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第三十一話 市民

この先残酷描写描写がございます。

ご注意ください。

もちろん全てフィクションです。

残酷描写が苦手な方用に次の話の前書きに軽いあらすじを入れる予定ですので無理かも…と思う方はスルーしても読めます。




 ぶつからずには歩けないくらい人が密集している。

 よくわからない食べ物の匂いが屋台から香って、歩いても歩いても辺り一面からざわめきが聞こえてくる。


 色々な騒動がひと段落した今日、私は王都の市民街を歩いていた。

 青空の下、何にも舗装されていない土の道が砂埃を立てて視界をぼやかす。元々色とりどりの壁で街を彩っていただろう建物は汚れて何色かわからなくなっていた。


「アリアナ、前から人が来る。俺の後ろによけてくれ。」

 いつかに使った偽名で私を呼んで後ろ手に庇うのはタリオスだ。

 どうして私が市民街にいるのか、なぜタリオスを連れているのか、それは昨日に遡る。



「タリオス、よく役目を果たしてくれました。」

 見張りを置く必要がなくなったので関所からタリオスを呼び戻した私は、彼の休息もそこそこに呼びつけた。言うまでもなく、労いとお説教のために。


「勿体無いお言葉にございます。」

 普段ならただの謙遜でしかないこの言葉もこの状況下においては肯定半分否定半分という感じだ。


「タリオス。」

「はっ。」

「分かっているわね?」

「はい。処罰は何なりと。」


 タリオスは私の命令から逸脱してトロント家の遣いから書状を奪い取ろうとした。

 幸い相手が知り合いだったことと、速やかに事態の収束が測られたことでその悪影響はなかったが、一歩間違えればタリオスがお尋ね者として追われていた可能性もあり得る。


 故に、私はタリオスを叱らなければならない。

 タリオスも当然承知の上といった様子で、今は跪いて頭を下に向けている。今から私が首を落とそうとしても避けないのではないかと思うほど構えていない。


「タリオス。先にあなたの話を聞きます。どうして書状を奪おうとしたのか、その後どうするつもりだったのか、正直に話して。」


 何にせよ話を聞いてから。

 タリオスは躊躇うそぶりもなく話し始めた。曰く、確実に目的を遂行するためには奪うことが最善だと考えた、曰く、私に迷惑をかけないためにレンド家とは関係ない単独犯として振る舞うつもりだったとのことだ。


 聞き終えて最初に思ったことは、見上げた忠誠心であるという尊敬の念。その次にやはり軽率であるという叱責の気持ちだった。


「タリオス。まずはあなたの忠誠心は素晴らしいものだと認めます。あなたの行動がなければトロント領の橋が落とされていたかもしれません。」


 タリオスは思わずといった風に一瞬顔を上げて、また急いで下を向いた。垣間見えた顔からして驚いていたことは分かった。

 私は構わず続ける。


「でも軽率な行動だったことも確かよ。あなたは単独で行ったつもりでもどこからあなたと私の関係が嗅ぎつけられるかも分からないんだから。」

「申し訳ありません。」


 例を挙げるならルイだ。ルイが私達の不利になることはしないだろうけれど、彼のように秘密裏に情報収集を行なっている人間は私の知らない範囲にもいるだろう。そういった諜報役がどこに潜んでいるかわからない。


