の即位など待っていられない、だろう?」

 それは言ったけど。

 あくまで動き出すのが、という話よ。即位しなくてもできることがあるなら今のうちからそれをやりましょうという話。それがわからない方でもないでしょうに。

「父上の退位を待っていたらあと30年はかかってもおかしくない。やはり王太子と国王ではできることに大きく差がある。」

 それはそうなんだけれど…。


 父君を廃すということですよ、と言いかけて止まった。

 いや、そんなの分かってるに決まってるか…。

 私が考えなくちゃいけないのはこの方がその結論に至ったという事実だ。


 田舎貴族の私では察知できないくらい王宮では保守派の貴族が幅を利かせているのかもしれない。

 保守派は貴族階級絶対死守、平民などどうでもいいっていうのが大半だから。

 そして彼らを退けるためには強行策を取ってでも次の君主は殿下だと知らしめなければいけないのかもしれない。

 傀儡にならないために。


「絶対にそうしなければならないと思ったのですよね?」

「ああ。今の王宮の情勢は知っているだろうか。」

「…宰相のメイシオ公爵の権力が最も強いとは。」


 セイヨンとハイド様のお父上、私もお世話になったメイシオ公爵は宰相だ。そもそもメイシオ公爵家の役割が宰相なのだ。


「メイシオ公爵は保守派だ。それから現トップ2のライオ侯爵も。」

 ライオ侯爵はルイの父親だ。有能だと言う話は聞かないから彼が高い地位にいられるのは四大家当主という肩書とルイのおかげでしょうね。


 国の中枢を牛耳るメイシオ公爵が悪人かと言われればそう断言はできない。実際私は気にかけてもらっている。

 けれど彼はこの国の一般的な貴族と同じで平民を助ける役割に自分がいるとは思っていないだろう。


 繰り返すようだがこの国の貴族の中で平民を守るべき、という考えは一般的じゃない。

「自分達は偉く産まれて来たのだから平民は傅くのが当たり前、自分が偉い地位に就くのが当たり前。」これが一般的な考えだ。

 誰のおかげで今の生活があるのかや、何のために上に立つ立場にいるのかを考える人はそう多くない。

 メイシオ公爵も同じだろう。


「彼らを説得できればそれが1番だが…難しいだろうな。」

「そう…ですね。」

 今私に親切なのは彼らの脅威でも邪魔でもないからだ。


 あまり目障りなことをすると叱責では済まないかもしれない。特にライオ侯爵は過激な方だから、メイシオ公爵の意向に関係なく手を出してくるかも。

 ハイド様がメイシオ公爵の跡を継いだら多少は変わるかもしれないけれど、それも数十年後でしょうね。


 …うん。これは殿下の結論も致し方なしかしら。

 それまでに別の道が見つかったらいつでも方向転換して欲しいけれど。

「分かりました殿下。今のところ、陛下を廃すことは必要なことなのですね。」

「ああ。かと言って貴女に何をしてくれというのでもないが、ただの決意表明だ。」


 …何をしてくれでもない、か。

 殿下はハイリスクで、しかも肉親を傷つける行為を1人でしようとしている。

 そんな覚悟を見せられて私が何も応えないと思うのなら、流石に見くびり過ぎだ。

 とはいえ今この方に言うことでもないけれど。


「さあ、ペアンを呼び戻そう。」

 机の上にあったベルを一度鳴らせばすぐにペアン様が戻って来た。

 突然席を外すように言われてなんの説明もないのに、出ていく前も今も特に気にする様子なく視線を外し続けているのは純粋にすごいわ。同い年なのに。

 殿下が信頼して呼んだだけある。


「さっきの話はこれで終いだ。孤児救済事業の具体的な話に移りたい。」

「はい。」

 ここからは私も話すことがある。

 正直言って、どこかの領地に移すとしても私の領地か、良くてお兄様の領地くらいしかできないんじゃないかと思っていたけれど、殿下のおかげで私の案にもっと現実味が帯びた。


 鞄から書類を出して殿下に差し出す。私なりに考えた提案書だ。

 思えばカバンに入れた書類を自ら持ち歩くだなんて初めてかも。

「それではご説明します。」

 

