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57.忍び寄り、擬態

「茂みに曲者!」

「射かけよ!!」

漆紀はゆっくり時間をかけて本陣真横まで辿り付いたものの、茂みを動く音を察知されてしまう。

10秒足らずで次々に弓兵がこちらに出てくると、位の高そうな侍の指示通りに漆紀へと矢を放ち始める。

(あの侍、良い耳してやがる。さっきの音だけで俺の位置を大体把握しやがって)

無論、何の抵抗もせず射られるわけにもいかず、漆紀は近くの樹木の陰に隠れて矢をやり過す。

(偉そうだけど、あんなところで見張ってるのは大将じゃないな。本陣ど真ん中まで行けるか?)

「弓兵、もっと狙え! 姿は見えんが、まだ曲者はあの辺りの茂みに身を隠しておる!」

「はっ! みなぁ! もっと射かけぇ!!」

弓兵たちの頭と思わしき男が、仲間達にそう言いつつ己も弓に矢をつがえる。

(こんな状況じゃ本陣のど真ん中に行けない)

漆紀の背にする樹木や周辺の木々に矢が「トン」と鈍い音を立てて突き刺さる。

(音が問題なら……いっそ、全裸になればなるべく静かに行けるんじゃないのか?)

今の漆紀は城から安全に出て来るために攻め手側の足軽装備を身に着けている。この装備が茂みに当たったり、移動時に装備同士がぶつかって音が出ているのならば。

(全裸んなれば良いじゃねえか……現代じゃねえんだから、全裸だろうと警察も居ない。こんな足軽の軽い装備じゃ槍やら矢とか当たれば全部大怪我なんだ。全裸と大して変わりゃしない)

そう思い立った漆紀は樹木の陰に隠れたままゆっくりと装備を脱いでいき、しまいには全裸になった。

(これで音が出ない。村雨以外の武器は全部置いてく事になるけど)

欲張っては目的を果たせないと自分に言い聞かせる。

「……曲者、出て来ませんねぇ」

「あほぅが! 本陣に近付く曲者が声を出して出て来るものか!」

弓兵の間の抜けた発言に侍が激怒を見せる。

(ただ屈んで茂みに隠れつつ移動するんじゃまだ足りないな……洋画で見た匍匐前進、見様見真似だけどやってみるか)

自衛隊でもない現代高校生に過ぎない漆紀は、その自覚を持った上で慎重に匍匐の体勢になった。

音を立てない様に村雨を地べたに着かせない程度に低く持ち、なおかつ刀身の反射光で位置がバレないよう自分の体側の陰に隠す。

「……気のせいだったのでは? 曲者なんて本当に居たのですか?」

「わしが間違えたと言いたいのか!!」

「いえ、あまりに人気がなさすぎますし……きっとお疲れなのですよ。殿も、本陣で酒の席に誘っていたではありませぬか」

「確かに兵庫頭(ひょうごのかみ)様率いる我らは官軍。その軍勢はこれほど強大であるが、万が一は捨て置けぬ」

「あの城から抜け出せませぬって。ここは我らが見ておきますゆえ、吉見様も殿の所で一杯飲まれてはいかがか」

「任せてよいのだな? 殊勝なことだ、いいだろう」

吉見と呼ばれた侍は茂みに向けていた刀を納めると、陣立ての中に入っていった。それから数秒経ってから、弓兵の頭が仲間達に言う。

「よし、これでうまく恩を売ったぞ。みな、気ぃ抜きすぎねぇように見張るんだ。どうせ見間違いだ」

「違いねぇなぁ頭」

弓兵たちはそれほどやる気がなく、侍の主張についてまともに取り合うつもりはない様子だ。

(いつの時代もご機嫌とってから怠慢決めるヤツらが居るのは変わらないんだなぁ)

全裸のままそう思った漆紀は、そのまま慎重に茂みを移動し続けた。

____________________


本陣の真後ろにまでやって来ると、陣立ての幕がもうすぐそばにあった。

(やっと着いた……茂みから出て、突っ込むか?)

いざ本陣を前にしたが、全裸のまま本当に突入して良いものかと頭を悩ませる。本陣に近付くために城内の足軽から奪った装備は全て捨ててしまった。

(村雨一本でいけるものか……ん?)

ふと本陣の幕から、足軽が一人そそくさと出て来る。

(なんだアイツ……おいおい、こっちに来るな!)

足軽は漆紀の居る茂みの近くまで来ると、おもむろに陰部の直垂とふんどしをずらして放尿を始めた。

(小便かよ。ん、待て? コイツの装備……盗っちまうか)

せめて大将首までは戦わずに近付きたい。今、眼前の茂みで小便しているのは本陣を守る足軽であろうから、そこいらの足軽と違って大将により一層近付けるだろう。

(それっ!)

茂みから起き上がると、放尿したまま目を点にする足軽の喉辺りを村雨ですばやく切り裂いた。

「かっ……ごへっ……」

(黙れ!)

足軽兵の首掴んで茂みに引きずり込むと、なるべく血が装備に着かないように切り傷を地面に向ける。そして息絶えるまで首を絞め付け、足軽兵は一切暴れなくなった。

(斬って殺すのは慣れたけど……直接首絞めて、もがいてるの見ると……嫌な感じだ。ぞわっとする)

斬るのとは違い、首を絞めて殺めるのは暴力の方向性が違う。刀はあくまでも道具で人を殺しているのだ。それとは違い、己の体で直接相手を殺すのは嫌な感触である。

(殺っちまったからにはやりきるんだ。こいつの装備を早く着なきゃ)

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