「それにタリオスが1人で捕まるだけでも困るわ。私の騎士ならもっと長く仕えられるように振る舞ってもらわないと、でしょ?」


 やるならせめて許可をあげられるようなことでないと。

 先程まで敢えて立って跪くタリオスとの高低差を作っていたのだけれど、自ら屈むことでそれを崩した。


 急に視界に主人が入ってきたことに驚くタリオスに笑いかけながら指を折っていくつか約束を取り決めた。

 一つ、後先を考えること。

 二つ、命令に背く場合は先に相談すること。

 三つ、自分の安否も勘定に入れること。

 それらをタリオスに頷かせてから、私も締めの言葉に入った。お互い疲れていたので。


「何はともあれお疲れ様でした。私の無理を聞いてくれてありがとう。」

「光栄にございます。」

「そして、今回の独断専行の罰を下します。明日、私が市民街に行く護衛をすること。」

 もちろんお忍びで、と付け足された言葉にタリオスはまた驚愕の表情をした。


 以上が事の経緯である。

 元々、市街地には来る予定だった。

 自身が変えようとする人々の暮らしを見るのは当然だからだ。


 のどかで農業中心の我がレンド領と違い、王都は人が多くて商業が活発だ。生活体系がまるで違う。

 それに飢饉が尾を引いて王都周辺は特に貧しいので、やはり生活の様子はよく見ておいたほうがいいだろう。


 私もタリオスも黒いローブを着て身を隠している。かえって目立つかと思いきや意外と同じような服装の人達もいて特に視線が集まるということはない。

 タリオス曰く、自分はともかくとして私の髪や肌の手入れ用はすぐに裕福な身分だと分かるらしい。

 そしてここでは裕福な人間はスリや誘拐のターゲットになるか、そうでなくとも親切を押し売りされたり、最悪貴族への恨みの発散先になったりするらしい。

 恐ろしい話だ。


 私がルイではなくタリオスを連れてきたのも自衛のためである。

 ルイは、自分の身を守ることはできても慣れていない私を連れて行けば絶対に無事とは言い切れないと言っていた。

 だからある程度市民街に慣れていて武力に秀でたタリオスを護衛に選んだのだ。


「クソ坊主!今日という今日は衛士に突き出すぞ!」

 こんな様子か、と呑気に散策していられたのも束の間、道の端で露店の店主が子供を怒鳴っている。いや、怒鳴るだけじゃなく拳を握って…これ、まずいんじゃない?


「タリオス…!」

「アリアナ。やめた方がいい。子供が盗みを働いたんだ。」

 人の流れに沿って歩いていると露店に近づく。確かに子供の手には露店の商品と思わしきものが握られていた。


「数発殴って気が済んだら店主も衛士には差し出さないかもしれない。その方がマシだから子供も抵抗しないんだろう。」

 タリオスの言う通り子供は体を弛緩させて抵抗するそぶりを見せない。店主の口ぶりからして何度も盗みを働いているのだろう。そしてとうとう店主の堪忍袋の緒が切れたと言うことだ。

 確かに部外者が介入するべきではないのかもしれない。


 それにしても衛士に告発されるより店主に殴られた方がマシな社会、か。そしてそれが市民の考えとして浸透している。

 先生の生きた時代なら、盗みでしか生計を立てられない子供は然るべき機関に預けられた方が幸せだという考えが一般的だと思う。つまりそれだけこの世界の整備が進んでいないということだ。

