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56.本陣へ

再び初期位置に戻された漆紀は土堀近くの足軽兵を斬り殺すなり、死体を背負って霧の平野へと逃げた。途中で矢を射かけられたが、それらは死体に刺さるだけで漆紀には届かなかった。

(こいつら足軽の装備を奪って着れば、どっちかの勢力が味方になる。そしたら大将首にもっと近付けるはずだ)

足軽の身に着けている笠や軽い具足を奪って、どうにか着てみる。現代の服とは全く違うため、身に着け方はフィーリングでやるしかなかった。

(とりあえずなんでも紐で縛って身に着ける感じなんだな……よし、これで一応足軽の姿だな)

足軽の装備を身に着けると、漆紀は霧の平野から元来た道を行き戦場へと戻る。土堀を駆け上がる最中、高台から弓兵が射ようとしてくる。

すぐさま弓兵には見えない角度の所に飛び込み、もう一度考え直す。

(城から降りたはいいけど、せっかく装備奪ったのに登れねぇ。クソ、こうなりゃ槍を投げてみっか?)

漆紀は足軽から奪った長槍を村雨を使って半分に折り、投げやすい長さに調整する。

(これで弓兵にぶん投げる。角度的にあっちが上だから、少し上を狙わないと……よし、出るか!)

弓兵に見える場所まで出ると、漆紀は先程の弓兵目掛けて槍を投げた。

槍は漆紀の目論見通り、弓兵の腹へと深々と刺さった。

(やっぱり上の敵には、その敵よりちょっと上目掛けて投げないとな。よし、これで登れる。なんでも、なんでも使って……そのなんでもも、最適の答えを選んで戦わなきゃ)

_______________________


弓矢を始めて3週間目。

近寄る敵は文字通り「なんでも」使って返り討ちにしつつ、離れた位置の侍目掛けて矢を射かけ続けていた。

狙い通り侍に当たることもあるが、足軽兵や地面に刺さること、それぞれ半々の結果である。

半々だとしても侍に狙い通り当たるのは大きな成長である。

(半々じゃまだ博打が過ぎる。確実性が必要なんだ、絶対に侍を仕留めるって確実性が……弓は槍投げより遠くを狙えるし安全だけど、決定打になる遠距離攻撃はやっぱり槍投げか)

安全性を確保した上で命中率の事まで考えると、漆紀の中では槍投げこそ敵を仕留める確実性があると思い始めていた。

(そろそろ試してみても良いかもな。敵の大将まで、どれだけ近付けるか。どこまで敵を倒して進められるか……)

少なくとも、最初の頃に戦場に放り出されたばかりの漆紀より強くなっている。なんでも利用し、そのなんでもの中で最適解を選んで実行するのは強くなっている証拠だ。

足軽には小手先を、侍には吐瀉物などの小手先のみならず不意打ちや一撃必殺の槍投げを。

弓で矢を射る時、接近してくる敵への迎撃が間に合わない場合は矢をそのまま掴み敵の喉元に突き刺す。

そう、なんでもやる戦い方。

そうでなければ、ムラサメが放り込んだこの戦場から逃れる事は出来ないだろう。

(俺が弱いからって、こんな24時間戦う場所に送り込むって……ムラサメはどうかしてる)

夜露死苦隊との戦いで瀕死に陥ったとはいえ、そんなどうかしているムラサメと契約を結んでしまったのは他ならぬ漆紀自身である。

ふと、父・宗一がムラサメに関して苦言を呈していたことを思い出す。宗一は「ワケあり」だ、「地雷だ」、「なにかある」などと、ムラサメと契約してしまった漆紀について憂慮していた。

(こういう事かよ、父さんがあんなにムラサメを不安がってた理由って。それならなんで昔……俺にこの首飾りをくれたんだ? 父さんは最初、こいつにはムラサメって精霊が居るって知らなかったのかよ)

宗一が死んだいま、その真偽は定かではない。しかし鉄塊の首飾りに宿るムラサメについては隠してたというよりは、得体の知れないものへ警戒していた様子だったと漆紀は思う。

(父さんは悪気なく本当にお守りのつもりでコイツをくれたんだよな……とにかく今はムラサメが言ってた通り、大将を討てるようになんねぇと)

_______________________


「邪魔だぁ!」

槍投げ、弓矢、一通り我流で練習した漆紀は大将首を目指すべく城外の敵の本陣を目指す。城門という物理的に越えにくい上に敵が多くいる場所を突破するよりかは、敵の多さは変わらないが城壁のない外の本陣へ向かう方が楽だと感じたのだ。

戦は攻める側と守る側で行われる。その攻め手の陣を探すべく、戦繰り広げられる城内を下っていって大手門を目指す。

(城って大手門ってとこから大体入るんだろ? なら、このまま城の下り坂をどんどん下って行けば、攻撃側の本陣に行けるかもしれねぇ)

そう仮定し走り抜けると、門に辿り着いた。門でも戦闘が未だに繰り広げられており、足軽と侍が入り乱れる乱戦状態が続いていた。

(この門から出て、本陣を目指せばいい)

姿勢を低くして乱戦の中を駆け抜け、敵の目に付いて狙われないように進む。

無事に門を抜けると、城外から離れた位置に陣立てが見えた。本陣と思われる陣立ては川を越えた先にあった。陣立てと城門の距離感からすれば、陣立ても他の城外と同じく濃霧に覆われていなければ本来おかしいのだ。

それどころか陣立てと城までの直線距離には霧が一切立ち込めておらず、その直線を逸れると霧があるという不自然な状態。

攻め手の陣立てだけが霧に覆われず城門から見えるようになっている事に、漆紀は何らかの意図を感じた。

(霧で覆ってないってのは、そこで戦う事に意味があるはずなんだ。ムラサメの言ってた将ってのは、あの陣にいるのかも)

ようやく戦場から脱出出来るかもしれない希望を見つけ、漆紀は思わず笑みを浮かべた。

(だがまだだ。あの本陣まで行って、大将殺さなきゃな)

足軽兵と侍が警備する本陣をたった一人で真正面から行くのは愚策であるし、魔法も使えない状態ではそんな事は不可能である。

あるのは己の体と、戦場と、最初から右手にあったムラサメだ。

(まずは本陣の奴らにバレないように大手門の橋を渡って、そこいらの茂みに隠れつつ本陣へ迫ってみっか)

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