7.漆紀の悪罵
佐渡流竜理教の司教家の少女・竜蛇彩那とそれに従う信者の男二人によって漆紀は瞬時に無力化され、黒いバンの後部座席に連れ込まれた。
すなわち、漆紀は現在拉致されている真っ最中である。頼みの綱である精霊術が行使出来ない今、漆紀に抵抗する術がない。
隣には常に竜蛇彩那が座っており、運転席と助手席の男達を見ても道中寄り道する様子はない。漆紀の両手首は縛られたままであり、車が発進して数分後には彩那によって両足首まで縄で縛られた。
車に乗せられて何時間ほど経ったのだろう。既に夜を迎え空は真っ黒に染まっていた。本来ならば漆紀はこの時間帯にICCの仲間達と共にオフ会と称した焼肉パーティーをしていたはずだ。
「眠くないですかー、竜王様?」
拉致行為をしているというのに、それどころか漆紀を本気で気にかけているような優し気な声色で彩那は問う。漆紀には彩那の言動が一体どこからくる理由なのかわからず、得体の知れなさで気味が悪かった。
「んー、んんーっ!!」
口元は何枚ものタオルを巻いて縛られているため、まともな言葉を発せない。
「茂田さん、竜王様のタオルを取りますけど大丈夫ですか?」
「ええ。料金所は全部ETCで済ますので、声を出されても問題ありません」
彩那の問いに対して間髪置かずに運転手の茂田が答えると、彩那は漆紀の後頭部に手を回すとタオルの縛りを解いた。
「んはぁっ! はぁっ……お前ら、何の目的で俺を拉致してんだよ! 何の接点もないだろうが!」
口元のタオルを解かれるなり、漆紀は目的を問う。
「目的というか、理由はただ一つですよー? あなたが竜王様だからです」
「なんなんだよ。人違いだろ……俺はそんなんじゃない! どこに連れてく気だ!?」
彩那の答えに納得いかず漆紀は再び問い質すが、これに彩那は「それは答えられません」と告げる。
「さっき料金所とか言ってたよな? 高速道路を走ってるのかよ。ずいぶん遠くに行くんだな」
「……行き先は言いませんよ」
状況の把握は出来そうになかった。拉致行為ではあるものの、自動車に乗せてから漆紀に対して暴行などの敵意を表す行為は見られない。
(今は俺を殺る気はないんだな……でも、こいつら竜理教だったよな? 油断は出来ねぇ、こいつらはカルトなんだ)
竜理教は本家を始め佐渡流竜理教のような別れた宗派も含めて、世間では総じてカルト宗教扱いされている宗教団体である。そのような団体に「拉致行為」をされているのだから、漆紀にとっては夜露死苦隊や萩原組とはまた違った恐怖を感じさせる。
けれども漆紀は相変わらず悪態を吐かざるを得なかった。
「クソが。お前ら竜理教がこんな拉致なんてしなきゃ、今頃俺は仲間と焼肉を食ってたんだぞ! 台無しにしやがって」
「あぁ! お肉はよくないですよ竜王様。お肉はだめです」
彩那が何の理由もいわず肉食を良しとせぬ旨を口走るが漆紀は「知るか」と返して続ける。
「竜蛇……お前学校のみんなに配ってるビラに発信機仕掛けてやがったな。住所特定して、全員拉致でもする気か?」
全員拉致など、いくらカルト宗教といえど大事になるためそう易々と行えない。しかし、漆紀は当たらずとも遠からずの線から情報を出そうと考え、そう問いかけた。
「あのビラを持って帰ったのですか。いや、しかし住所は……」
「俺じゃねえ、お前がビビッたあのキモオタ平野だ。アイツは……ああ、すげえよ。ICCなめんな」
「……そうですか」
どこか気分の冷めた様子で彩那は呟くが、漆紀は畳み掛ける様に言う。
「発信機を売り捌いて、今日焼肉をするつもりだったんだよクソが! よくも邪魔したな!!」
「気は済みましたか?」
「いーや、ぜんっぜん。ふざけた見た目しやがって……竜蛇、覚えとけよ。あとで絶対嫌っていうほどパワハラセクハラしてやるクソがっ!」