 歯痒いけれど今は私も手を出すことができない。見て見ぬ振りをして足を進めた。


「人が倒れてる…。」

 今度は道端で倒れている人を見つけた。

 家がないのか、具合が悪いのか、それとも道端で眠るのは市民の中では普通のことなのか誰も気にした様子はない。


 かと思えば、通りすがりの人がしゃがみ込んで寝転がった人をひっくり返した。よかった、介抱してくれる人がいるのね。

 倒れた人がまとっている布でよくは見えないけれど、少なくとも暴力を振るっているという感じはしない。


「アリアナ、あれは死体です。」

「し、死体?!」

 ホッとしながら眺める私にタリオスは淡々と事実を告げた。


「野垂れ死んだのでしょう。多分もう身につけていた金目のものは全て取られています。今屈んでいる男はもしかしたらと思って漁っているんでしょうね。」

 タリオスの予想通り、何の収穫もなく立ち上がった男は苛立たしげに横たわった体を蹴った。し、死体蹴り…。

 戦慄する私にまた淡々とタリオスが告げる。


「ああ言う人間は少なくありません。歩いているうちにまた目にすることもあるでしょう。腐って臭いがキツくなるまで誰も埋葬しません。」

 言われた通り本当に誰も気にしていない。

 歩く人歩く人、目もくれない。風景の一部でしかないのだ。

 ふと、よそ見をしていた人がご遺体に引っかかった。その人も苛立たしげに壁の方へご遺体を蹴り飛ばした。


「そこのお二人さん!喉は乾いてねえか?搾りたてのジュース買ってけよ!」

 5メートルほど先の露店の店主が明らかに私たちに向けて呼び込みをしている。

 間にはまだまだ歩行者がいるというのに。

 多分私が子供が捕まっている様子や道に放置されるご遺体に動揺していたからカモにされているのでしょうね。

 1人ぼったくりに遭うとそれを見ていた周囲が集まってくるから気をつけるようルイに言われている。

 悪いけれど無視しましょう。


「いいからいいから!」

 前を通ると店主はよく分からない文句でこちらにジュースを押し付けてきた。しかも前を歩くタリオスではなく私に。溢れる!


「やめろ。」

 受け取ることもできずワタワタと揺れる水面を見ていると、タリオスが半身分振り向いてジュースを押さえつけてくれた。おかげで溢れずに済んだわ。

 ついでと言わんばかりに店主を一睨みしたタリオスの眼光のおかげで店主の腕も引っ込む。

 キュッとジュースを両手で抱え込んで青ざめる店主に同情の眼差しを向けながら少し早歩きして通り過ぎた。


「ジュースくらいなら買ってもよかったかしら?」

 喉が渇いているのは事実だ。他の人にまで押し売りされたら困るけれど2人で一杯買うくらいならそんなにチョロい客とも思われなかったんじゃない?


「露店のものは買わない方がいい。」

「どうして?」

「市民街の胃の基準で作られたものだ。アリアナなら腹を壊す。」

 かもしれない、とかではなく断定だった。こ、怖…。

 思わずお腹の辺りを抑えた私にタリオスが小さく笑った。笑い事じゃないわ。


「この先は浮浪者や物乞いが多くなる。心の準備を。」

 一層張り詰めた空気を纏ってタリオスが念を押した。

 周りを見ると確実に一人歩きする女性が減っている。今までの道より人の密度が減った気もする。


 歩いている女性は質素な格好をした老婆や、屈強な男性を連れた中年の女性など明らかに襲われることを用心した人ばかりだ。

 さっきまでも女性の一人歩きは多くなかったけれど如実に人々の空気が違う。

 けれど一つ気になることがある。


「物乞いをするなら人が多いところの方がいいわよね?どうして人が少ないところでやるの?」

「単純な理屈だ。さっきみたいな大通りは店を出したい奴らがたくさんいる。物乞いがうずくまるスペースがないんだ。」

「…それだけ?」


 ものすごく単純。物乞いの人達からしても死活問題でしょうしもっとグイグイ行ってもいいんじゃない?

 疑問が顔に出ていたのかタリオスが補足してくれた。


「物乞いは邪魔にならないから見逃されているだけだ。普通に生活している人間の邪魔になるならさっきの死体と同じように蹴飛ばされる。ここにいる奴らはその立ち振る舞いが上手くいかなくて追いやられたんだよ。」

 説明の通りなら、物乞いの世界というのは慈悲で成り立っているものではなかったらしい。

 あるのはただの無関心、か。


「あれ、赤ちゃんよね?」

 道の端で物乞いをしている女性は纏った布の間から小さな手を出して見せている。

 その手を握る女性の腕はガリガリに痩せていて、まさしく骨と皮だけ。骨と皮をつなぐ筋肉や肉もないんじゃないかと思うほどで、触ったら皮だけ伸びそうだ。

 そして赤ちゃんも同様に痩せている。

 大人とは違う小さい手は手の形をしていなければ棒切れか何かかと見間違えそうだ。


「タリオス、これを彼女に投げてくれない?」

 タリオスに渡したのは金貨だ。

 彼の技術なら人の目に留まることもなく彼女達の足元に投げられるだろう。

 ほんの数日生きながられるだけかもしれない。これは私のただのエゴだけれど…


「アリアナ。あれは…死体です。」

 タリオスは金貨を受け取らず、私の手に隠すように握り込んだ。

 そして一瞬言い淀んで、けれどやはり淡々と私に伝えた。

 …死体?

