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60.城へ帰還、狙うは城側の大将

「っ!?」

気が付くと、漆紀は本陣の中に居た。大将の首に短刀を突き刺した瞬間に戻っている

(やっぱりここか! ちょっと違うことしてみるか)

「なっ!?」

「と、殿ぉ!?」

「曲者ぉ!」

護衛の侍の一人が刀を抜こうとするが、それをする前に漆紀が素早く近寄って侍の喉元へと左手の短刀を突き刺す。

「貴様ぁ!」

もう一人の侍が漆紀を斬ろうとするが、短刀を刺した侍を盾にして斬撃から身を守る。

「なっ!?」

(さっきと同じように動けばこいつらは殺れる!)

無事に敵の一撃を防ぐと、もう一撃目が来る前に身をくるりと回転させて短刀を侍の喉から抜く。その回転を活かしたまま右手の村雨でもう一人の侍の喉を切りつけた。

「かっ……かぁッ!」

しかしその侍は殿様を討たれて忠誠心が燃えたのか、根性で立ち止まって漆紀に一撃見舞おうと刀を思い切り上段へと振り上げる。

(こいつは根性で一発一矢報いようとするから、その前に首を切り裂く!)

漆紀は左手の短刀で侍の首筋を切り裂いた。

「ごふぇっ……がっ……」

喉だけでなく、横側の首筋まで切られた侍は体に力が入らなくなった。

たった今倒したばかりの侍が上げた声に気付き、本陣の幕に居る侍七人がやってくる。

(このあと、クソ強いあの侍が来る! ヤツを倒すのは今じゃなくても良いはずだ)

漆紀は思案を巡らし、ある方法を思いついた。

(アイツが城側の侍なら、この大将首を城の本丸まで持って帰るはずだろ? 一緒に同行させて貰って、城の方の大将も討ってみるといいかも)

そんな考えが浮かんだ。もし匠作と敵対せずに大将首を共に城まで持って行くよう話を運べれば、城側の大将も殺せるのではないのか。

大将を暗殺したのは漆紀だ。その手柄で城内に入る事が許されるのではないか。そして城側の大将も暗殺する。

両陣営の大将を殺しても現実に戻れぬ場合は、その時に匠作を今一度どう倒すか考えればよい。

(あの匠作って侍は下級武士っぽいけど、とんでもねぇ強さだ。強さだけなら明らかに大将っぽいもん。でも、匠作を殺すのは後回しだ)

早速そうと決まれば、漆紀は村雨を大将のそばに置いた。

(最初に匠作って侍と会った時、俺が村雨を持ってたから攻撃してきたんだ。なら、俺が一時的に手放せばいい)

村雨を手放すのは気が引けるが、今は事を上手く進めるために徹すると決めた。

予想通り、先程倒したばかりの侍が上げた声に気付き、本陣の幕のそばに居る侍七人がやってくる。

(ここまでは一回目と二回目通り。このすぐ後に匠作が来る!)

これまた予想通り、匠作が本陣の幕に乱入して敵の侍達を斬り捨てていく。

(あの動き……俺を斬った時と同じ動きも混じってる。体の体勢をちょっと傾けながら斬ってる?)

そうこう観察している内に匠作が侍を斬り終え、漆紀の方を向く。

(わっぱ)ぁ、よくやったものだ。見事に敵陣の懐に入り、大将首を狩るとはなぁ!」

「はい。大将首、いかがします?」

漆紀は不慣れながら敬語で話を進めていく。

「無論、城に持ち帰る! それを掲げ、上条上杉の兵を退かせるわ! それより、そろそろ敵の甲冑を脱いだらどうだ?」

「あっ」

漆紀は本陣に辿り着いた一回目の時に、匠作の言う上条上杉の足軽兵から奪った装備のままであった。

「これ脱いだら、素っ裸です」

「手前の甲冑は?」

「道中で捨ててしまいまして」

「忍び込むため致し方ないのう。ならば上だけ脱いで戻ろうぞ。ほれ、上条上杉の甲冑などはよう脱げ!」

「は、はい」

現状、敵対せずに話を進められているのですぐさま漆紀は言われた通り上着の装備だけを脱ぎ、上半身裸となる。

「細いのう、よくここまで来れたものよ。さ、早くその首を取って城へ行くぞ」

「はっ!」

時代劇ドラマなどで見た下の者が上の者の指示に対して「はっ!」と言って従う所作を、漆紀は見よう見真似でやってみた。ぎこちないが、敵意は買わずに済んだ。

すぐさま敵の侍の死体から脇差を剝ぎ取ると、大将の兜を取り外してその首を脇差で「ブチブチ」と切り裂いていく。

「下っ手クソじゃのう。おのれ、初陣であるか?」

侍が居た時代の首の取り方など、現代高校生の漆紀が知る筈もない。歴史や時代劇が好きな者ならば現代人でも首の取り方を知っていたかもしれないが。

「もうよい、儂がやろう。手つきが危なっかしゅうて見ておられん」

漆紀から脇差を奪うと、大将の死体を地べたに寝かせる。

「首を下手に傷付けると、誰だか分からなくなるからの。綺麗にとるには、こうやるのじゃ!」

地べたに寝かせた大将の首に脇差の刀身を宛がいつつ、切っ先は地面につけて刀身を地面と50度程度の角度に保つ。

そして刀身に右足を乗せて、一気に体重をかけて首を斬り落とした。

(あっ)

いつぞや漆紀が城内の戦場で首を斬り取られた時と同じ方法だと、首だけになった時の不快感と共に思い出した。

「よし、これで良い。おっとそうだ、童、名を聞いてなかったな」

漆紀ななきです」

「ななき? 名があるのに名無きとはこれまた辺鄙で面妖な名じゃ。童、こん首……清方の兜を持てい。もう一度首に兜を着け、立派なまま掲げるのじゃ」

「はっ」

そそくさと漆紀が兜を拾い上げ、紐を結んで清方と呼ばれる大将首に兜を着ける。

「よし、これでよい。あとは密かに陣中を抜け、城には堂々と帰るのみじゃ。童、城主に会わせてやろう。闇討ちといっても、大将を討ったのは良き武功じゃ」

「はっ!」

ひたすら「はっ」とへりくだって機嫌を損ねないようにするほかなかった。城の本丸でもう一人の大将と会うまでは大人しく格下の兵士として振舞うほかない。

「童、大将首とは言え間違っても敵陣で堂々と首を掲げようとはするなよ。忠臣達が死に物狂いで首を取り戻しにくるぞ」

(やっぱ侍の時代ってコワっ……死んだヤツの首とかどうでもいいだろ……このまま城までうまくいけば、もう一人の大将も殺せる!)

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