 私が考えたのはジャガイモを使って自給自足させる案だ。

 当初私は農機具や橋造りなんかの今農民が農業以外にやっていることを孤児が代わりにして、物々交換で孤児の身の回りに必要なものを揃える算段だった。

 でもやっぱりそれだけじゃ足りないでしょうね。

 農機具の作成だけでは孤児達が食料などを得るには対価として心許ない。

 そこでジャガイモだ。


「ジャガイモは圧倒的に作りやすい上、腹持ちがいい。強いて言えば今人気がないことが懸念点ですが、そこの布教は私たち運営側の腕の見せ所でしょう。」


 ざっくりと私の話を聞いた殿下はすぐに疑問点を口に出す。

「ジャガイモ…というか農作業の指導は各領主が斡旋するんだな?」

「はい。」

「孤児達が奴隷のように扱われないかが心配だ。子供を虐げながら使役する雇い主もいるだろう。」

 

 この国には奴隷制度はないけれど、残念ながらそう言った子供を虐げる例は少なくない。

 子供は体格などの問題でできることが少ないし、そうなると雇用主側にも雇ってやっているという意識が芽生えやすい。あとは孤児を連れてくるのは難しくないから代えが効く立場だと思われてしまうのもある。

 かと言ってそれを禁止する法律を作るのも難しいだろう。なんせ殿下はまだ王ではないから。


「各領主が領の法律を作るというのはどうでしょうか?」

 私が自分の領でやっているのと同じように。

 貴族の治める領では厳密に罰則などを定めた法律がなく貴族の裁量に委ねられたりするけれど、先生の記憶で見たのと同じように法を整備してあらかじめ罰則を定めておけば理不尽に孤児を虐げることは難しくなるはず。


 私が領で行っている法の整備の内容をかいつまんだ話せば殿下の瞳が見張られて光が差し込んだ。

「どうかなさいましたか?」

「いや…随分地道な改革をしているんだな。上から目線で評価する資格はないが、いいことだと思う。」

 下地が大事だからね。それに整理すればするだけ私が自由に動けるようになる。


「課題としては領地によってジャガイモが育ちにくい場所がある可能性があることと、現在ジャガイモが不人気なため余った分を売れるかが不透明なことですね。」

「ジャガイモが育つかどうかはやってみないと分からないが、関連の書籍を読めば大体育ちやすい環境くらいは分かるだろう。どの領地が育てにくいかは私が調べておく。」

「ありがとうございます。」


 王宮には私の家の書斎とは比べ物にならないくらい大量の本が貯蔵されている。ジャガイモがこの国ではマイナーとは言え、きっと参考になる本も沢山あるだろう。


「ジャガイモの布教についてなのですが、三つほど案がございます。」

 これに関しては先生の記憶を存分に使わせていただく。

 先生の世界でもジャガイモは見た目の悪さや馴染みのなさなどから敬遠されていたらしいのだけれど、それをなんとかしようと策を弄した方々がもちろんいた。


「案としては、昼間わざと厳重にジャガイモを警備して夜手薄にし、貴重なものとして盗みたくさせたり、レシピを普及したり、ジャガイモの花を社交界のファッションに取り入れたり、です。」


 今の段階ではまず孤児の食糧確保のために育てさせるだけだけれど、繁殖力を考えれば遠くないうちに孤児達が作ったジャガイモが一般の市民にも行き渡るような量になるだろう。

