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第二十六話 帰宅

3/18,19はおそらく更新できないと思います。早くて次回の更新は3/19の日付ギリギリくらいになります。

皆様閲覧や、ブクマ、評価ポイントやリアクションなどいつも本当にありがとうございます!モチベーションになっております。

これからもよろしくお願いします。




 私たちを乗せた馬車は王都に着いたらしい。

 眠っていた私達が起こされたときにはすでにライオ邸の前だった。夜闇の中ぼやけた輪郭が見える。

 先にルイを屋敷に送り届けるよう伝えたのは私だけれど、少し心配だ。

 原作の通りなら彼はこれから両親に求めていた微かな希望を打ち砕かれ、人間不信を確たるものにすることになる。

 原作と違って私と友人になったことでルイは原作よりは孤独じゃなくなったはずだ。だから原作よりはショックを受けずに済むかもしれないけれど、どうだろう。


「心配そうな顔してるね。」

 団長様とライオ家の誰かが話している間に、ルイが平然とした顔で話しかけてきた。

「僕の家族のことを心配してるの?」

 もはやこのテレパシーじみた察し能力にも驚かなくなってきた。まあ彼の背景を知れば原作を知らなくても家庭環境を心配するのは当然だと思うけれど。

「お見通しだから言うけれど、そうよ。私が心配しても何にもできないかも知れないけれど…大丈夫?」

「うん、もう未練はないよ。君がなくしてくれたからね。」

 ルイはそう言ってから窓越しにライオ邸を見て、両親の部屋は明かりもついていないと笑った。

 多分本当に吹っ切れていて、それだけにモヤモヤする。

「ルイ様、到着いたしました。」

 ルイが馬車から降りるよう促す声が聞こえ、私の心配は更に増した。ルイは変わらずに笑っている。

「ねえ、困ったら遠慮なく私の家に来ていいのよ。婚約者になるんですもの。」

「うん。ありがとう。」

 私の内心もきっと見透かしながら、ルイはまた明日と言って馬車を出て行った。

 寂しくなったのは1人の馬車に乗っている私のようだけれど、本当に寂しいのはどっちかしらね。


「アリシア様!」

 ライオ邸からレンド邸まではそう遠くない。眠るほどの時間もなく馬車に揺られていた私は、馬車から降りるなりキーアにしがみつかれた。

「アリシア様!アリシア様!本当に見つかってよかった…。」

 今までこんなに強く掴まれたことないってくらいの強い力。

 騎士様から聞いた件は本当なのかとか、屋敷の様子とか、聞きたいことがいっぱいあったのだけれど、全て吹き飛んでしまう。

「ただいま。」

 そう言って抱きしめ返したら、耳元の啜り泣きの声がもっと大きくなってしまった。

「お帰りなさい…。」

 鼻声でダミダミだけれど確かに私を迎えてくれたキーアの頭を撫でてから、どうしても伝えなければいけない重要なことを告げる。


「お風呂入りたいから準備してくれない…?」

 キーアは昔から私に仕えてくれて、隠し事なんてほぼないような親しい仲だ。けれどどれだけ親しかろうと譲れない一線というものはある。そう、今のように。

「準備は致しております。」

「さすがね。じゃあ放してくれない?」

「嫌です。」

「お願い。嫌とかじゃないから。」

「嫌です。」

「主人の尊厳のためにはーなーしーてー!」

「もう少し…。」

 ウゴウゴと腕の中で精一杯の抵抗をする私にキーアが何度も食い下がる。この状態であんまり堪能されても困るわ。

「アリシア様。侍女殿。」

 まだ抱きしめられて振り向くこともできない私に誰かが声をかけた。声からして…団長様?

