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59.開始地点更新、次なる標的は?

「えっ?」

匠作に負けて死した漆紀は、気が付くと大将の首に短刀を突き刺した瞬間に戻っていた。

死ぬと普段ならば侍や足軽達が乱戦を繰り広げる城内の戦場に戻されるはずだが、そうはなっていない。

この状況が意味する事は、何かが進んだということ。

(何か変わった? 大将を殺したのは合ってるんだ。でも、なんで現実に戻れない?)

しかし止まっている時間はない。大将を殺した直後という事は、護衛の侍が漆紀を討とうと迫って来る事を示しているのだ。

「なっ!?」

「と、殿ぉ!?」

「曲者ぉ!」

護衛の侍の一人が刀を抜こうとするが、それをする前に漆紀が素早く近寄って侍の喉元へと左手の短刀を突き刺す。

「貴様ぁ!」

もう一人の侍が漆紀を斬ろうとするが、短刀を刺した侍を盾にして斬撃から身を守る。

「なっ!?」

(さっきと同じように動けばこいつらは殺れる!)

無事に敵の一撃を防ぐと、もう一撃目が来る前に身をくるりと回転させて短刀を侍の喉から抜く。その回転を活かしたまま右手の村雨でもう一人の侍の喉を切りつけた。

「かっ……かぁッ!」

しかしその侍は殿様を討たれて忠誠心が燃えたのか、根性で立ち止まって漆紀に一撃見舞おうと刀を思い切り上段へと振り上げる。

(こいつは根性で一発一矢報いようとするから、その前に首を切り裂く!)

漆紀は左手の短刀で侍の首を切り裂いた。

「ごふぇっ……がっ……」

喉の横部分まで切られた侍は体に力が入らなくなった。

たった今倒したばかりの侍が上げた声に気付き、本陣の幕のそばに居る侍七人がやってくる。

(このすぐあとにヤツが乱入して来るんだ。んで、あいつらを次々に斬り捨てちまうんだ)

今後の展開を知っている漆紀は短刀と村雨を納めると、たった今殺した侍が背に付けていた持槍を引き抜いて右手で後ろへと構えて槍投げの姿勢をとる。

「てやぁ!」

「なにやつぇ!?」

なにやつ、と言い切る間もなく乱入者・匠作によって侍が二人斬り捨てられた。

(来た来た。ヤツが侍を相手しているこの漁夫の利を狙う!!)

匠作は残り五人の侍が向かって来るも、まさしく時代劇の剣豪のように次々敵の動きを見切って斬り捨てていく。

(ここだ!!)

思い切って漆紀が匠作へと持槍を投げる。持槍は狙い通り匠作へ届くが、彼は打刀で槍の軌道を逸らした。

(見切った!? 嘘だろ、侍ってコワっ……)

軌道を逸らしたとはいえ、全く匠作の身に当たらなかったワケではない。槍の刃先は匠作の脇腹から背中を掠め浅い傷を与えた。

「てあぁ!」

漆紀の槍へ対処した隙を狙って、生き残った最後の侍が匠作へと斬りかかるが。

「どけ!」

匠作は蹴り押して侍の体勢を崩させ、そのまま袈裟斬りにする。

「ふう。おい、童ぁ……大将首をうまく取ったと思いきや……今の横槍はなんじゃ?」

「あんたに殺された仕返しだよ!」

漆紀は既に次の手を打っていた。本陣の幕近くに立て掛けてあった弓を取り、既に矢を番えていた。

そのまま匠作めがけて矢を射かける。

「さっきはよくも殺ってくれたな!」

矢を次々に射かけるも、匠作はそれを避けたり矢を打刀で叩き落としたりで身を守る。

(矢ぁ叩き落とすとか時代劇でしか見れねぇ曲芸を本当にこなすんじゃねえよ! どうなってんだよ本物の侍ってのは!?)

匠作に限らず、この戦場、この時代の侍達の強さにはうんざりするほど負け続けたのだ。

「童ぁ! 首ぃなりとう言うのか!!」

(近付いたら、よく分かんない技で斬られちまう。間合いでもないってのに、なんであの時当たったんだ? なんで胸元切られたんだ?)

近付いてくる匠作だが、漆紀はひたすら逃げ回って矢を射かけるほかないのだ。

(弓が長くて走りながらだと撃ちにくい……このままじゃヤツの間合いに入って斬られちまう)

「高くつくぞ童ぁ!」

(弓はやめだ。刀や槍投げる方が当てやすい!)