 ヒュッと喉を空気が抜けた。

 緊張で暑いくらいなのに、背筋だけが凍えるように温度を失う。


「赤子があの状態で生きられるはずがない。実際ぴくりとも動かない。」

 絶句した私を少し気遣うように見ながらもタリオスは続けた。


「どこかの死体から連れてきたのか、産んでも育てられずに死んだのか、わからないがあれは同情を買うための嘘だ。」

 嘘。

「物乞いは同情を買うのが1番効率がいい。あの手この手で哀れさを演出する。」

 心に留めておいてくれと告げた彼に頷くことしかできなかった。


 女性達の前を通り過ぎてから、ある小道が目に入った。

「…あっちは行かないの?」

 気持ちを切り替えろ。

 絶句してるばかりではここにきた意味がない。

 むしろショックなものを見たら見るだけ気合を入れるくらいでなければ。

 現状を見るためにここにきたんだから。


 ずっとそれなりの道幅と人通りがある所謂大通りを通ってきた。

 けれど建物と建物の間にある小さな道にも人々の営みがあるはずだ。

 今少し誰かが横切った道を指して問いかけると、タリオスは振り向いた。すごく、怖い顔で。


「タリオス…?」

 鬼気迫る、とはまさにこのこと。

 まさかそんな顔をされると思わなくて、思わず後ずさった私にタリオスはそれでも表情を変えない。


「あちらは本当に危険です。」

 あえてシンプルな言葉を使って、彼は警告した。

「ここらに慣れたならず者たちの縄張りです。俺でも、剣を抜かずにあなたを守れるか分からない。」

 剣を抜かずに、その言葉でタリオスの言いたいことが1番伝わってきた。


 事実、危ないのだろう。けれどそれだけじゃない。何よりも無理に私が行きたいといえばならず者とはいえ国民を傷つけることになる。

 それだけのリスクがある場所だ。


「分かった。もう行きたいとは言わないわ。」

 強く頷いた私にタリオスはやっと眉尻を緩めた。

 ごめんなさい、タリオス。


 それからさらに進んだ先で子供が座り込んでいるのが視界に入った。

 1人じゃない。ざっと数えておそらく7人。

 痩せているせいで男の子なのか女の子なのか分からない。

 物乞いだろうけれど、子供はまとまってやるのね。

 仲間意識のようなものがあるのかと場違いにも微笑ましく思っていると、通りすがりの人がコインを足元の箱に投げ入れるのが見えた。


「タリオス!本当にお金をあげる人がいるのね。」

 嬉しくなってタリオスのローブを掴みながら言うとタリオスはさっきよりも言いづらそうに言葉を溜めて、けれどやはり止めずに言い放った。


「あの金は、おそらく子供達の懐には入らない。」

「どうして?」

「あの子供達はおそらく孤児をならず者たちが集めた集団です。」


 何のために、と聞こうとして私もある可能性に思い至った。

 同情を誘うことが1番効率的な物乞いの方法というタリオスの言葉、そしておそらく裕福ではないならず者たち。


「資金源の一つ、ということ?」

「ああ。」


 嫌な予想が当たってしまった。

 もう一度子供達を、今度はじっくりと見て、ゾッとした。

 誰も彼も、虚空を見ている。

 道行く人に媚びるでも、自分たちの境遇を嘆くのでもなく、ただ無表情で、どこか遠くを見ている。

 異様。

 その一言に尽きる。


 良心のままにお金を投げた人達も、少し期待した風に子供達を見下ろして、すぐに怯えたように去って行った。

 こちらを殴れもしないだろう非力な子供なのに、大の大人を恐れされるような、関わったら不幸になると思わせるような闇が広がっている。


 見渡すと、そんな子供達はたくさんいた。

 まだ人に何か頼む気力は残っているのか、道行く人の足に縋る子供もいるけれど、大半は痩せていて、だと言うのに差し出された食べ物にも喜ばず淡々と齧り付いている。

 その中である集団が目に留まった。


「あの子、怪我してるわ。」