 何度か促した結果流石にキーアも放してくれたので振り向く。

 少しは夜の暗闇に慣れた視界に入ったのは神妙な顔をした団長様。

「改めまして、この度は申し訳ありませんでした。」

 森にいたときと同じように彼は頭を下げた。綺麗に直角に礼をしても鍛えているからか微塵もその姿勢が動く様子はない。

 なんて、観察してないで止めないとね。

 予想通りだったけれど皆気にしすぎよ。


「団長様。頭を上げてください。先ほども言った通り私は気にしていません。これ以上謝られても困ります。」

 困る、という言葉に彼は頭を上げた。森でのやり取りでどう対応するのが1番いいかは予測済みだ。

 もうこれ以上は収拾がつかないもの、私も少し冷たいくらいがちょうどいいでしょう。

「もう私は休むので。皆様、見つけてくださってありがとうございました。後のことはお祖父様とお話しください。」

「アリシア様…。」

 一礼した私は彼らの顔を一見してから屋敷へと足を向けた。

 夜風が頬を撫でて気持ちいい。

 帰って来られたという嬉しさや安心感ももちろん大きいけれど、それと同じくらいある種のケジメがついたことへの寂しさもあった。



 よし、行きましょうか。

 どこへって?それはもちろんお兄様の下へ。

 寂しさと切なさと汚れはお風呂で流してきた。

 もう終わり。恋する乙女の期間はとっくに終わっている。

 ずるずる引き延ばして婚約者がいないことを理由に延命させていた恋心は元々とっくの昔に捨てなければいけなかった。

 だからこれで本当に終わりだ。


 お風呂から上がった私を迎えたのはわざわざ起きてきてくださったお祖父様とお祖母様のお二人だった。

 二人とも泣きながら喜んでくださったし、私も会えて嬉しかったのだけれど騎士団に懲罰を課そうとするのはやめていただきたい。

 聞いた話ではこの二日間色々な家を回って私を探すために情報を集めてくださっていたようなのでその負い目と嬉しさもあって中々強く言えなかったのだが、ルイ様と婚約したという情報をもたらしたところ怒りを上回る驚愕によって落ち着いてくれたみたいでよかった。

 キーアも含めて根掘り葉掘り聞きたいといった様相だったのだけれど流石に休ませるべきというありがたいオリアスの一言によって解放された。

 なので本来なら自室へ直行するべきだったのだが、キーアからとある書状を受け取ったのでそうも言えなくなってしまった。


「やっぱり碌でもない人ね。」

 書状の内容は領地への増税や、橋を落として領民を孤立させることを考えているため準備しておくようにというものだった。

 トリオロスが領地の家令あたりに送ったものらしい。

 どうして私の指示に反して書状を入手しているのか小一時間叱らなければいけないところではあるのだけれど、一応は運び役と合意が取れているらしいということ、何よりタリオスはまだ関所で見張っているからこの場にいないらしいということが重なり振り上げた拳は下ろさざるを得なくなってしまった。

 しかも奪取しないと少し困るような内容なのがより怒りづらくさせてくる。

 まあタリオスへのペナルティは後。

 兎にも角にも次の一手が放たれる前にこの問題に終止符を打たなければならない。

 寝る前にお兄様に話だけでも通しておこうと考えた私は眠気でゆらゆらと揺れる頭をそのままにお兄様を軟禁している扉を開いた。


「ごきげんよう。いえ、こんばんはが正しいかしら。眠いからちょっと頭が回っていないけれど許してね。」

「うわっ!アリシア?!」

 うわとは何よ。まあ軟禁してるんだから仕方ないのかも知れないけれど。

 お兄様は眠っているかと思いきやベットに腰掛けてランタンも灯していた。とても眠る姿勢ではない。

「お前大丈夫だったのか?」

 近くにいたキーアがお兄様にも行方不明だったこと、帰ってきたことなどが一通り伝わっていると教えてくれた。どおりで。

 お兄様は真っ先に怒るかと思っていたけれど、先に心配をしてくれるとはね。優しい反応をされればされるほど罪悪感が増すわ。後悔はしていないけれど。


「この通り、元気です。」

「そうか。」

「ええ。お兄様の方こそ少し顔色が悪いわ。」

 暗闇の中だから、というのもあるけれど彼の金髪は少しくすんで見える。表情もどこか元気なさげだ。

「お前、俺にしたこと分かってるのか?」

 座ったままお兄様がギロリとこちらを睨んだ。目線が上に向かっているのとランタンが下から照らしているせいで迫力が増している。

 私は軟禁する時のお兄様の様子を思い出した。ひたすら私を咎めるように名前を叫び続ける姿を。

 私が無事だったから怒りを思い出したんでしょうね。

 反省はしていないけれど強引な手段だったのは自覚しているわ。

「そうね。無神経だったのはごめんなさい。軟禁については反省していないから謝らないわ。」

「お前…!」

 ピキリ、とこめかみを浮き出させたお兄様が立ち上がって掴みかかろうと向かってくる。このままだと掴み掛かられる距離。けれど、私も無策ではない。

「でも解決する策は見つかった。」

 その言葉にお兄様はピタリと動きを止めた。

「遭難しているときにルイ、ルイ・ライオを協力者にすることができたの。明日、決行するわよ。」

 そう言って話した作戦と、ついでに話したルイとの婚約はどちらがよりお兄様を驚かせたのだろうか。

 その顔を見て、ようやく私の長い1日が終わった気がした。

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