漆紀は弓を匠作の方へぶん投げると、村雨も短刀も引き抜かずに空手のまま陣中を走り抜ける。

(あの強さ……あの匠作って侍が、ひょっとするとクリア条件なのか? 可能性がある程度だとしても、それに全力で当たるしかねぇ! 強いヤツならムラサメが課した条件に当てはまるかもしれない)

もはや大将を討ったはずなのに現実に戻れぬのだから、何でも試してやるという気持ちであった。

近付いて来る匠作から逃げ、先程匠作が斬り倒した侍達の方へ向かう。

「いつまで逃げるかぁ!!」

侍達の死体に辿り着くと、腰に差したままの刀を引き抜き次々に匠作へと槍投げの要領で投げ付ける。

「打ち合わぬのは非弱だからか!」

「言ってろ!」

真っ直ぐ投げ付けられた刀を匠作は打刀を振るって叩き落としていく。しかし先程の弓矢の対処とは違って漆紀の狙いが正確な分、逸らした軌道だとしても匠作は体の所々を掠めてしまう。

(致命傷は負わせられねぇが、脚やら肩やら腕を掠めてる。このまま出血箇所を増やせば、ヤツもフラつき始めるはずだ!)

とはいえ投げれる刀は無限にあるわけではない。漆紀の足下に転がる侍の死体は全部で7体。侍達が腰に差した刀は脇差含めて全部で計14本。

(クソ、もうこれで最後の一本じゃねえか!)

最後の脇差を匠作に投げつけるがこれも打刀で振り払われてしまい、脇差は匠作の腰を掠めてそのまま地面に落ちる。

(これだけじゃまだ倒れるまでの出血量じゃないはずだ。どうすりゃあの侍を倒せる?)

「童ぁ、それほど物を投げる方が好きか?」

「あぁ?」

「非力ならばそうか。童、よもや投げるのが自分だけの技とでも思っておらぬだろうな?」

匠作は地面に落ちた刀を拾い上げると、それを後ろに構えて大きく振りかぶる。

「やばっ……」

「そぉれぇっ!!」

先程とは逆に、匠作が漆紀目掛けて次々に刀を投げつける。

漆紀には匠作のように飛び道具を刀で叩き落とすといった技術が身についていない。逃げて避けてを繰り返すほかないのだ。

飛び退き、伏せて、身をよじり、なんとか距離を保って匠作が投げて来る刀の直撃を防ぐ。

しかし匠作同様に体を掠めることがあり、その時は鋭い痛みを覚えると同時に「直撃したかもしれない」という恐れを覚えて生きた心地がしない。

(ヤツが刀を投げて来た場合の対処法も考えとかないとな。クソ!)

先程の投擲攻撃で匠作を仕留めきれないのならば、どうしたものかと漆紀は考える。考えつつ投げ付けられる刀を避ける。

(意表を突いた攻撃が要るんだ。正面からの不意打ち。正面だから不意打ちじゃないけど、あいつの度肝を抜くような意表を突く攻撃を考えないと)

刀を全て避けきり、漆紀は村雨を抜く。

「童、まだやるのか? 待て、その刀……」

「村雨だって、何度も言ってんだろ。そしてコイツは俺と契約してる」

「そうか……猶の事見過ごせぬなぁ!」

漆紀が村雨を所持している事について怒りを抱いているのか、より一層早い駆け足で匠作が迫って来る。

(打ち合ったら押し負けてすぐ斬られちまう。でも近くで避けようとすると、よく分かんない技で斬られる……コイツを倒す上で必要な課題は、意表を突く攻撃を用意することと、技を見切ること!)

「てあぁ!!」

(来る!)

匠作が右手に握った打刀を左腋下へと構え、一気に漆紀目掛けて横一文字に打刀を振るう。

(胸元を切られた時のヤツ!)

一回目の交戦同様に漆紀は後ろに飛び退くが、恐らく避けきれない。漆紀は再び斬られるだろうが、それを承知で匠作の打刀をよく見る。

(刀が……伸びた!?)

ありえない。刀の刀身が伸びる事など有り得ない。しかし漆紀の目には数センチ刀身が伸び、己の胸元を切り裂いた様に見えた。

ほんの一瞬の出来事である。

漆紀は胸元を切られ出血する。

(やっぱりなんかおかしい。とにかく、一旦退いてみるか!)

「せぇッ!!」

匠作は止まる事無く漆紀の命を奪うべくもう一太刀見舞おうと構え直す。出血を気にせず漆紀は匠作に背を見せ全速力で陣から飛び出て逃げる。

「待たぬかぁ!」

(試しに、陣外で出血の末に死んだらどうなるか……また本陣に戻されんのかな)

「待てぇ童ぁ!!」

(やべやべ、フラつく前に撒かなきゃな)

陣中から出て周囲の林へと紛れ込み、林の中を駆けていく。やがて本陣から離れたからか霧が立ち込め始める。

(霧の中だ。よし、この戦場において、この霧の中には誰も入れないんだ。俺以外は……おお、フラついてきた。このまま眠ってりゃ失血で死ぬだろ。そしたらまた、あの本陣に戻されるかどうか……へへ、試してみるか)

漆紀はそのまま地べたに寝転がり、目を瞑って脱力した。

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