 その時抵抗なく受け入れてもらわないと。


 あとはジャガイモの他に考えていることがあるのだけれど…こっちは事後報告でいいわね。

 あんまり伝える情報を増やすと本当に話したいことが話せなくなっちゃうし。


 私の話を聞いた殿下は淡々と頷いた。今の時点で特に意義はないということでしょう。



「では、これからの話をしようか。」

 殿下が肘置きに置いた手を組んだ。


 私も頷く。

 ああ、気を張りすぎて喉が渇いてきた。

 内密でなければ侍女を控えさせて紅茶を入れてもらったものを。


「この後も孤児は増え続けるだろう。引き取った孤児も大人になるまで数年かかる。今一斉に王都から孤児を引き取ったとしても、他の領地、つまり王都にいない孤児もいる。」


 手痛い…というか、殿下自身も悩んでいるだろう指摘だ。

 正直言って、今言ったところはどう改善したらいいのかまだ考えられていない。

 踏み込める領域も限られているし、社交シーズンが終われば私も領地に帰らなくちゃいけない。


「孤児を引き取る場合、彼らを食い物にしていたならず者の抵抗も考えられる。孤児本人の抵抗も。」

 まあ、急に保護するからついて来いと言っても怪しいでしょうね。

 それこそそういう手に騙された経験がある子も少なくないでしょうから。


「夜のうちにコソッと連れて行ってしまうのは…?」

 やり方が人攫いのそれだけれど、こちらに悪意がない以上許容してくれないかしら。

 外で寝るよりは良い生活を保証するから。


「親と逸れた子供の可能性も否定できないし、孤児が全員外で寝ているわけでもないからな。それに、一夜で行うことはできない。そうなると噂を聞きつけたならず者が囲っている孤児を隠すかもしれない。」

「やっぱり難しいですね…。」


 あー、良い案が浮かばない。

 話を持ち出した以上私に責任があるというのに情けないわ。

 書面で事前通達できればいいのだけれど、孤児の中で字が読める子はほとんどいないでしょうね。識字率の低さが憎い。


「…あ。」

「どうした?」


 思いついたわ。

 文字が読めなくてもざっくり孤児達の不安軽減ができる策を。


「文字ではなく、絵で迎えに行くことを知らせられないでしょうか。」

「絵?」

「はい。具体的に全てを伝える必要はないんです。むしろならず者達の目を掻い潜るためには曖昧な方がいい。」

「それで絵を?」

「はい。絵で概要を伝え、いざ迎えに行くときの抵抗を減らしたいのです。可能であれば外に出てきて欲しい。」


 先生の世界では識字率の低かった時代に宗教の布教において絵を使っていたらしい。

 問題は文字と違って大量に用意するのが難しい点だけれど…。


「絵も絵の具で描くのではなく、木の板に彫ってハンコのように押せば大量に生産できるかと。」


 要は版画だ。

 この世界、紙とか時計とか若干先生の世界から輸入しているものもあるのだけれど残念ながら印刷機はない。

 でも版画を掘る技術がある人、1人くらいはいるでしょ。


「宗教画のように見せれば怪しまれずに用意できるな。」

「はい。人の手配はルイに頼んでみます。」

「任せる。…それで、今後の孤児保護に関してだが。」


 殿下の言葉に頷いた。

 今までの会話でなんとなく共通理念が生まれたんだと思う。

 殿下も方針を決めた顔をしていらっしゃる。


「随時考える。と、いうことで構わないな?」

「はい。」


 最もらしい言い方をしたけれど、いわば後回しだ。

 でも仕方がない。

 孤児の保護は早い方がいいし、今後の問題はあくまで今後のこと。つまり未来。他の領地にいる子供以外、今被害が出ているわけじゃない。


「今後増加する孤児への対策は思いつき次第実行に移す。今は今苦しんでいる孤児達のために動こう。」


 本当は他の領地にいる孤児達だって助けたいけれど…。

 今はそこまで踏み込む権限も、お金も人員もない。


「アリシア嬢。」


 思わず唇を噛んでいることに気づき、殿下の声に顔を上げた。

 いけない、顔に出過ぎだ。

 顔を上げた先の殿下は相変わらず凛々しい表情でこちらを見つめていた。


「歯痒いこともあると思う。だが、あなたのおかげで助かる子供達がいる。」

「…はい、心得ております。」

「例の件は2年のうちに動く。」

「2年…。」


 驚いたけれど、今度こそ感情を隠すことができた。

 例の件って…多分王位簒奪、要は父王へのクーデターよね?

 2年なんて、そんな短い期間で…。


 けれど殿下は大見得切ったわけでも、口を滑らせたわけでもないらしい。

 今まで見た顔の中で1番真剣なくらいの表情で彼は告げる。


「必ずやり遂げる。それまで辛抱してくれ。」


 

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