 だからと言って今の私に何かができるわけではないけれど、あまりにも痛々しくて目についた子供がいる。

 腕が折れて、腫れて、変色している。

 しかも1人ではなく、集団の内三分の一ほどがそんな状態で、酷い子は骨折に加えて火傷や切り傷もある。

 それでも他の子と同様に痛がるそぶりもなく虚空を見つめているけれど。


 しかしどれだけ不気味に見えても可哀想なことに代わりはない。現に足元の箱には他の集団より多くのコインが入っている。

 タリオスに頼んで、どの集団にもコインを投げてもらっているけれど、明らかに入ったときの音が違う。


 もちろんコインを投げることが何の解決にもなっていないことは理解している。でももしかしたらコインの量が多ければいつもより多くご飯が食べられるかもしれない。

 その可能性に賭けて通りすがる子供達のどの集団にもコインを投げている。


 ふと目線を前に向けると、路地裏に子供の1人が引きずり込まれたのが見えた。

「あれ…!」

 聞いていたならず者か?

 何もしていない子供がなぜ絡まれているの。

 けれどこちらが焦りながら近づく間に、すぐ子供は解放されたようで路上に戻ってきた。

 ━━━その腕を大きく腫らして。


「…あれがならず者のやり口です。」

 言葉も出ない、とはこのことだ。


 説明されなくても分かってしまった。

 子供達を集めた奴らは学んだのだ。

 怪我をした子供はより同情を集められる。同情を集められるから自分たちが集めた子供の腕も折る。より可哀想になるように。より自分たちが金を得られるように。

 おぞましい。

 あの虚な瞳の意味が分かって体の中を、皮の内側をかき混ぜられてるように気持ちが悪い。

 同じ人間なのか。あれが。


 見せられるところは大体見せたと言うタリオスに連れられて屋敷に戻ってきた私は、キーアの淹れてくれた紅茶を飲んで一息ついていた。


「申し訳ありませんでした。」

「何を謝っているの?」

 同席して良いと言ったのにタリオスは跪いて私に頭を下げた。

 本気で、何を謝っているのか心当たりがない。


「見せるべきでないところまで見せてしまいました。」

 自責の念を滲ませた声をタリオスは絞り出した。

 確かに今日のルートは全てタリオスに案内してもらったけれど、それは彼の責任ではない。私が頼んだことだ。

 見たものも全部、私が見たがったからだ。

 それにタリオスが罪悪感を抱える必要はない。

 だから私は椅子から立ち上がってタリオスと同じ目線にしゃがんだ。


「あなたが謝る必要は全くありません。」

「しかし…。」

「聞いて。」

 今日付き合ってくれたタリオスには話しておこう。

 今日私が感じたことを。


「気分が悪くなったことは否定しない。でも、それがマイナスだとは思わないわ。」

 私は世間知らずだ。

 それでも貴族の中なら物を知っている方だと思っていた。

 それが今日粉々に打ち砕かれた。


「むしろ気が引き締まった。やっぱり今からやれることをやらなくちゃいけないんだって思い知らされたわ。」

 王太子殿下の即位もクーデターも待っていられない。

 放っておいたらいつ消えるかもわからない命を拾い上げられるのは気づいた人しかいない。


 それに子供だけじゃない。あのならず者たちはきっとあの子供たちが生き残った姿でしょう。

 学も財もないから知っている方法で稼ぐしかないのだ。

 そのスパイラルをどこかで断ち切らなくてはいけない。

 怖かったなんて、思い出したくないから放っておくなんてことは言わないわ。

 私も腹を括ろう。


「王太子殿下に会いに行く。そして一緒にこの国を変えるわ。」

 だから安心してね、と微笑む。

「約束する。あなたの主は絶対折れたりしない。」

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