5.強襲、拉致! 行先は?
二日後。
午後3時12分。
漆紀はICCのオフ会に行くべく街を歩いていた。この日は高校で会議がある影響で生徒達は5限目の授業までで全員帰される事となっていた。
先日、平野小太郎が大量の発信機を売り飛ばして纏まった金を手に入れた。だが、平野小太郎は気前よくそれを使ってオフ会をやろうと言うのだ。
そもそも実生活での知り合い同士で行うパーティーなのだからオフ会の定義に当てはまらないが、小太郎はオフ会と題してICCの仲間達に連絡をした。七海は深く考えず喜んだが、他のICCの陰キャ達はタダ飯食えれると乞食根性で来るのが大半である。
かくいう漆紀も乞食根性もあるが、仲間達との付き合いも鑑みてオフ会へ行くつもりだった。
ひとまず自宅に戻って私服に着替えてからオフ会へ行くつもりであった。武蔵多摩高校の最寄り駅である西立川駅で電車に乗り、20分ほど揺られて武蔵砂川駅で降りる。
改札口から出て駅前のロータリーを抜けて黙々と歩き始めるが、漆紀は違和感を感じる。
(なんか嫌な予感が……違和感?)
ふと後ろを振り向くが、後方にはロータリーと駅とコンビニがあるだけ。通行人は居るが、漆紀を注視する人物は見受けられない。
漆紀は武蔵村山市周辺が生活圏ゆえ、場所と時間帯による人の増減があれば敏感に気付く。それは地元民ゆえの感覚であった。
(夜露死苦隊や萩原組はもう崩壊した。俺が気にしすぎか……いや、気は張れ。俺は何人も殺してるようなクソ野郎なんだ、知らない所で俺を狙ってる殺意マックスなヤツが居たっておかしくないだろうが!)
そう改めて気を引き締めると、再び帰路を歩き始める。数秒すると、先程感じていた不穏な空気感をまた感じ始める。
黙々と歩いて交差点を左に曲がって歩き、コインパーキングに差し掛かる。
(気にしすぎ、頭おかしい人みたいだぞ……いや、頭おかしいか。おかしくなきゃ夜露死苦隊とあんな戦いにまで発展しないしな。フツーの高校生ぶってんじゃねえよ異常者が)
自分の行いを一挙手一動ごとに思い出して自虐し続けうんざりするが、嫌気が頭を鈍らせたところで変化が起きた。
漆紀の正面6m先、自販機の物陰から見覚えのある少女が出て来た。
「竜蛇……何の用だ。学校外で会いに待ち伏せって、絶対なんかワケありだろ」
漆紀の嫌な予感は当たった。先日、高校の昼休み中に佐渡流竜理教の説教をしていた竜蛇彩那が居た。それも深刻そうな暗い表情で立っていた。
「私、辰上君に特別な用事がありまして。お話、聞いてくれませんか?」
「竜理教ってカルトだろ? 悪いがそういうのはお断りだ」
漆紀が立ち去ろうとするが、彩那はそれを引き留めるべく立ち塞がり続ける。
「信者になって下さいとかじゃないんです! 便利屋さん、でしたよね。私の依頼、聞いてくれませんか?」
「事務所に電話してくれ。電話番号教えるから」
「今聞いて欲しいんです! お願いしますよ、辰上君」
竜理教の者という事で抵抗感はあるが、それでも彩那ほど容姿の良い同年代の女子に両肩を掴まれてそう訴えかけられると、漆紀は驚いて気が散ってしまう。
「おい、ちょっと! 掴むな掴むな! わかったから落ち着け、俺は……」
その時、漆紀の言葉は遮られた。漆紀の真後ろから、何者かが素早く漆紀の首筋に腕を回して首を絞めつけ始めた。
「ぐ!?」
背後の曲者は漆紀の口元を手で覆いつつも、決して侮れぬ腕の筋力を発揮して首を絞めつけて来る。
漆紀はすぐさまムラサメを呼んで取り出そうとするが、彩那は素早く懐からニッパーを取り出して鉄塊の首飾りのチェーン部分を断ち切り、鉄塊を奪い取る。
「暴れないでください辰上君、お願いだから。私はあなたを迎えに来ました」
「がっ、げっ……げっ……」
息が苦しい。首飾り、というより鉄塊がなければムラサメに声をかけて村雨を取り出すことが出来ないのだ。
得意の嘔吐攻撃で隙を作りたいが、首を絞められているのだ。自分の口に手を入れて吐こうものならば、より一層気道が塞がれるため自殺行為なのだ。
(まずい! ムラサメを呼べねえし、これじゃ死ぬ!)
彩那と背後の人物とは別のもう一人の仲間の男が、力づくで漆紀の両腕を掴んで引き寄せ両手首を縄で縛ってしまう。すると背後の者は漆紀の口にタオルを何枚も強く巻いて縛り、声が出せないようにする。
「この首飾りがマジックアイテムらしく感じましたが……予感通りです。これで辰上君は無力化できましたね。お二人とも、辰上君を車に」
両腕を封じて無力化できたと判断したのか、背後の者は漆紀が呼吸出来る程度に首を絞める力を緩めた。
(俺を拉致る気か!? ムラサメを呼べなきゃ逃げられない。てか、なんでこいつらは俺の首飾りを……魔法を知ってる連中なのか!? 父さんの言ってた、竜理教の魔法使い?)
漆紀はあれこれ考えるが、憶測の域を出ない。彩那達は人目につく前にと、漆紀を拘束したままコインパーキングに力づくで連れ込みそのまま黒いバンのドアを開けて乗車させる。
漆紀は後部座席に乗せられ、彩那は漆紀の隣の後部座席に座る。
「んー!! ん~~ッ!!」
タオルを口に巻かれては声が広がらない。遂にはドアを閉められ、このままでは拉致されてしまう。漆紀の背後を取っていた20代ほどの男は助手席に座り、携帯電話を操作し始めた。
「ああ、これでようやく……茂田さん、車を出して下さい。竜王様を竜脈に連れて行きましょう」
「勿論ですとも司教様」
漆紀の両腕を縛った40代ほどの男が運転席に座ると、車を発進させた。
(こいつら俺をどこに連れてく気だ!? 竜理教なのか? どこだよ、俺に何をする気だ! 夜露死苦隊と萩原組が関係ないなら、一体なんで俺を……全く目的が見えてこねぇ!!)
ワケもわからぬまま、漆紀はどこかへと連れ去られていく。




